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TOP > ACCの活動 > イベント > ACC 2018クリエイティブセッション ~進化をつづけるクリエイティブ~ 「あの人とあの人とあの人×55分3本勝負」 開催レポート

SESSION.3

【モデレーター】

澤本 嘉光 氏
電通

<プロフィール>
1966年、長崎市生まれ。1990年、東京大学文学部国文科卒業、電通に入社。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・ チョ!」、家庭教師のトライ「ハイジ」など次々と話題のテレビCMを制作し、乃木坂46、T.M.RevolutionなどのPV等も制作している。著書に小説「おとうさんは同級生」、小説「犬と私の 10の約束」(ペンネーム=サイトウアカリ。映画脚本も担当。)映画「ジャッジ!」の原作脚本。東方神起などの作詞も担当している。

【パネリスト】

嶋 浩一郎 氏
博報堂ケトル

<プロフィール>
93年博報堂入社。コーポレートコミュニケーション局で企業の情報戦略にたずさわる。01年朝日新聞社に出向。スターバックスコーヒー等で発売された「SEVEN」編集ディレクター。02-04年博報堂刊「広告」編集長。04年本屋大賞設立に参画。現在もNPO本屋大賞実行委員会理事として「本屋大賞」の運営を行う。06年博報堂ケトル設立。統合キャンペーンを多数手がけると同時に、雑誌「ケトル」編集長などコンテンツビジネスも展開。12年ブックコーディネータ内沼晋太郎と下北沢に本屋B&Bを開業。

中島 信也 氏
東北新社

<プロフィール>
1959年福岡県生まれ大阪育ち。武蔵野美術大学卒。多くのCMの演出を手がける一方で東北新社取締役を務める。’83「ナショナル換気扇」で演出デビュー。
数々のCM賞を受賞。
2015年~文化放送「なかじましんや 土曜の穴」パーソナリティー。

【進行】

澤本: セッション3では僕がモデレーターとなっていますが、どう考えても中島さんが向いているので交代させていただきます。笑

中島: 久しぶりにクリエイターとして呼ばれたのですが、結局回すのは俺がいいかとなりました。今回電通のAIコピーライターを使って、問題提起をしてもらったんですよ。嶋さん、お願いします。

注)実際は、AIコピーライターではなく御三方が考えました。

嶋:  今回、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSで、澤本さんがフィルム部門、僕がラジオCM部門の審査をしたんですけど、その審査を通じて「こうしたほうがいいのでは」という問題をAIで抽出してみました。以下、読み上げたいと思います。

「ラジオ制作者はもっと聴き手を信頼していいのではないか問題。特に、若手!」

「ネットの動画って尺に制限はないけど、それって表現にとっていいことなのか問題。」

中島: よくないね。

「CMの企画がストップウォッチで秒数計ってないものもってきていないか問題」。

中島: 昔から、佐藤雅彦さんは厳密に計ってたね。

「クリエイティブのこれからの働き方をどう考えていくか問題」

中島: これ、来てる人みんな頭の中で引っかかってる。置いときたいけども置いといてはいけない問題のうちのひとつですかね。

「ラジオで電通の若手がアンダー29でみせた技がすごいんですけど問題」

中島: 何か注射を打ってるんですかね。

「ACCもなんだか賞が多くなりすぎて薄まってきてないか?問題」

中島: ……あるよね。

「ネットで見つけた写真1枚を貼り付けて数行のセリフを書いてCMと言い張っていないか問題」

中島: 昔からこういう企画ね、〇〇書房で洋書を買ってきて、カラーのコピーして切り張りして。今もあるんだね。

「クライアントとクリエイティブがもっと愛し合う時代がくるのか問題」

中島: 働き方の問題とすごく重要に関係していますね。愛しか救わないですね、世界は。

「ハンサムなCMクリエイターが減ってきてないか問題」

中島: これはすごく減ってるんですよ。やっぱりイケてる業界にイケてる男の子は行くんです。イケてる業界にイケてる女の子も行くんですね。だんだん顔が劣化していっているということなんで。

「今若手CM演出家はなにやってんだ!?問題」

中島: これはね、自分で編集してるんですよ。自分でプレゼンビデオ作って自分で編集して、自分で納得いって自分で満足してるんですよ。これがまたクオリティ高い…まあいいですわ。

「やっぱネットだけじゃだめで、ラジオ・テレビのCMだ!はほんとか?問題」

中島: はははおもしろいね、AIってこんなこと考えてるんだ。どうなんだろうね。

「AIスピーカーが普及するとラジオの聴かれ方が変わるんじゃないか問題」

中島: ところでセッション2の安宅さんの話を聞いていて、僕らの世界は狭いねと思いました。テレビ・ラジオという放送メディアが全方位を押さえていたから、そこだけ特化していればよかったということもあるんですけど、僕たちってすごく井の中の蛙で来た業界だったなと思うんです。なので、他のジャンルの話をきくとビックリして何も言えなくなる。「狭かったなー」と口を開けて聞いているだけ。これが今日の結論ではないでしょうか。

嶋:  (笑)狭い中でも、どれだけクリエイティブを発揮できるかみたいな話を。

中島: 安宅さんレベルの求めるクリエイティブは、こんな狭い中で、シコシコ絵コンテ描いてきた人たちを言うんじゃないんですよ。おかしいと思っててんな。僕が美大に通っている頃、イギリスの美術大学ではポスターの練習もしないでわけのわからんことやってたのよ。とにかく人が考えないようなことをどんどん考える練習がされていた。小学生くらいから頭柔らかくしてきてる人たちが、安宅さんの求めるようなクリエイター。僕らは職人的なクリエイティブを進めてきたので、「AI時代になって人間のやることはもうクリエイティブしかないよ」と言われたときに、自分を当てはめて「そうだよな、俺だよな」とは言いにくい。

澤本: まあ狭いと言えば狭いんですけど。僕らから見ると、まったく今まで広告とは関係ないと思っていた人たちが関係してきてくれている。よく言えば、今まで僕たちがわからなかったことを広告にできる、ある種チャンスかなと思っています。ただ理屈がまったくわからないことがあるから、そこは学ぶか、ある程度話しながらやっていく。つまり、自分で全部完結できないようになっているのかなとは思います。

中島: 学習しながらやっていくということやね。

澤本: 自分ですべてのことは把握しきれないので、ちゃんと把握している人に「こういうことができますかね」と相談する。その方が、自分が持っていることよりたくさんのことができるかなと。

中島: 新しいテクノロジーを持っている人に、相談しながらやっていくと。それにしてもすごいよね、最近のテクノロジーを持っている人たち。今はメディアアートとかあって、アートとエンジニアリングが仲良くなっているじゃないですか。そういうおもしろさが広告にも表れてきているのかな。

嶋:  僕は最初PR局にいたので、どちらかというと広告以外のことでどうやって世の中を動かすかということをひたすらやっていました。今は統合マーケティングが当たり前になっていますけど、15秒でちゃんと作る技術を持っている人と一緒にやったらおもしろいだろうなと思ってました。

中島: そうですよね。それでね、今この業界で、個人が名を成していくことに対しての欲望ってどうなっているんでしょうか。例えばディレクターとして有名になってベンツに乗る、みたいな煩悩はあるのかな。

嶋:  あるんじゃないですか。

中島: いや、うちの息子は僕の子どものくせにカンヌの金銀銅を持ってるんですよ。彼はARディレクターとしてチームに入ってるんです。でも、ARディレクターとして一人前になっていくという道筋を描いているとは思えないんですよ。ヤングたちが異業種間のチーム力で新しい表現を生み出していっていますが、その中で「これは俺が」というのはどうなっているのかな。

嶋:  うちの会社の若い子たちを見ていると、あるプロジェクトは建築家とやっていたり、あるプロジェクトはファッションデザイナーとやっていたり、いろんな職能を持った人たちがプロジェクトごとにユニットを組み上げている。そういう働き方はどんどん進んでいく感じがします。

中島: その時に、「俺」はいったいどうなるのやろ。「俺が目立ちたい」とか。昔は結構いたんですよ、みんなでつくった作品やのに「俺が作った」って言って。そういうの当たり前だったんですよ。「俺がなんとかしないと、俺が幸せになれない」という。幸せが変わり始めてんの?

澤本: すごい根源的な話になってるな、どうしようかな。

嶋:  モチベーションそのものの話ですね。この業界で働く人たちが何にモチベーションを持つかということですね。世の中IOT化が進んで、いろんな機能やチームがコネクトしていくじゃないですか。そうすると、チームの一員であることに喜びを覚えるようになるんじゃないですかね。

澤本: 何がしたくてクリエイティブに入ってきたのか、元々のモチベーションですよね。僕や僕の周囲の年代の人は、可能なら全部自分でやりたいくらいでしたよね。企画もするし、セリフも自分で書きたいし、なんなら演出もしたい。自分が表現したいものを、テレビCMという場を借りて、映画とかほかでできないものをここで表現しようという意識が強かった。だから参加するというより、表現物を作るということが一番幸せだったんですよね。僕はそれが今でも大事だと思っています。

中島: 例えば広告プランナーでこの業界に入ってきたとして、どういう風な鍛錬を積んでいけばいいのだろう。それとも鍛錬を積まずに、とにかくプロジェクトに自分を捧げればいいのかな。僕らって「これを練習せなあかん」といっぱい素振りをやってきたのだけど、うちの息子もそうだけど全然素振りやってないからな。打席にだけ立ちよるからね。

澤本: 僕が教えられることは、表現物をどういう風に上達させられるかですよね。その素振りの仕方、ランニングの仕方を教えられる。それができないと、その先のことはできないんじゃないかと思います。例えばチームで打ち合わせをするとして、自分である種のプロだと言い張れるところがなければきちんと発言できないと思う。集合知の一部としてだけ参加していると、いくつかのアイデアの中の、ある部分だけとなる。すると自分が関わった制作物の、どこを自分が担当したというのがなくなっていく。それはむしろ、全体の損だと思います。だからみんなに言っているのは、ある部分のプロになった方がいいということ。スポーツなら、例えば野球のプロになる前にいろんな競技をやらされてどのプロにもなっていない、というのはもったいない。ことCMや動画に関して言うと、人は作戦ではなくて、その中にある表現とか言葉に引っかかってくるじゃないですか。作戦は正しいけど制作物としてそこそこのものだけでは、作戦80点に制作5点とかになっちゃう。

嶋:  すごくわかります。博報堂ケトルは統合型キャンペーンで、CMもイベントもデジタルコンテンツも作るディレクターがいる会社ですが、ちゃんとPRならPR、クリエイティブならクリエイティブで素振りをしてきている。それで今、澤本さんのおっしゃった作戦をちゃんと引っかかりのあるアウトプットにできているんだと思います。それは、アクティベーションでもデジタル表現でも、どの領域でもいいと思うんですけど。できるようになった人じゃないと横展開していくのは難しいと思います。

中島: 人は作戦ではなく、表現された言葉や映像に引っかかると。ラジオCM部門でゴールドを獲ったトモエシステムの「ボンコバラトモエさんシリーズ」は、作戦では思いつかないもんね。あのCMは、ボンコバラやんな。AIでも、考えられるのかな。セキガハラじゃダメやったと思うのね。ボンコバラとセキガハラの違いが、人類のこれからの希望やね。

嶋:  日常見ていることを、作戦に逆上がりできる能力が大事ですよね。この表現はこの作戦に使える、という。

中島: 出してみて、スベる経験ってあるじゃないですか。そういうダメな経験を重ねるのもムダなことではないですよね。そういうところで「人はこういうことに心を動かすんだ」という、ちょっとしたチャームというか、エッセンスを見出す練習ができる。それはまた戦略とは違うよね。

澤本: そうですね。クリエイターという概念自体が、僕らが会社に入った時と今とではもう違っています。僕は制作というのは、仏像を彫るように実際に手を動かして何かを作ることが、クリエイティブと思っていたけれども今は違う。ストラテジーを立てるだけでもクリエイターだし、実際に物を作っていなくても表彰されてしかるべきだと思いますよ。僕は、物を作るということだけがクリエイティブだった過去にすがって生きていくけれど、それこそ僕らの知らないようないい物が、相談しながら作っていくとできると言うなら、その方々もクリエイティブだし。クリエイターと名乗る人の範囲が広がって曖昧になっています。ただ、どこかに関与していく時には、何かしらのプロであることが重要だと思っています。

中島: それはそうやね。嶋さんもCM以外のことをしていた時、作戦だけではできないでしょ?

嶋:  うちの会社にも、もともとストプラやアクティベーション出身のCDがいるのですが、どんな形のアウトプットでも、ちゃんとその領域の中で人に引っかかることができていたんですね。その領域でできてるということは、ある「勘」があるということでCMやイベントとか横展開もできる。さらにテクノロジーやビッグデータといった人たちも包含して、企画を作ってくれるようになっていますね。

中島: 「勘」ですね。勘を磨くということ。

澤本: 失敗をいっぱいしてきたから、「これはヘタを打つ」「打たない」がわかってくるんですよね。僕らもものすごい数の失敗をして学んでいるから、失敗の確率が減っていくということ。今、失敗を許せない世の中になっているじゃないですか。僕が会社に入った頃は、ラジオは失敗する場だったんですよ。ラジオの仕事がいっぱいあって、とりあえずいっぱい作っておいてと言われて。試して、ダメだとかこれはいいというのをラジオで学んだ。その経験値をテレビに持ってきてうまくやるという流れだったんですよね。今はラジオの仕事がすごく減ってしまっています。ラジオはメディアとして古いなんて言われていますけど、年次が若い時になるべくラジオCMをたくさん作って、感覚をつかんで他のところに転換していく、という流れをあげたほうがいいんじゃないかな。

嶋:  ラジオのCMをちゃんと作れる人は、人をどう動かすか、人がどう感じるか、という勘が養われますよね。せっかくなのでAIが抽出してくれた問題を……もう時間がありませんが(笑)。

「ラジオ制作者はもっと聴き手を信頼していいのではないか問題。とくに、若手!」

嶋:  ラジオを聴いている人は、テレビ以上に熱心に放送を聴いているんです。リスナーが一生懸命聴いていることとか、リスナーの想像力をもっと信用していいんですよね。若手が作ったものは、全部説明してしまっていて解像度がすごい高いCMになっている。もっと余白があった方がリスナーは気持ちいいのになって思ったんですよ。

澤本: 聴いたことがないものを作ろうとしている感じが、すごくありました。過去の名作を聴いていれば何かしらの型がわかるのだけど。

嶋:  クライアントさんもラジオを聴いてない問題もありますよね。前にアンダー29を受賞した若手に「どうやって企画通したの」って聞いたら、過去のACCの受賞作を得意先と一緒に聴いたって言うんですよ。これはとてもいいことだと思います。

中島: 白土謙二さんが「いいクライアントはつくる時代」っておっしゃってましたね。

澤本: 僕も若いプランナーに、クライアントにいいCMの例を聴かせた方がいいと話してるんです。同じ判断基準を持たないとわからない。広報部や宣伝部にいる人が、その道のプロフェッショナルだけではなく短期間だけという場合もありますから。いいものがどういうものかわかってもらって、ある種共犯にするというか。せっかくだからいいものを作りましょうと提案することは大事ですね。

中島: 「やっぱネットだけじゃだめで、ラジオ・テレビのCMだ!はほんとか?問題」というのもありましたね。僕ら周辺ではおもしろいことが起こっていて、いつかはテレビをしたいというのが若い映像ディレクターのひとつの目標になっているのね。誰も見てないなんて言われていても、テレビには不思議と何かあるで。

澤本: ある放送局から電波を出したら、受信して聴けるという優れた放送システムがありますと。それがラジオ。テレビはさらに、そこに画像がついていますと。短期間になるべく不特定多数の人にメッセージを届けるシステムとして、テレビに勝るものはないじゃないですか。このシステムの利用方法としてCMがあるわけですけど、方法を考えていけばもっといろんなことができる。もっと使いようがあるのに、ある種僕らがあきらめていたり、慣れてしまっているから、慣れたシステムの中で運用してしまっているというのはあります。
テレビとウェブで言うと、ウェブは再生回数を増やすために極端なことをしがちだけど、テレビはただ路線バスに乗ってるだけだったり、池の水抜くだけで見ちゃうわけです。それウェブだと見ないでしょ。テレビに向いているものはあるし、少なくともシステムとしてはテレビは生き延びる。テレビCMがまったく効かないとはならないだろうし、ただし、効くような使い方をどうすればいいか、本当に15秒でたくさん流すのが効果的なのかとか、そういうことを探していかなければいけないと思います。AIが進んで流し方がある程度委ねられて、番組や表現とマッチングすると、もっといいことが起こるような気がします。

嶋:  能動的に取りに行く情報はもちろん価値がありますけど、テレビのように偶然見る情報の大事さが最近軽んじているような。

中島: 雑誌なんかもそうだよね。今学生の間でミニコミ誌が盛り上がってるんですよ。イベントなんかで、紙の方が偶然見てもらえると。“出会いがしら”があるって。どうやろう、テレビ・ラジオという言い方を変えて、「メガ画像送出システム」「メガ音声送出システム」とするのは。広告キャンペーンで提案する時に、ヤングやいろんなジャンルの人から「ああ中島さんテレビの人だから」って疎まれないように。「じゃあメガ送出システム、使う?」みたいにフラットに置けば。僕たちもCMディレクターとか言わないで、ユーチューバーみたいに「シーエマー」とか言って。

嶋:  いいですね。シーエマーは、15秒でつくる訓練を何度も何度もやってる編集スキルがある。

澤本: 名刺に書いてあるのやだな(笑)

中島: では働き方の問題についてこれから2時間かけてお話ししたいと思いますけれども、今日は時間がなくなってしまいました。これにて終了とさせていただきます。