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町にサインペイントが広がれば

―日本の看板やOOHはほとんどが手描きではなくタイポの印刷や切り抜きですが、それにどんな印象を受けましたか?

 タイポが多いという印象以上に、日本語自体がおもしろいと感じています。今回日本に来た友人たちも、普段は彼らが見ないようなのれんであったり、パッケージデザインであったり、街の風景をおもしろく感じてSNSに上げているようです。自分が来日したての時もそうでした。
 そして今、日本でもサインペイントの認識が徐々に広がっているのを感じます。ほかの国では町なかの店頭を地元のペインターが手掛けていて、日本でも気軽に、身近にいるサインペインターに手描きを発注していくような文化ができればと思います。大手のパンメーカーがあっても町の小さなパン屋さんが人気なように、そのお店ごとのよさをみんなが楽しんでいるように、手書きのよさが分かってもらえてサインペインターの仕事が町に広がってくれたら、と。実現すれば、その地域や町ごとの雰囲気が変わると思うんです。サインペイントと町のそんな関わり合いができたらおもしろい。
 Letterheadsにビギナーを迎えるのも、私が初心者向けのワークショップを開くのも、技術を伝えたいというところが大きいけれども、認識を広めるきっかけにもなっていると思います。

―サインペイントとタイポの本質的な違いは何でしょう。

 そのふたつが並んでいたら、受ける印象が違いますよね。見た後の記憶が残るのはサインペイントで、それは手書きには人の温かさと、書き手の思いがのるから。タイポのステッカーは完璧ですが、人の温かさを感じるのは難しい。元は手書きのものをプリントしたとしても、やはり受ける印象は違うんです。プリントとなると料金的な問題などで、使える色に制限が出ることもある。同じ絵でも、プリントすると安っぽく見えたりもします。
もちろんステッカーが悪いというわけではなくて、大量に必要ならばステッカーが適しています。ただ、大量ではないなら、温かみを求めるなら、表現に制限を設けたくないのなら、サインペイントが手段として適しています。塗料もさまざまで、金箔をはったり、ガラスにのせたりと多様な表現が可能です。ステッカーの金色と、金箔とでは見え方がまったく違う。用途によって、ステッカーもサインペイントも選べるように、選択肢の中にサインペイントが普通に入ってくるように浸透したらいいなと思います。
 ここに以前オークションで手に入れた、日本の古いスクラップブックがあります。手書きからおこされた商標や新聞広告がおもしろい。これがもしパソコンで描かれたフォントだったとしたら、時を経てこういう感動があるかというと、ないかもしれない。

オークションで落札したというスクラップブックには、
古い日本の商標や広告の切り抜きがいっぱい。
三色刷りがお気に入りなのだそうだ。

日本にいる理由

―日本の文字についてどう思いますか? 漢字・カタカナ・平仮名と、アルファベットよりはるかに量が多いですね。同じサインペイントのスタイルで書き切ることは可能なのでしょうか?

 サインペイントには、先に文字の形を決めて下書きして写す方法と、ラインを二本引いてその間にフリーハンドで書いて行く方法があります。私が日本語を使うとなると、フォントを参考にして書くことになります。私には、フリーハンドでは描けませんから。その点で日本語と英語のやり方の違いはありますね。
 仕事の内容としても、このデザインを描いてくださいと言われて描くだけの仕事もあれば、文字の内容でデザインからしてくださいと言われることもある。書体を提案したり、それをロゴにしたり。ロゴデザインを渡して印刷してもらうこともあれば、それを店頭にサインペイントすることもあります。

―ロゴを起こす仕事は、ピーターさんがグラフィックデザイナーでもあるからできる仕事ですね。

そうですね。ただ、自分の仕事を一言で表せないし、表したいとも思っていません。カリグラフィー、レタリング、グラフィックデザイン、サインペインティングと、文字にまつわることをいろんな形でやっています。

―フリーハンドと言うと、日本で書道についてはどう思いますか?

 素敵だなと思って何度かチャレンジしましたが、やはり日本人が目にして育ってきたようなベースがないので難しい。同じように書くことはできても、バランス感が異なってきて、きれいにはいかない。自分のしていることとはまったく違うものだなあと思います。インスピレーションは受けますが。

―日本に来たのは、新たなインスピレーションを受けるため?

 大学時代に、ほかの国で生活していた経験があって、地元だけに留まっているのは範囲が狭いなと感じていました。地元は小さな町なのでやれることも限られる。ネットで仕事を受けることはできるけど、より新しい環境に興味をひかれました。日本には何度か遊びに来ていて、まったく違うカルチャーに入ってみるのもおもしろいかなと。ヨーロッパはだいたいどこでも車で簡単に行けたし、地元とそんなに違いません。私はマルメ出身ですが、横浜に行くような感覚でロンドンに行けますからね。せっかくならまったく違うカルチャーにと思い、まずは1年語学留学も兼ねてやってきました。こんなに長くいると思いませんでしたが。

―今後、広告に関わりたいという気持ちはありますか?

 手描きを広めるひとつの方法として、広告にも興味を持っています。私がデザインした手描きのものをプリントするとしても、最初のところで手描きで関われればおもしろい。ジャンルの違う経験、新しいことを経験する機会は貴重です。
 挑戦してみたいのは、大きな壁に描くこと。ヨーロッパなどでは建物の壁自体に大きく描く文化があって、それが町に変化をもたらすこともあります。町の雰囲気を変え、それを見に来る人で地域が活性化します。最近では日本でも、天王洲などで行われていますね。今後、こういったカルチャーが広がればいいなと思っています。

インタビュアー:丸山 顕
執筆協力:矢島 史
photo:川面 健吾
Letterboy

Letterboy
スウェーデン出身で、現在東京を中心に活動するグラフィックデザイナー、ハンドレタリング・サインペインティングアーティストのLetterboy。
東京や大阪、スウェーデン、オーストラリアなど世界各国で、カリグラフィー・ハンドレタリングのワークショップを開催し、様々なブランドのロゴ制作や、デザイン提供・ウィンドウへのサインペインティングなど、文字にまつわる様々な手法で活動を行っている。

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