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Vol.13

炎上は悪いこととは限らない

―気をつけているつもりでも炎上してしまう例もありますね。ものづくりをする人はどうアンテナを張っているべきなのでしょう。

 炎上は悪いこととは限らないと感じています。見ている人が疑問に感じたことについて、声を上げられるようになったのはいい変化。「これはおかしい」と思えるセンサーを持つ人が増えてきたということだし、議論が起こることによって今までそこに関心のなかった人に考えてもらえるきっかけになります。世論を見ることで、自分の価値観はどうなんだろうと確立していく手だてになります。「共感できるな」「なんで炎上したのかわからない」と各々が思いを再確認することで、多くの人の価値観がブラッシュアップされていく。

 炎上した会社はオワリではなくて、そのあとの姿勢だと思うんです。炎上したからその広告を取り下げて、「ほとぼりが冷めるのを待ちます、公式ツイッターも更新しません」みたいになると企業は進化せず置いてけぼりになってしまいます。そこで上がった声に耳を傾けて、「なるほどこの表現がステレオタイプを強化してしまったんだ」と理解して、理解した姿勢を次のクリエイティブで出したなら、会社への信頼は上がると思うんですよね。
 今は過渡期で、いろいろな考えを持った人がいます。誰も傷つけない表現なんてたぶん無理で、指摘を受け取ったときに素直に聞けるかどうかが大事なんじゃないかなと思います。ただ、理解してないのにとりあえずで謝るのはよくないですよね。「不快にさせたならすみません」とか、快不快の問題じゃないから!と思います。理解したうえで、必ずしも謝らなくてもいいかもしれないし。次のクリエイティブで見せればいいのだから。

―これまで見てきたCMや広告で好きなものはありますか?

東海テレビの「ジェンダー不平等国で生きていく。」はよかったです。「ジェンダー不平等」といくら言っても、「何がそんなに?」と思う人はとても多い。そこへ、実際に地方議会で男性ばかりがブワーッといるなか、女性がぽつんとひとりの映像。「やっぱり何か変だな」と感じられる、可視化がうまいと思いました。ジェンダーギャップの「なにが?」をわかりやすく教えてくれるCMだなと思っています。

女性はメインストリームから外れていないか?

―事前にP&G「Like a Girl」、Libresse Sverige「#wombstories」「VIVA LA VULVA」を観ていただきました*。
「Like a Girl」が世に出てから、Woman Empowermentを謳った事例が評価されるようになりました。女性をネガティブにとらえる社会を考え直しましょうと。

 ツイッターで流れてきて見たことがありました。日本でも「女々しい」「女はこわい」のような、女性というジェンダーに対するネガティブイメージを植え付ける発言はよく耳にします。でもこんな風に、女性蔑視の視点を可視化する作品は出づらいですよね。クリエイター業界も男性優位だからかもしれません。だからそこを表現しにくいし、つくっても日の目を浴びないことがあるかもしれません。この作品はすばらしいスポットの当て方をしていると思いつつ、日本でこの表現をしたらものすごいバッシングされるんだろうなとも思います。この動画が称賛される社会というのが、心底羨ましいです。

―知らないうちに、女性蔑視を社会が醸成してしまっているんだと気づかされますね。

 女性というジェンダーで生きている多くの人は肌で感じていることだと思います。こういう動画を与えられることで、これまで肌で感じてきたことに名前がつくというか、その意味が輪郭をもって浮かび上がってくる。

―「VIVA LA VULVA」「#wombstories」には、強い刺激は受けるけれど、どう反応していいか戸惑う人が日本には多いのではないかと思います。私たちの想定を超えて攻めている表現だと感じました。

 こんなポップな描き方ができていいな(笑)。日本では女性の外性器を模したモチーフなんて動画に登場させられないじゃないですか。このクリエイティブが認められている社会であることが、やはりとても羨ましいです。こうした作品を日本でつくりたい人がいても、つくらせてもらえる環境も、発表できる環境もない人が多いのではと思うんですよね。

―この会社はこの二つの動画以前に、生理用品のCMで経血を青く見せるのはおかしいという主旨で、赤い血で表現するムービーを作っています。

 ほかの国で何年も前に終わった議論が、日本ではまだ巻き起こっていないんですよね。生理用品の広告がご飯時に流れるとテレビ局にクレームが入るそうです。日本でジェンダーに関する声が上がると、それ以上のバックラッシュがあるというのはこれまで何度も繰り返されてきました。バックラッシュなくして進歩はないと思いますが。

―広告でもアートでも、こういった作品が受け入れられる社会に日本はなりますか?

私が生きているうちになったら奇跡だなと思っています。だって今の子どもたちが受けている性教育は、私が子どもの時と何も変わってないですから。学校は閉鎖的な空間なので、最初は外から風を入れることで流れが変わる部分があるだろうなと考えたんです。

―生徒からしたら、いつもの先生から性について聞くより受け止められそうですね。

 その日だけだから相談できることもありますしね。いつも顔を合わせる先生には聞きにくいこともあると思います。妊娠して初めて助産師という職業の人に会うという人がほとんどですが、思春期の性教育も、更年期も、助産師がサポートする対象なんです。性に関する専門知識を持ち、対人援護職として話を聞いてサポートする専門性も養われている。この仕事をする人に思春期の頃に会えた方がよくないかと、YouTubeを始めました。学生さんと会う機会が必要だと思っています。

*「#Like a Girl」https://www.youtube.com/watch?v=XjJQBjWYDTs
「VIVA LA VULVA」https://www.youtube.com/watch?v=0k-_4WloY6Y
「Bodyform:#wombstories」https://www.youtube.com/watch?v=JZoFqIxlbk0

インタビュアー・文:矢島 史
編集協力:丸山 顕

シオリーヌ(大貫 詩織)
助産師/性教育YouTuber


総合病院産婦人科、精神科児童思春期病棟にて勤務ののち、現在は学校での性教育に関する講演や性の知識を学べるイベントの講師を務める。
性教育YouTuberとして性を学べる動画を配信中。オンラインサロン「Yottoko Lab.」運営。
著書『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)、『こどもジェンダー』(ワニブックス)。