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~クリエイターわらしべ物語~

名作の数々、誕生秘話

―これまでに事例のない撮り方ですよね、どうやったの?

 当時、自治体ムービーが流行っていて、「ンダモシタン小林」のオチのばらし方は何度も見たくなるねと話していました。じゃあ、何回も見たくなる化粧品のCMってなんだろうと。逆再生かなーとか、実は男だったとか、資生堂さんを中心にみんなで話しながらでき上がっていきました。結局、1本だけでいいねと10本分の予算を全部1本目で使って。たくさんの賞をいただけて、ACCもゴールドで、これも大きな転機だったと思います。

―「GRAVITY CAT」の撮り方はいったいどういう発想で?

 最初、「猫で、ワンカットで、重力が変わっていく」と聞かされて、絶対いやだ!絶対大変だから受けない!と断ったんです。どうしてもと言ってもらったけど、3回断りました。最終的に、東北新社の麻生(峻司)君に「やりましょうよ」と誘ってもらって。僕は彼がすごく優秀なことを知っていたから、「じゃあ全部リアルで、CGはなし。カットは割らず部屋も本当に転がしたい」と無理な条件を付けたんです。そうしたら麻生君はかっこいいから、「僕もそれしかないと思ってました」と。

―本当に転がしてるんですね……!

 あの部屋、鉄骨で囲っているんですよ。そのハンパなく巨大な鉄骨の円を重機3台で上げてるんです。自分で言っておきながらヤバいことになったなと。そしてそれを転がすモーターを特注でつくらなきゃいけない。すごい威力だから触っただけで骨が吹き飛ぶからねと言われて、超危険な撮影でした。中に役者さんを入れる前に自分たちで入って試してみたんですけど、密閉された空間で上下が動くと脳みそが追いつかなくてパニックになるんですよ。頭上に冷蔵庫があるだけで「うわーっ!これダメかも!」と。何回かやると慣れるんですけど、実際に見るよりずっと怖いんです。なので、役者さんには前日に入ってもらって慣れてもらって。

―大変そうすぎる…!そして今、すごくお忙しいでしょう。海外のプロダクションとも契約されて。

 アメリカのPRETTYBIRD、フランスのINSURRECTION、イギリスのBLINKと契約しました。でも彼らからは、「アジアの監督が売れるまでは最低でも9カ月かかるよ」と言われているので、しばらくは何もないかなあ。海外は日本のやり方と違って完全にピッチなんですよ。こういうのあるよと言われたら僕がコンテと予算を出して、競合。通ればやるという感じです。
 海外のプロデューサーと話していると、今どこも、コンテンツやネットフリックスに力を入れていると聞きます。所属している監督の半数がコンテンツメーカーになっていて、ネットフリックスで連ドラの監督したり、ショートフィルムや映画をつくったり。だから、「翔も広告だけじゃなくてコンテンツをどんどんやってこうね」と言われるんです。日本でもこれからコンテンツにニーズが出てくると思うので、自分もやっていきたいと思います。

―映画もですか。

 次の作品に向けて動き出してはいます。1作目の時は本当に大変でしたけど、いい勉強になりました。役者さんも広告の撮影とは全然違う感じなのですごく楽しかったし、自分でつくったものが映画館で流れていてそれをお客さんが見ているなんとも言えない気持ちとか。やってよかったと思っています。次はその経験を活かしてやりたいです。

憧れがある限りやり続けたい

―ズバリ儲かってますか?

 それがねー、得たお金で自主制作するから基本的にマイナスです。

―ええーっ!

 先日NHK Eテレの「テクネ 映像の教室」で、花でつくったドレスが枯れて腐るまでをワンカットで撮った「花枯去影」という作品をつくったのですが、ドレスをつくる段階でもう予算にはまらない。さらにこれ、バスで移動しながら花にドライヤーをあてて枯らして腐らせているんですね。そうすると、でっかいバッテリーが10分でなくなっちゃうんですよ。それを120個運ぶためのバスをもう一台用意して。大赤字でした。

―では最後に、若い人にアドバイスがあれば。

 それはもう、芸人になれ、ということですね。アイデアやクリエイティブな発想って勉強してできるものじゃない。というか、この仕事を選んだ以上、おもしろいモノは考えられて当たり前というか。それよりも人に好かれることが一番大切で、難しいことです。やっぱり楽しい人が呼ばれますもん。あと、僕が若い頃大変なことやつらいことに耐えられたのは、それでも、監督になりたかったからなんですよね。アニメが好きなんですけど、“自分の頭の中にあることを表現する”というのを体験したかった。実際にアニメーションのCMも撮れて、嬉しかったし勉強になりました。
 あとね、映像、絵、ファッションもそうですけど、僕は憧れることがある限りやり続けたい。例えば青い髪の女の子がドクターマーチンを履いている、それだけで「これで何か話つくりたい」と思う。そんな子どもみたいな発想なんですよね。今、デスクトップにそれら憧れるモノを置いてるんです。「軸とネタ」って言ってるんですけど、絶対的な黄金律の、完璧な構成の作品が「軸」。自分が好き、きれい、かわいいと感じるモノを「ネタ」として散りばめている。その2つを組み合わせて仕事に活かしたりしています。もう、ほぼそれなんですよね。

text:矢島 史  photo:佐藤 翔

柳沢 翔(やなぎさわ しょう)プロフィール

1982年鎌倉生まれ。
多摩美術大学美術学部油画専攻卒業。
THE DIRECTORS GUILD所属。
2016年、資生堂「High School Girl?」がカンヌ国際広告祭、Clio Awards、One Showの世界三大広告祭すべてでゴールド受賞。
翌年、SIE「GRAVITY DAZE2/重力猫」が同じく世界三大広告祭ですべてでゴールド受賞。
アドフェストFilm部門グランプリほか、受賞多数。
海外ではPRETTY BIRD(US)、BLINK(UK)、INSURRECTION(FRANCE)に所属。