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意志はあるけど自由な
ソーシャルイノベーションウィーク(SIW)

長田:この場を使ってみなさんが新しいものを見つけることが大切で、回を重ねるごとによくなっている実感があります。今年は京都市や広島県にもご提案をいただいて。地方行政からも、ここでつながることに興味を持たれています。もちろん課題はあって、コンテンツが多すぎてわかりにくいという意見があったり、住民にとってどうだったかという振り返りも。

佐藤:SIWは意志はあるけど自由なんです。僕は、これからの創造性にはある程度流動性がないといけないと思っています。何も決まっていないということは、誰に対してもウェルカムであるということ。ただ、「どうつくる」「どうつながる」に関して一緒に考えましょうと。ブロックチェーン的というか、誰かがミッションを与えたり、ジャッジをしたりはないんです。それでも相互連携をしているから、アイデアや関係が研磨されていく。SIWの登壇者はなんとなく「こういう人に話してもらいたい」と決まっていくし、その判断者はひとりではない。そのゆるさとつながり方という、プロセスそのものが新しい時代のクリエーションにフィットしていると感じています。会社組織ではない、新しいクリエイティビティ・プラットフォームですね。

長田:登壇者と参加者と、または参加者同士と、なかなかないようなインタラクティブな場になっていました。

パブリックアート
FLYバスケクリニック
フィールドミュージアム

佐藤:僕も毎年登壇していますが、どういう方が聴きに来るのかわからないので難しくて。今年は同じ保育園のお母さんが来ていたので驚きました。彼女は育児にクリエイティブとかダイバーシティの話を活かそうと思って来ていた。これこそ、開かれたクリエイティブの世界だなと。クリエイティブは社会化してきている。いずれ学校の授業の中に、「道徳」のように「クリエイティブ」が入ってくるのでは。その息吹をこの組織に感じています。

20世紀的な「消費者」も、21世紀的には「生活者」。こっちのフィールドのほうがビジネスの世界より広いんですよね。だからこの組織だけで足りるわけがなくて、こういう世界がさらにボコボコ出てくるだろうし、参加者も増えていくと思います。決してマイノリティな動きではない。

長田:私はほとんどの登壇者の話を聴いていて、自分の知識がものすごく高まっていくのを感じるわけです。他の人にも聴いてほしい、もったいない!と。たくさんの人に来てほしいです。

代々木公園にスタジアムを建設!?
「渋谷スクランブルスタジアム構想」

佐藤:これは「構想」というところが素晴らしいんです。例えば一企業が渋谷区にスタジアムをつくりたいと言っても、「なんのために?」「税金たくさん使うの?」となってしまう。でも「こういうものが渋谷にあったらどう?」と未来をモデリングして「構想」を先につくると、「いいね」と人や企業が集まってくる。そうなれば行政も「いいね」となる。スタジアムが実際にできるかどうかはまだわかりません。でもビジョンではなく、「社会がこうだったらどう?」という構想だから。構想が魅力的なら人とお金が集まってきます。それぞれのセクター、それぞれの立場で、その構想のためにどんな力を出せるか考える。そのつくり方であって、土地の話ではないんですよね。

長田:行政に入ってみてわかりましたが、何かをしようとすると「ここは都のもの」「ここは区の」「ここは国の」と許可の区分けがいろいろ出てくるんです。でもそこを長谷部区長は、「管理の区分はあっても、行政ではなくみんなのものだから」と。たしかにそうで、みんなのものの中に“構想として”どんなものがあればみんながハッピーになるのか。そのモデルのひとつがこのスタジアム構想です。都心の真ん中にエンタテインメントのためのスペースがあるというのもハッピーのひとつですけど、同時に非常時の避難場所にもなるような場をつくる。

佐藤:「構想」は、ないものなのに研磨されていくんですよ。構想に対して「こうしたら」「これはよくない」と多くの時間と多くの人の中で研磨していく。「できたらいいね」を形にしていくことができる。

長田:行政が勝手に進めていくのではなく、色々な人が意見を言えるプラットフォームをつくっているんですね。いつの間にか建つことが決まっているのではなく、誰でもプロセスが見られて、説明が聞けて、意見が言えるように。

お土産事業「SHIBUKURO」プロジェクト

長田:これまで、“渋谷に来たらこのお土産”というものがありませんでした。未来につながるようなものをつくりたいとフューチャーデザイナーに相談してできたものが「SHIBUKURO」です。

佐藤:考えたのは、物ではなく「意識や気づき」をお土産にしようということ。エコバッグは物だけど、SHIBUKUROは袋の名前ではなく、「エコバッグを持つことでビニールごみを減らそう」という意識と気づきのことなんです。とはいえ物がないと意識も持って帰れませんから、相当こだわってバッグをつくりました。肩にかけられるようにして、防水にして、ガバッと何でも入る大きさにして。最低限のおしゃれと使いやすさの交点を見つけて、汎用性を持たせました。

企業もビジネス封筒をやめて、その会社のサイズでSHIBUKUROをつくればいいと思うんです。すでに自社の袋を変えようという動きや、賛同できるから今使っている袋にタグだけ使いたいという要望や、袋を売りたいという提案を受けています。

BuyはVoteへ
これからの企業の在り方が見えてくる

長田:渋谷未来デザインについて、もっとたくさんの方に知ってほしいです。知ると、「一緒にやりたい」というマーケッターの方は多い。企業として社会にどう向き合うのか、街にどう貢献するのか。それが企業にとって、大事なことになってきています。重要度が大きくなっている。企業の力を売り上げだけではない、別の形にかえていくのがこれからのあるべき姿だと思っています。

佐藤:「経営」「事業」「マーケティング」「ブランディング」「コミュニケーション」「クリエイティブ」「ソーシャルイノベーション」「ソーシャルデザイン」「フューチャーデザイン」「ライフスタイル」「カルチャー」……結局同じ話につながっていきます。今はビジネスと暮らしが分けて語られていますけど、実際それらはグラデーションでしかない。パタゴニアなんかは完全に一緒になっていますね。もう、「BuyはVote」の時代になって、やってみると同じ話になる。

長田:こういう話をするとCSR的にとらわれがちなんですけど、それともちょっと違うんですよね。

佐藤:もっと言えば「社内」という考え方も超えてくるんです。「会社」という単位は、20世紀的な経済ドリブンの数字を管理する仕組み。株式など会社の立て付けそのものが、利益の競争ドリブンです。これからは、社会を豊かにするための共創フレームになって、働き方もKPIも、プロセスも変わってくると思います。この組織にいると、その気づきの連続で。

長田:多様性を重んじる組織なので、中に全く同じ価値観を持っている人はいないんですよね。企業となるとそうはいかなかったんでしょうけど。ただ、その多様性が社会かなと思う。

佐藤:数字を追うためではなく「社会をよくしよう」とするならば、そこには持続性が必要です。「上司」「ミッション」は数字を追うためのものでしたけど、それらよりも必要なのが「クリエイティビティ」「ラブ」だと感じています。「ラブを、クリエイティビティをもって社会にインストールする」。豊かな社会って、ラブを社会実装するということなんですよね。行政の仕事は本来そういうこと。みんなの愛が結集すると「シティプライド」になる。そうすれば、ロンドン・パリ・ニューヨーク・渋谷と世界に肩を並べる街になる。渋谷が流行と消費の最先端ではなく、視点や気づきの最先端になっていくといいなと考えています。

text:矢島 史  photo:川面 健吾