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広告市場の外にクリエイティブの力を

―今後の展望は。

 GOは、広告代理店ではなく「あらゆる社会の変化と挑戦を支援する」会社です。昨年は20億円の売り上げがありました。メインのクリエイティブパートナー事業の横展開で、ファンドをつくり、アカデミーを開き、今後はデータマーケティングに関する事業もつくる予定です。
 日本の既存の事業をクリエイティブで進化させる、そこを広げていきたい。クリエイティブの力で日本のあらゆる産業を成長……成長ってつい言ってしまいますが、それが正解かわかりませんよね。産業をより「変化」させていきたい。2025年には100億円にしていきたいと考えています。

―今はまだクリエイティブが入っていない業界を探して?

 まさにそうです。クライアントさんの依頼を受けての仕事がほとんどですが、これからはこちらからどんどん探していきたい。
 例えば地方政治とか、地方の老舗とか、テクノロジーはあるけれど活かしきれていない工場とか、そういうところにクリエイティブの力をつけられたら。
 日本の広告市場は、GDP全体のうち7兆円くらいです。僕らはこの7兆円以外のところにいかにクリエイティブを混ぜ込んでいけるかに努力していきたい。

―それはワクワクします。

 そこに至るには、やっぱりベースである広告をつくる技術を高めていく必要があります。クラフトマンシップはとても大切。クラフトはどうしても高めるのに時間が必要です。これはあまり言わないんですけど、僕はPR出身なので多少のコンプレックスがあるんです。クラフトに取り組んでいくことから、逃げてはいけない。
 昨年はACC賞を全然獲れず、「おれら事業だからいいんだ」と逃げたくもなるんですけど(笑)、それを言ったらおしまいだぞと。

―クラフトに力を入れるというのは、採用で?

 採用はもちろんです。キャリアのある方にジョインしていただきたい。我こそはというCDの方、ぜひ!

 残りの展望は、アカデミーの展開。一般向けの教育講座であると同時に、僕らにとっても最高の教育になっています。
 もうひとつは、僕らがうまくいったことを型にして、世に共有していきたいと思っています。

広告クリエイターは政治家の次に
モラルに敏感であるべき

―先日アカデミーで開催された「広告の炎上事例に学ぶ、新しい表現モラルのあり方」を拝聴しました。意外だったのは、三浦さんでもジェンダー視点で間違うことがあると。

 僕は幼稚園から高校まで男子校という偏った環境で育った人間で、ものすごく意識を保っていないと間違えます。気を抜くとすぐに最低の発言を連発してしまいそうになる。
 普通の人より学習してはいるんです。でも、それで足りていると思った瞬間アウト。学んでも学んでもたどりつかない、海の水をコップですくって飲んでいるような感覚です。
 その回を聴講していた学生さんから、「広告における女性のステレオタイプの助長について語られたけど、男性のステレオタイプ誇張に関して言及がなかった」とご指摘いただいて、たしかにそうだなと。僕がそれでダメージを受けたことがないので目線がいかなかったんです。
 一歩踏み込むとまた別の課題がある。じゃあ男性の強い表現や女性の可愛らしい表現を好む人を排除していいのか、という問題も出てくる。今時点でルールがないので、一回一回議論する必要があります。

 広告クリエイターは、政治家の次くらいにこういうことに敏感でいなくてはならない職業だと思います。経営者は発言が仕事ではないし、ツイッターも不可欠ではない。でも僕らは表現が仕事で、クライアントの社長よりも、声に関しては大きいんですよ。代理人として発信するのは僕らだから。
 そこで間違った視点を持っていたら、企業に迷惑をかけ、マスメディアを通じて世の中にやばいことをまき散らしてしまう。職業的に、モラルや教養に対して誠実でなくてはなりません。

教わることは、かっこいいこと

―最後に、僕のように悩んでいるおじさんクリエイターや、若いクリエイターにアドバイスをお願いします。

 先輩方には、若い人に何かを教わることを恥だと思わないでほしいと言いたいです。それはとても、かっこいいことだから。
 青木真也さんという世界的な格闘家がいるのですが、大学生からでも技を教わるんです。日本で一番1試合のギャラの多い一流の人が、とても謙虚な態度で。なんでも大学生はスマホで海外の知らない技術を勉強しているらしくて。自分が勝つこと、強くなることにどん欲だからこそ謙虚になれる。僕はそれをすごくかっこいいと思います。
 なんでも聞いたらいいんです、「どうやったらバズるの」「なんであれは炎上しないの」って。

 若い人は、上の人に対して超素直になったほうがいいと思います。「おじさんにはわからないでしょ」「学ぶ必要ない」なんて思わずに、素直になる。やはり経験は圧倒的なので。
 今メジャーなSNSも、50年後に存在するかどうかはわからない。でもCMを100本つくった人にしかわからない色味の使い方とか、コピー1000本書いた人にしかわからない人の心に残る伝え方とか、これは100年後もあるし必要でしょう。
 組織のなかで上の人からハンコもらう技術って、簡単ではないですよ。そういうことをバカにする人はいるけれど、できないと何もできないですから。100年後、SNSがどうかはわからないけど、組織という概念はなくなっていないですよね。

―非常に大きな視座と欲望を持って、パワフルに思考し行動されていることが分かりました!勉強になりました!

text:矢島 史

三浦崇宏(みうらたかひろ)
The Breakthrough Company GO 代表取締役 PR/CreativeDirector。

2007年 博報堂入社、マーケティング・PR・クリエイティブの3領域を経験、TBWA \HAKUHODOを経て2017年独立。「表現をつくるのではなく、現象を起こすのが仕事」が信条。Cannes Lions、PRアワードグランプリ、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS グランプリ/総務大臣賞など受賞多数。著書『言語化力』(SBクリエイティブ)がAmazonのビジネス書ランキングで1位に。ほかにも『超クリエイティブ』(文藝春秋)、『「何者」かになりたい』(集英社)などを出版。東京大学、早稲田大学、筑波大学などで講師実績あり。