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箭内: いまでは考えにくい話ですね。

操上: うん、そういうこともあって、とりあえず10人かそこらの小さいプロダクションを作ろうと。でも、人間ってプロデューサーになるとアシスタントがほしくなるし、そうなるとプロマネから育てないといけないじゃないですか。そしたらあれよあれよと思う間に広がって行って、「ヤバいなこれは」と思ってたんですけど。
だから事業をやりたくてやったんじゃなく、最初はオレがいい仕事ができる場を作るためで、次に人を育てようと思ってああなっていったんですよ。

箭内: 僕、よく制作部の若い人たちに言うんですよ。「CMを作るときに色んなことを動かす中心にいるのは、プランナーでもCDでもなく、制作部なんだからもっと楽しんだほうがいいよ」って。プロダクションの若い人たちが元気だといいなといつも思うんですけどね。

操上: いまは僕、ピラミッドは引退してますから普段は行ってませんけど(※現在は名誉会長)、前は歩き方までチェックしましたからね。で、「足引きずって歩くな!」なんて言ってました。音でわかるんですよ。広いスペースにコンクリート打ちっぱなしだから。それくらい厳しくやってたんですけど。
プロデューサーも現場が好きな人もいれば、代理店の人と銀座行くのが好きな人もいて、いつもオレに怒られてましたけどね。こんな仕事してて銀座で酒飲んでる場合かって。ただ、人が何十人にもなってくると個人差も広がって来ちゃって、そのうちオレが文句言ってもしょーがねーなって感じにはなった。やっぱり最初の制作のときからの心構えがキチンとしてないと難しいですよね。

箭内: 今日、最初の話にあった「いいものを作りたい」っていう欲望をどこまでキープできるか? が大事なんでしょうね。ところで操上さんに、これからのこと聞くのは野暮なんでしょうか? 日々、欲望精神で明日も明後日もあるんだと思うんですけど。

操上: あまり先のことは考えてないですね。先のことを考えるんじゃなくて今日を考えなくちゃいけなくて。「今日何に関わるか?」ってことしか次につながらないじゃないですか。もちろん僕らの場合、何ヶ月後に展覧会があるから、それを撮って仕上げる時間の計算と別の仕事のコントロールみたいなものがありますから、その配分は考えますけど。

箭内: 今年展示を3回されるとか。さっきポートレイトの撮影のときにもおっしゃってましたけど、まだまだ旅の途中ですね?

操上: 「これがオレの写真」っていうのがいまだ撮れてませんから。へばってるわけにはいかないんです。

箭内: カッコいいなあ。操上さんみたいな方が、広告のサイクルに存在してるっていうのは、広告業界にとってはそうとう刺激的で貴重なことだと思うんです。「なんとかまとめたい・通したい」「着地させることでいっぱいいっぱい」のところに銃弾ぶちこむわけじゃないですか?

操上: 若いときから思ってたんですけど、広告はホントはオレの生理に合わないかもしれないですよね。条件がいっぱいあって。
でも、「なにくそ!」と思うひとつの面白さはあるじゃないですか。そこに飲みこまれない方法を自分で考えて、「どうやって返していこうか?」っていうのは、それ自体はそんなに嫌いじゃなくて。途中で怒ったり腹立てたりもしましたけど、そのゲームはなかなか面白いですよ。だからいままでやれたんだと思う。ほんとにイヤだったらとっくにやめてるかもしれない。

箭内: でも、全部が広告だったら違うでしょう? 個展やっちゃダメとか旅しちゃダメみたいな。

操上: まあ、もうちょっと自由がないと人間ダメですよね。

箭内: とはいえ写真と広告って何か似てるとこないですか?

操上: コンセプトを立てるにしても、企画するにしても、キチッとものを見てないと出て来ませんから、その人の観察眼がかなり求められる。それができてないと嘘っぽくなりますよね?
そういうのは僕も勉強になってるんです。現場でCDやコピーライター、ADと一緒に行動すると、その人たちがどんなに若い人たちであり、オレが一番年上であっても関係なく、現場を共有してひとつのモノに向かって行くプロセスってものすごい刺激になる。だれかがひと言ボソッと言ってることがオレの知らないことだったり、「なるほど、そういう見方もあるのか」という感じで。すべてはじき返してると面白くないですよね。入って来たものを自分のカラダの中で咀嚼して吐き出してなんぼですから、僕らの仕事って。
まあ、前よりはアートディレクターやデザイナーの人たちも楽しんでるんじゃないですか? さっきも言いましたけど、デジタル写真ってみんなでワーッと見ますよね。いまはタレントも見ますから。そうやってみんなで共有してひとつの完成に向かう時代なんですけど、前は「クリさんって1点しかくれないし、トリミングはできないし、おまけに真っ暗で写ってないじゃないか!」って不満を持ってた人もいたかもしれない(笑)。

箭内: そこはオトナになった部分ですね。

操上: そうなんだけど、それと同時にね、クリエイターはやっぱり前に跳ばないと。たとえば撮影したポジをダッと並べて上から見ると、「ストロボが飛び損なっちゃって真っ黒なんだけど、メチャクチャいいな」っていう写真があるんですよ。それが結局最後に残ったりする。「なんで?」と言うと、やっぱりいいからシャッター切ってるんですよね。早いから間に合ってないだけで。

箭内: そういうものが広告になったときに、違和感がありながら、すごいシズルが出ますよね。

操上: そうなんです。そういう予期せぬもののほうがインパクトがある。それを拾って使う勇気があるかないかで人生変わって来ると思うんです。そのことで次に行けるわけだから。みんなで決めた予定調和なポイントを探すだけだと、これはビジネスとしては成功かもしれないけど、結局同じことを繰り返すだけで前に跳べないんですよ。

text:河尻 亨一  photo:広川 智基

箭内道彦(やない・みちひこ)

1964 年生まれ。51歳。
東京藝術大学卒業。1990年博報堂入社。
2003年5月独立し、風とロックを設立。現在に至る。
2011年の紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストでもある。
「月刊 風とロック」(定価0円)発行人。
NHK Eテレ「福島をずっと見ているTV」レギュラー。
「風とロック」(TOKYO FM、JFN 各局)、
「My Tokyo東京に恋をして」(ニッポン放送)番組パーソナリティー。
2015年3月、福島県立ふたば未来学園の、谷川俊太郎作詞による校歌を作曲。
2015年4月、福島県クリエイティブディレクターに就任した。

操上和美(くりがみ・かずみ)

1936年 北海道富良野生まれ。
1961年 東京綜合写真専門学校卒業。
主な写真集に
『ALTERNATES』『泳ぐ人』『陽と骨』『KAZUMI KURIGAMI PHOTOGRAPHS-CRUSH』
『POSSESSION 首藤康之』『NORTHERN』『Diary 1970-2005』『陽と骨Ⅱ』『PORTRAIT』『SELF PORTRAIT』など。
主な受賞歴に、毎日デザイン賞、ADC会員最高賞、講談社出版文化賞、NY ADC賞など。
2008年 映画『ゼラチンシルバーLOVE』監督作品。
現在ピラミッドフィルム名誉会長、及びキャメル代表。

http://www.kurigami.net/