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箭内: ところで白土さん、いまおいくつになられたんですか。

白土: 今年9月で65歳かな。

箭内: 思考家の今後について聞いてみたいんですけど。

白土: そうですね。この15年間くらいは主にNPOやNGOのお手伝いをしてたんですけど、そっちはひと区切りついたので、今度は身の回りの困ってる人や伝統工芸の分野をサポートする仕事をやろうかなと。
例えば江戸時代から続く銀座の老舗の呉服屋さんとか、店主も40代の若さだったりするんです。彼らはもともとゲーム会社の役員をやっていたり、建築家だったりするんですけど、「家業が大変だ」「なんとかしなきゃ」ってことで戻ってきてるんですね。そういう方々は「プロトタイプ作ってみますか?」とか「コラボしてみますか?」みたいな僕らが広告業界で使ってる言葉がそのまま通じますから、「何でもお手伝いしますよ」という軽い感じで。
落語や歌舞伎も好きで、そういうのはずっと趣味の世界だったんですけど、本を書いたりしてみたいなとも思いますね。自分の研究用の資料は膨大にあるので。実際どこまでできるかはわからないけど、伝統芸能や伝統工芸の楽しいものとか綺麗なもの、最近はそういう方向にちょっと軸足を移しつつあります。

箭内: 「頼まれたら断れない」白土さんが、だれかから「頼まれたわけではない」趣味的な世界に行かれるのは面白いと思うんですけど、いまも頼まれたらやりますよね?

白土: まあ、僕は電通を辞めるときの講演で、スライドに「白土閉店」って書いて出しちゃいましたから、みんな「閉店」したんだと思ってるかもしれないんですけど(笑)、頼まれたいことはありますよね。

箭内: それはどんな頼まれごとですか?

白土: 一番頼まれたいのは、「どうやったらクリエイティブのスタッフに気持ちよく働いてもらえるのか?」っていうクライアントからの相談。それだったら僕、ぜひコンサルしたいと思うんです。
なぜかと言うと広告業界がパワーをなくしてるひとつの理由として、みんなソツなくやりすぎだと思うんですよ。例えば携帯電話の広告とかどれも似てますよね? もちろん出演者や筋書きは違うけど、複数のタレントが出て同じような芝居仕立てでやって、学割とか毎回のいろんなお題が来ても効率よく回していけるフレームを作ってるんですよ。それ、仕組みとしては非常によくできてるとは思いつつ、昔の事業部長とか宣伝部長には「これ他社とそっくりじゃないか? もっと違うことやってみろよ」という人がいたんですね。そういう人たちが僕らを鍛えてくれたわけで、その意味では「もう少し宣伝部の人がプロになられたほうがいいんじゃないかな?」と思って。クライアントが人の使い方の素人になってる気がして仕方ないんです。もちろん、気を遣ってくださってる部分も大きいんでしょうけど。商品のコモディティ化・宣伝部のコモディティ化・表現のコモディティ化が、同時進行している気がするんです。
そう言えば昔、あるメーカーの副社長に呼ばれて、そこは僕が担当してないクライアントだったんだけど、聞かれたんですね。「いいスタッフなのに全然いい案が出てこない。なんで?」って。

箭内: どう答えたんですか。

白土: 「ブランドイメージをしっかり作ろうとして、それだけを基準に案を選んでるからじゃないですか?」って。で、助言もさせていただいたんですよね。
「もし、いい案をお望みなら、方向性の違う3案持ってきてもらうようにオリエンすればいいんじゃないでしょうか? ひとつはブランドの内側でトーン&マナーを守ってるもの。2つ目はライン上のもの。3つ目はブランドのトーンに収まってないけど、インパクトがあったり面白かったりして、セールスを上げることが期待できるもの。優秀なスタッフなら必ずその3方向出せますから、最初から内側ありきで検討しちゃダメです。それをやると小さくまとまった表現しか出てきませんから」って。
僕自身のこれまでの経験上、謎を仕掛けてきたり、こちらに難しい球を投げることでドラマを生んできたクライアントをたくさん知ってますからね。手強い相手と手強いボールを打ち合うことで、いつの間にか世界ランキングが上がってるみたいなことが、本来この仕事は楽しいわけです。そうやって自分たちの表現のグラウンドを拡張していったほうが面白くなるんだけど、そういう発想で考えられるクライアントやクリエイティブディレクターは少なくなった。もっと互いを突き放してみたほうがいいんですけどね。まずオリエンを信じすぎというか…。なんでオリエンを言葉通り信じてしまうのか?

箭内: グラウンドの拡張は大事だと思います。そのやり方のヒントを読者に教えていただけませんか。それは「どうやったらもっと過激になれるのか?」ということでもあると思うんですけど。

白土: 会いに行けばいいんですよ、いろんな業界の人に。例えば「僕がなぜ本屋さんに行くか?」と言えば、自分の知らないことがそこにあるから。で、知らないことで面白いなと思ったら、その本の編集者に会いに行くんです。以前なら「電通っていう怪しい会社の者なんですけど、もしこういう仕事が来たらご一緒できないでしょうか?」なんて。で、運良く一緒にやれたらすごくハッピー。もし断られたとしても得るものはあるし、そういうのも楽しいわけです。例え「オレは広告なんて嫌いだ」と言われたとしても(笑)。
僕にアドバイスできることがあるとすれば、やっぱり「人に会う手間を惜しまない」でしょうね。クライアントの担当から商品の説明を聞いたとしても、僕は実際に作ってる人に会いたいし、売ってる人にも会いたい。なので必ず行くんですよ、工場やお店に。どういう思いでそれを開発したのか? 売る人の苦労は何か? その人たちがいろんなことを教えてくれますから。昔はよく「コピーは足で書け」って言われたんだけど、そうやって取材するから素晴らしい何かとの出会いがあり、それがつながっていくわけで。
手塚治虫がまだトキワ荘にいた頃に、漫画を読んでる若手を見つけると怒ったらしいですよね。「なんで漫画を読むんですか。漫画を読んで漫画が描けるなんて思うのはとんでもない!」って。そういうことだと思うんです。
だからひとつ言いたいのは、クライアントもクリエイティブのスタッフもこの「失われた20年」に疲れちゃってるのかもしれないけど、そろそろ過去のしがらみなんか捨てて新しいもの作っちゃいましょうと。若い人たちには「広告界をひっくり返してやるぞ」くらいの意気込みでやってほしいんですよね。

text:河尻 亨一  photo:広川 智基

箭内道彦(やない・みちひこ)

1964年生まれ。53歳。
東京藝術大学卒業。1990年博報堂入社。
2003年5月独立し、風とロックを設立。現在に至る。2011年の紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストでもある。
「月刊 風とロック」(定価0円)発行人。
NHK Eテレ「福島をずっと見ているTV」レギュラー。「風とロック」(TOKYO FM、JFN各局)、2015年3月、福島県立ふたば未来学園の、谷川俊太郎作詞による校歌を作曲。2015年4月、福島県クリエイティブディレクターに就任。2016年「渋谷のラジオ」開局、理事長を務める。

白土謙二(しらつち・けんじ)

思考家。元・電通執行役員/特命顧問
1952年生まれ。64歳。立教大学卒業。
1977年電通入社。クリエーティブデディレクター、CMプランナー、コピーライターであると同時に、企業の経営・事業戦略からブランド構築、新製品開発、イントラネットからCSRの領域まで、多様な課題を戦略と表現の両面から統合的に解決する独自のコンサルティングで活躍。現在、ファーストリテイリング/サステナビリティ委員会社外委員。