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箭内: 11年ってすごいですね。佐智子さんをそこまで突き動かしたものはなんなんでしょう? どんな写真なんですか。

伊藤: 演劇のプロデューサーだった人間が、突然、病気になってしまって、もう20年ぐらい闘病してるんですけど、夜、猫を相手に、猫を役者に見立てて、演出しながら撮った写真なんです。猫の写真って言うと、昨今、猫ブームだからちょっと説明が難しいというか、見ていただきたいんですけど(写真集の色校を見せる)。

箭内: へえー、全然見たことないような猫の写真ですね。

伊藤: 猫を撮っているんだけど、これは猫ではないんです。彼自身の心の投影だったり、人生のいろんなことなんですよね。これを出したかったんですけど、全然動かなくて。中身は11年前にできていたんですけどね。

箭内: どういう経緯で実現したんですか。

伊藤: あるとき友だちの現代美術の作家の展覧会に行ったんですよ。そこでギャラリーの館長さんになぜその話をしたのか、私、全然覚えてなくて、それこそ夢の中みたいな感じなんですけど、この写真の話をしたのね。そしたら、その方が「ここでやりましょう。すぐにやらなきゃいけない」って言って、突然、その写真の展覧会をやることになったんですよ。今年の10月に(2018年)。
松濤にある「ギャラリーTOM」ってところなんですけどね。村山知義って知ってます? 1920年代のベルリンにいて、カンディンスキーとか、それこそバウハウスの人たちと密接につながっていた有名な作家で、そこはその人の息子さんご夫妻がつくったギャラリーなんです。私がお話したのは村山治江さんという方で、そこから話がとんとんと動き始めて、写真集(『Luv.ROCCO』青幻舎)も日本とフランスで出版することになったり、谷川俊太郎さんに序文をお願いする手紙を書いたり、このところずっと突っ走ってます。
谷川さんには10年前、「写真映画『ヤーチャイカ』」という作品でご一緒したときに一度見ていただいてたんですけど、今回お願いしたら3日後くらいに散文と詩が届いて驚きましたね。すごい励みになりました。

箭内: いい現在を生きてますね。

伊藤: みなさんがどういうふうに見てくれるかはわからないけど、これを見て、泣いちゃった人もいるんです。写ってるのは猫の姿ですけど、人間の妄想を掻き立てる写真だと思うんですよ。身体の自由がきかなくなり、1日に2時間ぐらいしか動けない中で、自分の頭にライトをつけて、照明も自分でやりながら撮ったらしいんですけど。

箭内: 楽しみです。写真は星野正樹さん。

伊藤: 彼の希望としてまず海外でやりたいというのがあったので、このあいだも、ギャラリーをセッティングするためにパリに行ってたんですけど、今回出会ったフランス人たちは、みんな人生がすごいのね。映画を見てるみたいだった。ある人のバスチーユにあるアトリエを借りるんですけど、彼は孤児院を出て大道芸の火吹きになった人らしく。で、その彼に資産家の娘さんが恋をしてーーといった物語があったり。

箭内: 仕事でも趣味でもないライフワークみたいなものがあるのは素晴らしい。最後に佐智子さんから、これを読む若い人に、何か声をかけてあげてほしいんです。平成というすごく難しい時代に置かれている人たちに。

伊藤: 「続けること」ですね。何が好きか自分でわからない人も多いと思いますけど、続けることで好きになる道だってあるはずですから。ひとつだけでいいから、何かにこだわってほしいなと。そのことで道が拓けてくると思うんです。
あと、若い人に言いたいのは、「歳をとるのは楽しいことだから、恐れないで」ということ。私は堅いところがあるから、若いときには、いろんなことに「こうであらねばならぬ」みたいに思ってがんじがらめになっていた気がするんですけど、いまは全然そんなことないんですね。一番のテーマは自分の解放なんですけど、最近ちょっとは解放に近づけたかなと思ってます。

text:河尻 亨一  photo:広川 智基

箭内道彦(やない・みちひこ)

クリエイティブディレクター
1964年生まれ。54歳。東京藝術大学卒業。1990年博報堂入社。
2003年独立し、風とロックを設立。現在に至る。
2011年紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストでもある。
月刊 風とロック(定価0円)発行人。
福島県クリエイティブディレクター
渋谷のラジオ理事長
東京藝術大学美術学部デザイン科准教授

伊藤佐智子(いとう・さちこ)

ファッションクリエイター
映画、演劇、そして時代の流れを象徴する広告の中で、一枚の布からはじまる様々な表現を構築し提案。衣裳デザインはもとより、商品開発から空間デザインに至る
まで、ジャンルを超えたコンセプチュアルワークを手がけている。
舞台『キネマと恋人』(ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出)、映画『海街diary』(是枝裕和監督)、著書「SARAÇA VI S ION」他。
この度はプロデューサとして11年がかりの写真集「Luv.ROCCO」物語「夢をこえたネコのお話」を出版。演劇をこよなく愛する著者と愛猫ROCCOのセッション。