世の中に対する社会的なメッセージを
山上● やはり、メッセージだということは間違いありません。そのメッセージをクライアントにどうプレゼンテーションするかが課題になっている感じがします。物を世の中に紹介する作業の中で、日本のマーケットが成熟しているせいもあって、A社とB社の差がほとんどないのが現状じゃないですか。メッセージは何かという話になってきたとき、世の中にとって必要か否かという根本的なところに行き着きます。この物が、私たちの生活にどう関係するのかを真剣に考え始めるきっかけにカンヌがなったと思います。
日本の広告がカンヌで違うと言われる理由は、マーケットが一番成熟しているからかも知れません。カンヌで1位、2位に入っているものはブランド広告で、製品のスペック広告じゃないですよ。だから、あれだけ自由なメッセージが出せるのかも知れません。でも、僕らに与えられているテーマは、もっとスペッキーだったり、商品を売るという生臭いものなのです。そこにメッセージをどうやって盛り込んでいくかを日々考えています。これはカンヌに行ったことがすごく大きいと思います。もう一歩深いところで、「人間に対するメッセージ」をこれからも考えていきたいと思っています。
高草木● 帰国後、しばらく経て、部署がデジタル部門に替わり、今はクリエイティブを外から見るデジタル業務と、今までのアートディレクターとしての業務の両方をやっています。そのため、少し客観的かもしれませんが、ちゃんとしたメッセージがないのに、ただクリエイティブのエンターテインメントを供出するためだけに作っているものが多いと思いますね。
日本で成功したキャンペーンとして知られ、CMとしての人気があっても、果たしてそれで売れたのか、市場を変えたか、本当に役に立っているかという疑問があるものもあります。カンヌでも表現のための表現という部分が一部あったりします。やはり、人を動かせるメッセージをきっちり提示するようなものを作っていかないとダメだと感じています。
僕にとってカンヌは、日本でやっていること、語られていることがそのとおりではないとか、自分のやっていることを客観的に見ることの体験として残っています。そして、カンヌで、ユニークで僕らが面白い、グレートなアイデアだと評価したものは、東京にいる広告に関係のない友達も「グレート」だと言うわけです。ということは、両者にも違いはなくて、面白いものは面白い、面白くないものは面白くないわけです。もはや、日本はこうだ、海外はこうだという差はなくなってきています。日本のテレビを賑わす広告が、世界各国で作られたワールドスタンダードな表現やユーモア、ウイットに変わる前に、自分の表現を探せたらいいと思いますね。
司会● 須田さんが言われたように、日本のクリエイティブを活気づかせるためにカンヌを利用することも大事だと思います。日本には、ヤングコンペの参加者はこのまだ6人しかいませんから、これからもぜひ皆さんの力を貸していただきたいと思います。

山上勇人氏
(電通)