カンヌが未来へのステップに
今井● 私たちはコンペが終わってからも一緒に仕事をすることがありますが、二人で担当する仕事には確実にいい刺激をもらってきたと思います。よく日本に帰ると現実の仕事があまりに違って、皆さんが苦しむようですが、いろいろな国のクリエイターと話をして、みんな苦労していることがわかりました。カンヌ用に作っているものもあって、現実は一緒です。日々の仕事で力を蓄えながら、チャンスがあるときに飛ぼうという気持ちで、みんな頑張っているのです。作品からの刺激もありましたが、今年は人からの刺激がすごくありましたね。みんな苦労しているからこそ、グランプリに惜しみない拍手を贈るのだと思います。自分も苦労しながら、いいアイデアを考えようとポジティブに考えています。
司会● 向こうで知り合った人との交流は続いているのですか?
今井● 去年は住所を交換するぐらいでしたが、この1年でEメールが普及したのか、今年は何十人ものメールアドレスをもらいました。帰ってきてから、ジャパニーズ論争があったので、いろいろな国の人にEメールでアンケートを行いました。ノルウェー航空のCM「ジャパニーズ」篇は、日本人とは何なのだろうとか、広告表現とは何だろうと考えさせられましたね。
遠山● カンヌの本編自体も刺激があったのですが、そのあとに個人的にイタリアに行ってきたのです。ちょうどコパアメリカというサッカーをやっていて、夜中にホテルでテレビを見ていると、試合中にCMがバンバン流れているわけです。そのCMの秒数が全部5秒だったのです。そういうのはアリなんだな、考え方が柔軟なんだなと思い、僕はそっちの方が面白かったですね。それなりにメッセージが届くものもあったし、15秒と同じぐらい印象に残るものもありました。
司会● 15秒じゃ短いとは言えなくなりますね。
遠山● そういうことを考えていることが、僕らの狭いところなんだと思いました。
金子● 僕は前に行っているのですが、1年経つぐらいで自分のテンションが下がってくるところがあったので、もう1回行こうと思って、今年も行ったのです。博報堂からヤングツアーで行ったのは1人だけで、ずいぶん減ってしまったと思います。僕らがあまり健闘しなかったので、誰も行ってくれません。でも、僕はまだヤングで行けますので、来年もできれば行こうと思っています。
カンヌに行ってくると、仕事に対しての姿勢がリセットされて、ピリっとします。でも、普通のヤングで行くと、蚊帳の外みたいな感じでちょっと淋しいですね。セミナーやリールを見るために行ったのですが、コンペに参加した方が楽しいと思いました。できたら、個人的に審査に出したいと思うぐらいです。
須田● 僕は1年経って熱が冷めたかというと、そうではありません。現実の仕事の中で違うと思う場面もあったのですが、一緒に参加した海外の仲間からメールがよく来るからです。今年は行くのかとか、今年も国内予選に出たけれどダメだったとか、実は転職を考えているという内容で、いつも割と近くにいるわけです。
去年、サイバーカンヌが始まりましたが、僕はそういう柄じゃないと思っていました。最近、僕らがサイバーの方に近づこうと思わなくても、テクノロジーは進んでいます。Eメールやインターネットを使って、5年前にカンヌに行った人よりも、コミュニケーションが楽になっています。日本の広告は特殊だと言うけれども、テクノロジーが進めば、望まなくてもグローバルになります。クリックひとつで世界につながるときに、カンヌの経験や僕らがそこで得たものは、また広告に生かせるのではないかと思います。少し長い目で見ると、カンヌで経験したことは、単なる思い出ではなく、未来へのステップになりますね。
司会● メガコンペティションと概念的に言われると、外国人が全部敵みたいな感じで、恐怖感ばかり煽られますが、コミュニケーションを図っていればそんなこともありませんよね。

遠山郁生氏
(マッキャンエリクソン)