開演挨拶
鏡 明 氏
ACC国際委員長/株式会社ドリル
この業界自身が様々な形で変化をしており、新たなカテゴリー、新たなモノが次々と生まれてきています。そんな中で“フイルム”をきちんと深く取り上げようと。もともとカンヌはフイルムから始まったということもありますし、我々の業界にとってフイルムは大事な存在であり、大きな影響力を持っています。
ここ数年の間に、カンヌが様々な形を取りはじめ、去年今年と大きく変わろうとしている気がします。本日はまず東映エージエンシーの伊藤さんからカンヌの全体像の話をしていただいて、その後審査員の新沢さんから120分。できるだけ多くの作品をみなさんに見ていただきます。
カンヌライオンズ概要報告
カンヌライオンズ日本代表
伊藤 拓磨 氏(株式会社東映エージエンシー)
昨年まで8日間だった会期が、月~金の5日間へと変更になりました。日程短縮の目的は、参加者の拘束時間と費用の負担軽減です。
賞の部門構成も大きく変わりました。サイバー、プロモ&アクティベーション、インテグレーテッドの3つが廃止され、5つの部門が新設された結果、全体で26部門に。これを新たに作成した9つの「トラック」と呼ばれる大カテゴリーに振り分けています。新たにできた「ソーシャル&インフルエンサー」は昨年までのサイバーを受け継いでいますし、「ブランドエクスペリエンス&アクティベーション」は昨年までのプロモ&アクティベーションを継いでいる部分があるので、純粋に増えたものとしては「インダストリークラフト」「クリエイティブeコマース」「サスティナブル・デベロップメント・ゴールズ(SDGs)」の3部門で、実際にはインテグレーテッドのみがなくなったと言えると思います。
エントリー数は全体で32,372件。昨年の41,000件超から減った原因としては、今年からひとつの作品がエントリーできるカテゴリー数に制限ができたり、サブカテゴリーが見直されて120以上削減されたこと。またピュブリシスグループの不参加という影響もあり、単純に昨年と増減を比較するのは難しいかなというところもあります。
エントリーの最も多かったのはアウトドアの2,628件、少なかったのがチタニウムの154件。ACCに関連の深いところでは、フイルムクラフトが、全体の中では珍しく昨年より伸びた部門で、2,519件と、フイルムを抜いて全体で3番目の数になりました。フイルムとラジオは全体の減少に合わせてやや減っているという印象です。
新部門と受賞作について簡単に。
「インダストリークラフト」は、フイルムクラフトとデジタルクラフト以外のクラフトを評価するという位置づけです。昨年までは、デザインやプリント、アウトドアの部門内にあったクラフトに関するサブカテゴリーを部門として独立させたものです。グランプリは、シューケアブランドのKIWI(キィウイ)で、コピーライティングのサブカテゴリーにエントリーされたものでした。ゴールドはケンタッキーフライドチキンで、アートディレクションのサブカテゴリーにエントリーされた、炎がフライドチキンに見えるというもの。
「クリエイティブeコマース」は、インターネットショッピングの体験におけるクリエイティビティと商業的なリザルトが評価されます。グランプリはXboxの、オリジナルカラーのコントローラーをユーザーがつくれるというキャンペーン。通常より値段が高いのであまり売れないという問題があったのですが、デザインしたものを別のユーザーが買うとお金が入るという仕組みをつくったところ販売数が350%増加したという点で評価されました。
「サスティナブル・デベロップメント・ゴールズ(SDGs)」は、国連が定めた2030年までに達成すべき17のゴールに寄与した取り組みを対象としています。エントリー費は全額、SDGsに関わる慈善団体に寄付されます。グランプリはパラオ共和国の「Palau Pledge(パラオ誓約)」。入国の際にパスポートのスタンプにサインをすると、パラオの自然を守る誓約書にサインしたことになる。これが世界的な話題になっただけでなく、観光客ひいては国民の意識を変える動きとなったことが評価されました。これはチタニウムとダイレクトでもグランプリを獲っています。またこの部門でゴールドを受賞した「Trash Isles(トラッシュ・アイルズ)」は、デザイン、PRの2部門ではグランプリを獲得しました。
日本の受賞は10部門であり、ゴールドが1個、シルバーとブロンズが10個ずつとなりました。例年通りデザインが多かったのと、クラフトにまつわるデザインからインダストリークラフトでの受賞が多くありました。
カンヌライオンズ フイルム部門報告
フイルム部門審査員
新沢 崇幸 氏(株式会社TBWA\HAKUHODO)
できるだけたくさんの作品をご紹介しながら、審査の裏側や審査で感じたことをお話ししたいと思います。今年フイルム部門には2,158件のエントリーがあり、そこから205個のショートリストを選びました。さらにそこから39のブロンズ、22のシルバー、11のゴールドと選んでいき、最終的に2つのグランプリを選びました。例年審査員は25人ほどいたのですが、今年は10人とコンパクトな審査になりました。審査委員長を含め2名がブラジル人、アルゼンチン人1名と南米の色が濃く、スペインの方もラテン系な作品が好きで、全体的に“おもしろい”ものの受賞が多かったように思います。なおかつ、クリエイティブパートナーやディレクターなどバラエティに富んだ面々での、国やエージェンシーの垣根に囚われることのない非常にフェアな審査だったと思います。