『テレビCMオンライン運用の概要と10月導入開始について』
ACC技術委員会では、2017年4月に、「テレビCMオンライン運用」についての研究会を行いました。
これまでの長期にわたる実験と検証作業を経て、いよいよ今年10月より、テレビCMのオンライン運用がスタートします。
動画素材をデジタルファイル化し、ネットを介してやりとりすること自体は、今日特別なことではありません。しかしこれまでビデオテープやファイルメディアという「現物」をもって素材の搬入を行ってきたテレビCMにとって、オンライン運用化は大きな変化です。
したがって、オンライン運用導入に関しては、技術的課題とともに、運用の仕組みについてもさまざまな検証が行われてきました。
そのような経緯を経て、いよいよ運用開始を半年後に控えたオンライン運用の現在の進捗状況、広告主、広告会社、放送局、制作会社それぞれの想定運用フロー、新たに運用プロセスに加わるオンライン事業者、などについて解説をいただこうということになりました。
講師
- 一般社団法人 日本広告業協会 CM素材オンライン運用検討プロジェクト
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- 外山 善太 氏
(デジタル特別委員会委員長/株式会社 博報堂DYメディアパートナーズ シニアマネジメントプランニングディレクター) - 沼澤 忍 氏
(制作取引小委員会委員長/株式会社 電通 事業計画局 サービスラインマネジメント部 次長) - 小林 順一 氏
(テレビ小委員会CM運行WGサブリーダー/株式会社 電通 情報システム局 システム開発2部 部長)
- 外山 善太 氏
以下、研究会内容の要約です。
本年10月より東京・名古屋・大阪を含む19局がCMオンライン運用を開始し、来年の上期までに計55局前後になる見込みである。それ以外の放送局にも業協および民放連から積極的にオンライン運用への移行を働きかけている。
TVCMの搬入納品形態の変遷としては、2011年7月にテレビの完全デジタル化を受けてHD化以降主流であったHDCAMに加え、ファイルベースメディアの運用が開始された。
2013年4月にCM素材ファイル運用促進プロジェクトが日本広告業協会(以下JAAA)に設置され、オンライン化への協議が本格化された。
2016年11月には、「オンラインCM搬入暫定基準」が制定された。
TVCM素材のオンライン化の意義
- ① 搬送距離と時間からの解放
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- オンライン化により距離の概念が無くなる。素材搬入にかかる時間は大幅に短縮。
- 全国一律の到着タイミング実現。悪天候や災害による素材不達遅延がなくなる。
- ② 広告会社と放送局の業務効率向上
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- CM素材の仕分け梱包、陸送がなくなる。メタデータ利用により素材登録管理軽減。
- ③ CMプリント費からファイル運用費へ
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- 従来のプリント作成業務にかかわる費用や作業の手間が削減。
- ただしメタデータ登録やファイルアップロードに関連する費用が予想される。
[オンライン化による作業フローの変化]
オンライン事業者について
- 送稿事業者(協調領域):㈱広告EDIセンターに確定
- 素材搬入事業者(自由参入領域):オンライン事業者6社となる。(2017年4月11日「素材搬入事業者サービス説明会」参加社数)
素材搬入業者のサービス内容の詳細は、各社よりアナウンスされる予定。
今後の継続検討課題
オンライン化による運用課題<在局素材の管理運用、回線障害時の代替手段、バックアップ対応、EDI化によるペーパーレス化の実現>や、普及促進課題<各エリアでのEDI普及促進、タイムのEDI化対応、提供テロップのオンライン化対応>などが挙げられる。
各エリアの課題としては<2018年~2020年に多くの放送局で実施される基幹設備更新でのオンライン化対応>や<各エリアの地元広告主や広告会社へのオンライン運用への理解促進>などである。
想定Q&A(抜粋)
- 素材搬入業者は誰が決めるのか
⇒ 制作扱い広告会社が提案し、広告主が承認するケースが考えられる。 - 素材搬入費は搬入する放送局の数だけかかるのか
⇒ 基本的には1局に1本の送稿ごとへの課金となる。 - 全局受け入れ可能になるのはいつごろか
⇒ 10月開始時約20局、来年10月に約50局。全局受け入れ時期は現状未定。 - HDCAM、XDCAMはいつまで搬入可能か
⇒ 現状未定だが、HDCAMは2023年までに保守サービスが終了する。
⇒ XDCAMは継続するが搬入フォーマット変更されるので要対応。 - 広告会社にとって新たに導入が必要なものは
⇒ WebアクセスできるPCがあれば運用可能。 - 素材搬入事業者によってシステム操作の方法が変わるのか
⇒ 基本機能についての操作手順はなるべく同じになるようガイドライン提示する。 - 素材名や10桁コードの付番ルールは変わるのか
⇒ 従来と同じ考え方。搬入基準に決められたルールに則る。 - 制作納品、搬入納品における責任分界点は変わるのか
⇒ それぞれの担当分野における、果たす役割と責任は変わらない。 - 搬入サーバアップロード後に簡易再生や検収の機能は実装されるのか
⇒ 「プロキシAV視聴」可能。アップロード後の検収は規定されていない。 - 送受信サーバ、搬入サーバにも素材保持期間は規定されるのか
⇒ 原則30日以上保存が望ましいとされている。 - 放送局側でつける「ぶら下がり」はオンライン化しても可能か
⇒ 送りの手段が変わるだけなので作業可能。 - 在局確認、返却管理はどうなるのか
⇒ 運用ルール検討中。返却についてはデータ消去で置き換えられる。 - 送稿指示からどのくらいで放送局に届くのか
⇒ 少なくとも現在かかっている時間以内に届くことを想定している。 - スポット、タイム同時に運用開始されるのか
⇒ スポット、タイムの区別なく開始される。 - 送受信サーバ設置の手続きは
⇒ 送稿事業者(EDIセンター)との事前調整を経て設置となる。 - 長尺素材の扱いは
⇒ 原則300秒までの素材をオンライン運用の対象とする。
以上を受け、講演後の質疑応答の時間では、委員と講師の間で活発に意見が交わされました。また広告主、広告会社、放送局、制作会社それぞれのポジションからの、オンライン運用開始に対する展望を交換することができ、大変有意義な議論を持つことができました。現在はまだ運用実例が出ていない時期であるため、運用開始後、実例と動向を見てから改めて研究、検証の場を持つこととして、今回の研究会を終了しました。
文:勝田正仁(技術委員会委員長)