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『一周してテレビ2.0』
~テレビの現在地~

2018年8月、ACC技術委員会では、次世代のTVとして注目される「スマートTV」について5回目の研究会を開催しましたので、以下、その内容をお知らせします。

委員会ではこれまで4回にわたり、「スマートTV」をキーワードとした研究会を開催し、次世代のテレビ受像機や、新たなコンテンツ発信や視聴スタイル、それに関わるCMの姿の変化、といったことについて研究してきました。
昨今では「スマートTV」という言葉を目にすることは少なくなり、かわりに「放送と通信の融合」「若者のTV離れ」「OTT」などといったことがクローズアップされることが多くなっていますが、ネットニュースのネタ元の多くはテレビ番組起源である。という事実も見逃せません。
そこで、今回の研究会では、テレビの新しい視聴形態と、広告の使い方についての考察と提言を、電通総研の奥律哉氏に伺うことになりました。

研 究 会 『一周してテレビ2.0』~テレビの現在地~《ACC特別版》

■講 師
株式会社 電通 奥 律哉 氏
電通総研フェロー、電通メディアイノベーションラボ統括責任者

現代においてスマホやTVにまつわるあらゆるメディア、アプリ、コンテンツとユーザーの関わり方について、奥氏が統括されている電通メディアイノベーションラボが調査収集した膨大なデータの分析結果と、そこから見えてくる数々の現状、未来への予測を解説いただきました。
※解説いただいたデータは多岐詳細にわたり、ここで全てを紹介するのはむずかしいので、代表的なトピックを抜粋させていただきます。

序論

・4Gから5Gへ
オリンピック/パラリンピック、4K/8K、同時配信などが昨今のキーワードであるが、「4でも8でもなくて5」という予測がある。5G=第5世代移動通信システムである。
コンテンツにおいてもアプリにおいても、5G通信環境よって劇的に変わると予測されている。通信速度は現在(4G )の100倍、伝送遅延が極めて少なく、ほぼリアルタイムで通信ができるため、自動車の自動運転などの精度や信頼性が飛躍的に高まる。現在では難しいとされる大人数への同時ネット配信も問題なく実現できるようになる。
つまり、5G時代に突入すると、今以上のスピードで映像配信やアプリの様相が進化すると考えて良い。

・テレビ+トリプルスクリーンの普及率(2018)
・世帯主年齢階級別 カラーテレビ普及率(総世帯ベース)
・テレビの普及台数(複数世帯 100 世帯当たり台数)
総合的な普及率は95%を超え、まだまだ安泰に見えるが、 世帯主年代別では明らかに29歳以下世帯のTV普及率が下がっている。テレビだけでは全ての人々に情報を行き渡らせることが出来なくなっている時代、といえる。
一世帯あたりのテレビ普及台数は、ピーク時2.5台から2.0台ぎりぎりまでに減っている。「一家に一台から一人一台」の時代はとうに終わったということである。

・2016 vs 2017 PC・携帯・スマホ・タブレット所有率
・自宅内メディア接触 時系列推移/2017 vs 2002
男性:10代後半~30代で、スマホ所有率90%超。40~50代でも大幅増
女性:50代のスマホ所有率大幅増。女性20代のPC所有率が大幅減
高年齢層の男性はPC使える→会社で使っていた世代
若い子はPCキーボード使えない→PCを使う文化がない(スマホ、タブレット)
若者が使うスマホとは、AppleのiPhoneにほかならない。これにはTVチューナもワンセグも付いていない。つまりテレビ放送を受信できるデバイスを持っていない。
自宅内でのメディア接触時間量をみると、テレビは微減程度に見えるが、年代別に分解すると、若年層ではほとんど半分になっていることが見て取れる。
よって、若年層にテレビを通してメッセージを到達させるのは困難、ということになる。

ここまでで、ここ10年~15年での若年層のテレビ(テレビ視聴)離れはかなり進んでいることが確認できた。また同時に、高齢者はデジタルが苦手、という定説も変わりつつある。特に男性はPC(キーボード)の扱いが若者より達者である、といった傾向もわかった。

ログが語るスマホとテレビ利用のリアル

・多くのスマートフォンユーザーが1 時間のうちに複数分野のアプリを起動
・1日あたりのアプリ起動は個人全体で85回
・スマホ利用時間はついに3 時間に迫る
アプリ分野別起動率(スマホの中でそのアプリが表に出て、ネット接続されている頻度)では、LINE、Twitter、FBなどのコミュニケーションツール、Instagramなどとそれに関連する写真加工ツールの比率が高い。起動している間ずっとネット接続されているブラウザの比率はかなり高い。また、ネット接続の比率は高くないが、オフラインで遊んでいる潜在時間を考慮すると、ゲームの起動時間も相当高いと思われる。
世代別では最もスマホでのゲームの接触時間が長いのは意外に40代女性(子供のこと言えない)。
利用回数、利用率共に圧倒的に多いのはやはりコミュニケーション系ツールである。
そこには最も多くの人々が集まっているので、そこに広告を投下するのが最も効率的と考えがちである。
ところがコミュニケーションツールへの人々の滞在時間はきわめて短い。(平均1分前後)
滞在時間の短い場所に広告を打つのは逆効果になる危険がある(ウザい)。
同じ計算方法で、テレビのリアルタイム視聴の滞在時間を計算すると、約33分となる。この傾向は、実は10代男性でも変わらない。

エンタテイメントコンテンツほどテレビ受像機での視聴時間が長い傾向

ネット結線されたテレビでの動画視聴の可能性

・テレビ受像機でのネット動画サービス利用
テレビ受像機保有者の中のネット接続率 = 29.0%
・テレビ受像機で視聴するネット動画ジャンル
定額制動画配信サービスの「ドラマ」、共有系動画サービス(YouTube)の「音楽」。
ネット接続されたTVではYouTubeを音楽再生プレーヤーとして利用するケースが意外に多い。(今や家庭で一番いい音のスピーカーはTV)
・テレビ受像機でのネット動画視聴の影響
TVにネットを繋いでいる人は、繋いでいない人に比べ、ライブでテレビ放送を見る時間が30分少ない。
・テレビ画面での視聴実施者と非実施者の傾向の違い
定額制有料配信利用者のうちテレビ受像機の画面で配信を視聴していると推定される人は一日あたりの視聴時間が長く、またその6割以上をテレビ画面で視聴している。
→TVからは離れているが、「TV画面」からは離れていない。
・主要ブランド利用者別機器別視聴時間の構成
動画配信では、コミュニケーション系からエンタテインメント系によるほど、TV画面での視聴がふえる。
・有料動画配信サービス視聴時間の視聴場所による構成
屋外や移動中の動画視聴は決して主流ではない。見ていたとしても滞在時間は短いものである。90%の視聴者は、自宅でゆっくり視聴するスタイルを取っている

今、テレビ画面での視聴を巡る競争が次第に高まりを見せている。 これは映像視聴のらせん的進化であり、スクリーンは「一周してテレビ」に戻ったことを表している。

15年前・現在・10年後 コーホート分析によるメディア接触時間とリーチの予測

・起床在宅時間に占めるメディア接触行動 2002年/2017年
2002年:起床在宅時間の40%はテレビをつけていた。
2017年:Teen,M1,F1は軒並み半減
・自宅内メディア接触時間の変化と予測(週平均・一日あたり)
現状のまま推移すると、地上波テレビの視聴時間は伸びを期待できない。
・コーホート分析による民放テレビ接触率(リーチ)の予測
各世代は15 年経つと15 歳年をとる! 今の若年層は15年後には中年層に、30年後に高年齢層になるが、生活パターンは変わらない。高年齢層はテレビを見る、という通念は30年後にはなくなる。
現代は“若者のテレビ離れ”ではなく“テレビの若者離れ”。今の若者が彼らの生活スタイルの中で、テレビと接することが出来る環境作りが必要。

放送のネット同時配信 受容性に関する調査と期待されている役割

・同時配信の利用意向/利用予定頻度
同時配信、すなわちリアルタイム配信の必然性・有用性→ニュース・スポーツなどその他の番組は、「番組表」が頭の中に残っている人(世代)にしか機能しない。

まとめ:テレビ視聴環境の変化を踏まえた課題

オーディエンスの意識・行動の変化の理解が何よりも重要
コンテンツ側から若者のメディア文化へ寄り添っていく必要性
ネット空間において“テレビ的”(テレビの強みが活きる)視聴環境を実現することがテレビの媒体価値向上に繋がる

以上の講演終了後、質疑応答の時間では委員から奥氏へ多数の質問が寄せられ、活発に意見交換が行われました。

今ネット上では“TVCM”スタイルの動画広告が主流を占めているように見えるが?
本編の前後、途中にCMをはさむ、というTV放送スタイルの広告挿入に強い拒否反応を示す人は、現在それほど居ない。番組の中にCMが入るのは当たり前という感覚はWEBでの視聴においても受け入れられているので、TV式の広告文化やリテラシーを開発する余地はまだまだある。
滞在時間が短いコンテンツ・アプリの中での広告手法は?
例えば検索エンジンで入力したキーワードから広告を展開する手法があるが、旅行の宿泊先を探して、とっくに帰ってきているのにいつまでも旅館の広告が展開される、といった稚拙な面もまだまだあり、AIを活用した精度の高い手法を現在研究開発中である。
Recommendation Engineについて。Youtubeなどで、見たいもののキーワードを入れると、最初の数本は希望に近いものが流れるが、すぐに横道にそれた内容のものにずれていく。また選ばれる動画も玉石混合である。まともなものをチョイスしてお勧めしてくれるような機能はできないか?
コンテンツのクォリティや情報の信憑性をチョイスして、まともなものを提供するのが今のTV放送であるといえるが、局やメディアを横断しての検索ということはネット動画視聴の特色であり大きな可能性のひとつなので、上手く活用すべき。
ターゲッティング広告は今後も存在し発展するのか
規模が小さく、ターゲットが細分できるスタイルの広告はこれからも発展していくべき。しかしTVのような大規模メディアにおいては、ターゲットの細分化よりは、状況によって発信内容を柔軟に切り替えられる(例えば気温や天候による広告の切り替え)ような仕組みのほうが有効と考える
今後働き方改革などの影響により、人々の在宅率が上がる可能性があると思うが、それによってコンテンツ視聴時間=広告接触時間が増えるようなことはあるか?
総合的な在宅時間は増えるが、在宅時間が増える→TV視聴が増えるという構造に変化することは考えにくい。TVコンテンツは放送からWEBフィールドへの展開をより推し進めるべきと思う。
ネット上でTV放送を見る方法は限定的であればすでにあると聞いたが?
ここ数年の間に発売されているテレビにはネット接続機能がついており、そのテレビで見られるものをネットを通して外部のスマホなどで見ることのできる、「リモートアクセス」という機能がついている。この機能を使えば、地方でも海外でも自宅のTVと同じものを見ることができる。ただし一度にアクセスできるのは端末一台のみ、自宅のネット環境は、光回線など上り回線が高速である必要がある。

以上の質疑応答をもって研究会を終了しました。

本稿では全容のご紹介までには至りませんでしたので、詳しい内容電通メディアイノベーションラボの活動情報については、

電通メディアイノベーションラボFACEBOOKページ:
http://www.facebook.com/mediainnovationlab/

をご覧ください。

今回の研究会は、かなり情報量が多く、しかし同時に大変密度の濃いものでした。
TV画面は、実はコンテンツ視聴の主役に他ならないこと、これからは自宅のTVに何を映すのかがさらに多様化していくこと、TVCMスタイルの広告はこれからもまだまだ存在し得る事、など改めてたくさんの発見があった研究会でした。

文:ACC技術委員長 勝田正仁