インタラクティブな作品が好まれる
司会● 博報堂のチームはどうでしたか?
須田● 前の年の話を山上さんたちに聞いて、2年目に僕らが行ったのですが、行ってみると全然違うのです。そもそも公共広告のオリエンテーションは普段あまり受けたことがありません。課題は心臓疾患を持って生まれてくる赤ん坊を救うというヘビーな話題で、オリエンもすごく複雑でした。単に寄付してくれと、いきなりお金を求めるものではなく、第三世界で心臓疾患を持っている子供たちに対して、アメリカなど先進国の一流の医療技術を提供するための活動をしている存在をまず知ってほしいということでした。それを聞くと、社会的に意義のあるものだとわかり、一発かましてやろうという気持ちを忘れ、真面目になってきてしまいました。
英語に関しては、ケーススタディもありましたが、難しいものではありませんでしたし、オリエンテーションが理解できないということはありませんでした。ただし、団体の人の話に深く引っ張られて、デリケートな部分を切ってあげなければいけないと思ったのです。最終的に活動を一番端的に表わしているものとして、心電図モニターの形を取りました。団体のロゴを使ってくれという条件がありましたので、ロゴを真ん中に置いて、フラットラインに近い心波が、ロゴを通過すると元気になるというものにしたのです。言いたいことがいっぱいあるから、心波を全部コピーにして、その中で活動のことを説明しました。やはり、パッとして目立つとか、核心は何かという部分では、ちょっと弱かったと思いますね。
優勝した作品は、子供がニコっと笑った写真を使っていて、手術の縫い目が糸ではなくて人のサインなのです。サインというのは、チェックを切るときやクレジットカードを使うときにサインしますので、お金という意味。コピーは、「あなたの名前が永遠に私の心に刻み込まれます」です。
金子● それを日本人が見ると、エゴっぽく感じます。最初は気分が悪かったのですが、全てのことを聞くと納得できます。表現はいいのですが、その部分は個人的には好きじゃないですね。
司会● 僕も自分の感覚でいくと、お金を出して、そんなところに名前を残すのは最低だと思いましたね。
山上● やはり、儒教的な考え方とか、日本の一歩引いた感じが美しいという発想でいくと、そうなるのでしょう。外国の人たちは、誇りを持ってサインをしたのだということでしょうね。その感覚の落差、文化的な違いがすごくありますよ。
須田● それと審査員の癖があります。前の年は箱を手で隠すものでしたが、僕らの年も2位か3位に入ったものが全く同じなのです。今年もそういうものがあったんですよね。
今井● 毎年、指物というか隠し物がありますね。
須田● 審査員が毎年変わってしまうこともありますが、同時にインタラクティブな広告に興味があって、審査員もそういうものを選んでしまうことがあるのかなと思います。
金子● ヤングコンペはそういうものが続いているのですが、本戦は全然違うんですよ。毎回、新しいものを選ぶために、審査員は躍起になっている感じがします。カンヌは定型ではなくて流動的な感じがするのですが、ヤングはすごくお子様扱いされている感じがします。
須田● でも、行ってみて目茶苦茶面白かったですね。人種やバックグランドが違っても、仕事として広告を選んだ同じ世代の人間が、24時間、同じ課題に対してアイデアを作り上げていく中に、自分が身を置いているダイナミズムがあるわけです。日本では、なかなかそういう機会がないですからね。英語やマックが必要条件になるかも知れませんが、若い人がもっと行きたいと思ってもいいのではないでしょうか。

金子 敦氏
(博報堂)