アイデアよりもマインド
司会● 今井さんは2年にわたって、コンペに出ないヤングクリエイティブと、コンペに出るヤングクリエイティブを経験されましたよね。
今井● 私は去年は自費で行って、須田さん、金子さんとコンペが終わった次の日に一緒に食事をしました。そのとき妙に熱い二人だったのです(笑)。このコンペに出ると、何かとてつもないパワーをもらえると思って、できたら出たいと思いました。そうしたら、今年、運よく自分たちが出られることになったわけです。
最初に思ったのは、楽しもうということです。去年の二人がイキイキとしていたので、自分も負けてはいけないと思いました。でも、自分たちとしても賞が欲しいので、高草木さんたちに会いに行って、いろいろ傾向を聞きました。最初はビジュアル・アイデアを考えていたのですが、「それよりもマインドだね」という高草木さんの言葉を聞いて、国連大学に資料を取りに行き、過去の公共広告を調べました。
それまで英語でコピーを書いたことがなかったので、ひたすら写経して、どういう言葉が使われているのか、どういうリズムなのかを勉強しました。それで見えてきたのは、今すぐ手紙を書けとか、今すぐ金を出せとか、すごいストレートだということです。
遠山● 僕も最初は絵作りのアイデアからだと思っていたのですが、問題を考えてひとつひとつ潰していく時間もないので、まず、どのような公共問題があるのかという形から入らないと話にならないだろうと思いました。エイズという問題をひとつ取っても、たくさんの問題があるわけです。それをひとつひとつ考えてもしょうがないので、そういう現状を知ることにすごく時間をかけました。
今井● 公共広告がどういうアティチュードで意見を発しているかということもあります。やはり、現状はこうですよと言うだけにとどまらないで、全ての公共広告が何らかのアクションを期待しているのです。例えば、「エイズは恐い病気です」ではないのです。エイズの患者をこうしましょうとか、一歩進んでいます。私たちは普段の広告でそこがあまりできていないのです。ストレートな表現は、あまりしないじゃないですか。そのメッセージがストレートになり過ぎないためのユーモアとか、ウィットのきかせ方ということが、自分たちはすごく遅れています。
コンペに向けてアイデア出しをしようということで、3日前に合宿と称してカンヌに入ったのです。3日間ですごい数のアイデアを出しましたが、その中でもやりやすいもの、やりにくいものがありました。ちょっと難しかったのがエイズです。すでにやり尽くされているから、今さら出ないよと言っていたら、今年のテーマがエイズでした(笑)。
実行委員の人が、「今さらと思うでしょうが、その今さらが問題なんですよ。今、エイズについてみんなすっかり危機感をなくして、関心が薄れて寄付金も減ってきている。そこをどうやって警告してあげるかです」と言うのです。クライアントはエイズを本当に撲滅させるための研究にお金を寄付するインテリジェントな団体で、その将来的なサポーターを育てることが目的でした。
これだけは悔いのないようにしようと思ったのが、目立つビジュアルです。コピーも、普段より大きくしました(笑)。しかも、他人はやらないもの、去年のものとネタがかぶらないもので、インパクトがあって、一言でわかるものを考えました。
大木をネガ・ポジ反転したら、警告のメッセージになるのではないかと遠山が提案したのですが、HIVポジティブとの関係がややこしいから止め、最終的に大木の枝を血管にすることにしました。エイズは血から血へ感染するし、母子感染の話もあったので、そのアイデアにしたのです。自分たちはノリノリでやっていたのですが、通りがかりのカンヌスタッフに、後ろから「BONSAI?」と言われて沈んだりしていました(笑)。
遠山● コンピュータで人間の血管を木にしたのです。
今井● いろいろな国の人に自分は日本から来たとパーティーなどで言うと、結構作品を覚えている人が多くて、目立つことは自分たちの目論見どおりでした。ただ、メッセージがちょっと普通で、仕事をしちゃったというか、真面目だったかなと思います。
クライアント名が「American Foundation for AIDS Research」というのですが、1位の作品はエイズ研究の?S?を隠すと「aid research」で、リサーチを支援しましょうという団体名に落ちていて、支援するというアクションになるのです。指隠し物だけど結構スマートかなと思いました。
結果的に賞は取れなかったのですが、32ヵ国の人が全く同じ条件で戦えるような贅沢は、たぶん一生ないだろうと思いましたね。周りにいる人たちも、誇りに思っている感じでした。

今井雅子氏
(マッキャンエリクソン)