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マッキーだけで大型OOHを仕上げる
手書きの味わいとクオリティのバランス

この世には、「なんだこれ、どうやってつくったんだ?」と驚くようなクリエイティブがある。または「簡単そうに見えて実はかなり高度。だから、効いた」というクリエイティブもある。そんな作品の中の人に、制作の裏側をお聞きします。
初回となる今号では、OOH「マッキーでマッキー広告」の制作チームが登場。歌手の槇原敬之さんがデビュー35周年イヤーにリリースした、自社レーベル設立15周年記念アルバムの広告を、油性マーカーの「マッキー」(ゼブラ)だけで書いちゃった!本人イラストや文字、QRコードからブランドロゴまですべて手書き。その工夫とこだわり、教えてください!

上道 里奈(J.C.SPARK/デザイナー)
1998年生まれ。名古屋学芸大学卒業。OOH、新聞広告、ロゴ開発、ブースデザインなど、媒体や手法を問わず幅広く手がける。
ジュエリーブランドの年間ビジュアル制作や飲料メーカーの広告をはじめ、アパレル、金融、大手飲食チェーンなど、日常の中で目にする多様なブランドのビジュアルに携わってきた。

一森 加奈子(電通/アートディレクター)
1995年、大阪府生まれ。2018年、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。同年、電通入社。Firstthing所属。
タイポグラフィやパッケージデザインなどを得意領域とする。

林 苑芳(電通/コピーライター、プランナー)
2021年電通入社。幼少期を天津とパリで過ごし、小学生で帰国。ニューヨークのPratt Instituteにてコミュニケーションデザインを専攻、現地でコロナ禍を経験。入社後は、日中英のバックグラウンドを起点とした、インサイト発見やメッセージの開発に従事。時代の流れの把握やトレンドハックを得意とし、番組制作などコンテンツディレクターとしても活動。

五十嵐 奏葉(電通/コピーライター、プランナー)
多摩美術大学でデザインを学んだのち、2022年電通入社。
笑えて心が和むような企画を、手を動かしながら考えることが好き。

マッキーでマッキー広告 <OOH>

【材料】

  • 油性マーカー「ハイマッキー」
  • A4用紙
  • 太ペン細ペンの検証
  • ペンの質感が生きる線の検証
  • 誰もが知ってるあだ名同士
  • 誰もが知ってる歌詞
  • ゼブラさん企画ご快諾

チームでわいわい、まっすぐな企画

槇原さんの事務所「ワーズアンドミュージック」から依頼を受けた広告です。オリエンは、「レーベル15周年記念アルバム発売と、槇原敬之デビュー35周年を盛り上げるための施策を考えてください」というものでした。
まずは電通の3人で、チャットでわいわい企画会議。この中の五十嵐が偶然にも槇原さんの大ファンで、昨年は2度もコンサートに行っていたくらい。槇原さんらしい企画をということでアイデアがあれこれ出されました。
これまで、アーティストの広告はどうしてもファンだけで楽しむものになりがちでした。せっかく知名度の高い方なのに、それではもったいない。どうすればファン以外の人にも楽しんでもらい、話題にしてもらえるかというのが企画の肝でした。プランナーの林から、「マッキーおめでとう!※黒のマッキーで書きます」というアイデアが出てきたときに、満場一致で「やりたい」と。せっかくだからご本人のイラストも載せたいね、といったふうに企画が広がっていきました。

通常、ダジャレものは企画会議で「はいはいダジャレね」とスルーされがちです。今回は若手しかいないうえに、企画が決まってから入稿まで数週間という超スピードが求められました。その勢いでどんどん推し進めて、デザイナーの上道がクオリティをぐっと上げたことで世間からいい反響をいただくことに繋がった。楽しくわいわいとストレートにつくっても、いいアウトプットは生まれるんだなあと多幸感いっぱいの仕事でした。

書き文字の“マッキーらしさ”にこだわる

ゼブラさんにコラボをご相談したときは、ぜひやりましょうと喜んでご協力くださいました。元々、コラボグッズを出したり槇原さんのPVにペンのマッキーが登場していたり、ファンがそれを見つけておもしろがるといった関係があったこともよかったことです。
媒体を決める際は、新聞広告という選択肢もありました。ただ、新聞読者に限らず広げたいという点でOOHに。1週間掲出できて、ファンが自分のタイミングで見に来ることができ、見た人が拡散してくれるというメリットを選びました。掲出は(東急東横線)渋谷駅と、槇原さんの出身地である大阪駅(阪急梅田駅&大阪駅)の2カ所。大阪は全長約28mの大きい枠が取れそうだとなり、ゴージャスバージョンをつくろうと盛り上がりました。

(クリック/タップで画像拡大)

コピーは槇原さんの名曲から、「どんなときも、どんなときも、」の歌詞をお借りして。通りがかる人が歩きながら口ずさんでくれたりと、“誰もが知っている歌”の力を感じる現象が生まれました。その現象を引き出すためには、見る人に響く文字のパターンを生み出す必要がありました。
文字の雰囲気がかなり重要になるだろうということで、制作のJ.C.SPARKの何人かにマッキーで文字を書いてもらい、プチオーディションを開催。結局いざ選んでみたら、上道案が採用されていました(笑)。どんな文字なら言葉の印象がよくなるのか、槇原敬之らしさをどう出せるのか。サラッとした字、力強い字、いろいろと検証し、最終的にマッキーというペンの特性を活かした少しカクカクしたラフな字に決定しました。
駅の中には、フォントで整えられたカラフルな広告が並んでいます。その中で、白ベースに黒のマッキーで手書きというシンプルさが逆に目立っていました。完璧な字じゃないということが味となり、槇原さんに落ちている。とてもいい広告になったと思います。

「手書き」のクオリティを完成させる制作の力

デザイナーの上道に仕事が回ってきたのは、実はアートディレクターの一森がイラストを全部書き上げたタイミング。持ち込んだイラストをどうレイアウトするか、色校正と同時進行で、1週間で手書きの原稿をジャンプアップさせる必要がありました。難しかったのは、OOHの大きさに拡大することで、線のバランスが大きく変わること。一部だけ太かったり、間が大きく開きすぎてしまったり。縮尺がうまくいくようにと、何度も何度も書き直しました。 
これまで手書きで文字を書く機会は何度かありましたが、グラフィックの横にコピーを添える程度。ここまで大きい手書きのメインを描くのは初めてです。
OOHにはまったときにどう見えるか、マッキーの質感やおもしろさを伝えるためにはどうすれば、と考えながら書くのはなかなか難しいことでした。下書きなしで一気に書き上げるのですが、書き続けるうちだんだん字がうまくなって、味わいが薄れていってしまうのがまた難しいところで。
手書きという企画なので書いた線自体をいじることはできませんが、バランスは調整できます。きれいに並びすぎず、ちょっとラフな感じのレイアウトを心がけました。

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QRコードやロゴまで手書きです。そのこだわりで「マッキーで書いた広告です!」と言い切れるし、話題になったポイントともなりました。マッキーらしさが出るよう、定規など使わずわざとゆがませたり、塗りむらがあったり。本当に読み込めるのか不安でしたが、リンクに飛べたときはホッとしました。
人物イラストは、槇原さんの写真の上に薄い紙を敷いてバーッとマッキーでなぞります。ただ、それだけだと本人に似ないので、調整の妙で似せていきます。ちょっと眉毛を下げたり、輪郭を変えたり、人物写真のレタッチのようでした。
基本的に1年に1枚写真があるので、ほぼほぼ35周年で35人近くを並べた感じです。大変でしたが、楽しい作業でもありました。

SNSでの広がりも功を奏してファンの集まる場に

掲出されたOOHには槇原さんが実際に来てくれて、ペンのマッキーを持った写真をSNSに上げてくれました。それにゼブラさんものっかって、公式アカウントで絡んでくれました。
そんな素敵なやりとりのおかげもあって、ファンの方々がOOHを訪れて、槇原さんと同じようにペンを持って写真を撮り、拡散してくれました。本当に気持ちよく、みんなにとってよい着地ができたと感じています。

結果として、OOHはファンの集まる場となりました。複数人で来て「久しぶりに集まった」と言っている方も。そういうことが、嬉しかったです。
おもしろかったのは、多くの人が家にあるマッキーで真似して手書きイラストを描いてくれたこと。その写真をSNSに上げて、さらに拡散してくれました。みんなが絡んでくれるのは、企画がわかりやすかったり、想像しやすいメッセージだったからだと思います。SNSでも、「みんなが一回は思い付くやつ」とつぶやいている人がいました。それが狙いというか、共通認識でおもしろく捉えてもらうことができた。OOHを見ていない人にも伝わっていくわかりやすさ。このチームでできたからこその、よさだったと感じています。

※QRコードの商標は(株)デンソーウェーブの登録商標です。

text:矢島 史