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クリクロレポート/オープニングキーノート
『NEW CREATOR’S VOICE』
~クリエイティブな賞から、クリエイティブな生き方へ~

「TOKYO CREATIVE CROSSING」のオープニングに、広告の仕事を足掛かりとしながらも、さまざまな領域の「今、おもしろい」を仕掛けるトップクリエイターに集まっていただきました。映画、教育、NFTアート、ガストロノミー。これからのクラフトとアイデアとメディアの関係は? 業界を超えて、未来のクリエイティブはどこに向かうのか。

【Speaker】

市耒 健太郎

【MC】市耒 健太郎 氏

平野 紗季子

平野 紗季子 氏

長久 充

長久 允 氏

草野 絵美

草野 絵美 氏

福田 崇

福田 崇氏

まずは自己紹介
広告界を通ってその先にいったクリエイターたち

市耒: クリエイティブディレクター(以下CD)をしながら「恋する芸術と科学」ラボを主宰し、現在は「UNIVERSITY of CREATIVITY」を主宰しています。ここでは、「We are ALL Born Creative ~ すべての人間は生まれながらにしてクリエイティブである」という旗のもとに、さまざまな創造性を研究しています。例えば、こちらが「創造性全史」ですけれども、人類30万年の創造性を研究することで未来へのヒントを探しています。すべての世代、職業の人に門戸を開いたこの学校に、今日はさまざまなジャンルでご活躍の方々にお集まりいただきました。過去に広告の業務を経験された方たちでもあります。

今、固定されたメディアでものを生み出すということではなく、メディアがうねりながら、そこにクラフトとアイデアをのせる新しいつくり方の時代が来ていると感じます。米Forbes誌が選ぶトップクリエイターランキングを見ても、みんな自分の放送局を持つようなSNSクリエイターが選出されていたり、一時期はNetflixの時価総額がトヨタ自動車の時価総額に近づいたこともありました。そのような中で、クリエイティブはどこに向かっているのかの話ができたらと思います。

長久: 僕は映画監督、脚本家、演出家です。以前は坊主頭でスーツを着て広告会社で営業をしていたんです。つらくなってコピーライター、プランナーを10年くらいしていましたがこれも具合が悪くなってしまって。有給休暇をとって『そうして私たちはプールに金魚を、』という短編映画を撮ったんです。それがサンダンス国際映画祭でグランプリをいただけたもので、会社に「映画監督としてやらせてください」とプレゼンしました。許可されたので、『WE ARE LITTLE ZOMBIES』を撮ったり、MVをつくったりするように。今は海外ドラマの撮影をしていて、夏にはグッチのショートフィルム「KAGUYA BY GUCCI」をつくりました。

草野: 坊主頭で営業の時代から、今のロン毛になるまでの時間を想像できますね。

長久: スーツもすぐ捨てたし、髪の毛は絶対に切るものかと思ってました。日本では電通にマネージメントをしてもらい、海外ではCAA(クリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシー)にお願いしています。

市耒: 長久さんの作品すごい好き。社会臨床学的なところもあるし、仏教的で、言葉の使い方やカメラワークがユニークなんだけどアニミスティック。岩井俊二さんとスパイク・ジョーンズのいいところ取りみたいで、とてもかっこいい。

長久: そのあたり通ってますしね。ずっとキリスト系の学校だったのでその反動もあって。日本で育った価値観をそのまま出したら、海外でおもしろがられたということもあります。

草野: 私はもともと広告会社でプランナーでした。ミュージシャン活動もしていて、SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)に出張して当地でライブしたり。今は子育て本を出したり、アート作品をつくったりしています。
また、夏休みに8歳の息子がNFT(※1)を売ってポケモンカードを買いたいと言ったところから、私もNFTをミント(※2)するようになりました。海外の方からも買ってもらえて、NFTコミュニティに支持されていろいろな展開をするように。息子の作品はピコ太郎さんとテーマソングをつくったり、東映アニメさんと世界観をアニメ化していただいたり、世界最大のメタバースプラットフォーム「The Sandbox」とコラボしたり。
息子の作品を買ってくれた方と共同創業で、「新星ギャルバース」というプロジェクトも立ち上がりました。8888体のギャルがいろいろな惑星に行ってミッションをこなすという物語なのですが、私が好きだった魔法少女アニメと、組んでいるクリエイターの大平彩華さんの好きな『攻殻機動隊』や『AKIRA』といった少年アニメを掛け合わせて、新時代の“つよつよでかわいい”日本のギャルカルチャーを踏襲。世界最大のNFTプラットフォーム「OpenSea」で売り上げランキング世界一を3日間達成し続けました。今は、NFTを日本に広げる活動をさまざま行なっています。
その売り上げで、アニメーションやアバターをつくっています。今までクリエイターが資金調達をするのは難しかったのですが、時代の波にのれたことはラッキーだったと思います。

※1) NFT: Non Fungible Tokenの略で、データの所有権を証明できるブロックチェーンの技術。「唯一無二のデジタルデータ」とも言われる。

※2) ミントする: NFTを作成、発行すること。

市耒:クラフトもあるし、アート、エンタメ、親子の関係もある。アーキテクチャー、新しい展開もつくっている。

福田: 僕は2022年の春までクリエイティブディレクターとして広告をつくっていました。去年の夏に茨城県の民間校長の公募に書類を出してみたら、プレゼンができるものだからあれよあれよと通っちゃって、茨城県立水海道第一高等学校・付属中学校の副校長(来年校長)に就任することに。2019年に教育のプロジェクトを立ち上げたとき、いろいろなところから呼ばれて「教育はこう変わらなくては」とえらそうに話すようになったんですね。でも、いつか「現場をやったことないくせに」と詰められる日が来るんじゃないかと思って、手を上げてみたんです。
学校では、電通の人を呼んでクリエイティブスクールを開いたり、学校PVをつくったり、お笑い芸人を呼んで「どうして売れないままがんばってるの?」と聞いてみたり。どうすれば生徒たちがおもしろがるかと、培ってきたクリエイティブの力で生徒たちがどう変わるかと、社会実験のようなことをやっています。

市耒: ついにクリエイティブディレクターから校長先生になる人が出ましたね。「おもしろくなきゃいけないから、おもしろくする」という。詰め込みベースから好奇心ベースに変えていく。この話、あとでじっくり聞かせてください。

平野: フードエッセイスト、フードディレクターをやっています。小学生のときから食日記をつけていて、それが高じて本を出版するに至ったのがこの仕事のきっかけです。誰でもグルメレビュアーになれる時代ですから、情報ではなく物語を届けるという気持ちで向き合っています。
また、もともと食べながら副音声のように解説を聞くのが好きで、そういう番組があったらとPodcastを始めました。これが「JAPAN PODCAST AWARDS 2021」で大賞を受賞して、今はJ-WAVEでも放送されています。NHK Eテレでは「連食テレビエッセー きみと食べたい」という番組でテレビエッセイに取り組んでいます。日本各地の山奥や辺境の地でレストランを開いている方を訪ね、言葉と映像、イラストや音楽も使って、彼らの思いを伝えている。
広告会社に勤めていたためか、「書く」だけでなく「企てる」ことにも興味があり、今は菓子ブランド「(NO) RAISIN SANDWICH」を経営しています。ディレクションの仕事もしており、最近はグランドセイコーさんと「時を食(は)む」というテーマで和菓子屋を開かせていただきました。
あれこれと仕事がとっ散らかっていますが、その真ん中には常に「感動」があると感じます。クリエイティビティの源泉には、いつも感動がある。感動したことが樽の中に貯蔵されて、発酵して、醸造されて、出てくるしずくが企画なのかなと思います。