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クリクロレポート/オープニングキーノート
~『価値の生み出し方』をどうアップデートすべきか?~

NewsPicks Studiosとのコラボレーションで、ホースコーチングの専門家、学びデザイン代表のエヴァンジェリスト、役者/狂言師といったさまざまな領域のプロフェッショナルが「生み出す会議のつくり方」「場をとらえる即興舞台からの示唆」などをディスカッション。
「TOKYO CREATIVE CROSSING(通称:クリクロ)」のオープニングに、未来に向けての新しい価値や、経営層とアイデアをつくっていくための方法論について熱い議論をお届けしました。

【Speaker】

木嵜 綾奈(ファシリテーター/NewsPicks Studios 取締役) 東芝EMIで営業、洋楽部でメディア・プロモーションを担当。2008年に渡米し、テレビ東京NY支局のディレクターに。SPACE X イーロン・マスクCEOの単独取材や大手IT企業、アメリカ経済の取材を手がける。在米10年を経て、帰国。

小布施 典孝(ファシリテーター/電通 Future Creative Center センター長) 経営の打ち手のグランドデザイン支援、ビジョン策定、企業価値向上につながるブランディングやコミュニケーション、エクスペリエンスを手掛ける。北海道ボールパーク、日経ウェルビーイングイニチアチブ(GDW)等を担当。カンヌライオンズ2023金賞。その他国内外の受賞多数。

荒木 博行(学びデザイン 代表取締役) 住友商事、グロービス(経営大学院副研究科長)を経て、株式会社学びデザインを設立。フライヤーなどスタートアップのアドバイザーとして関わる他、絵本ナビの社外取締役、武蔵野大学、金沢工業大学大学院、グロービス経営大学院などで教員活動も行う。

石田 淡朗(役者/狂言師) 3歳から能狂言の舞台に立ち、15歳で単身渡英。ロンドン市立ギルドホール演劇学校を卒業した唯一の日本人。代表作に『レイルウェイ 運命の旅路』『Starfish』(制作)。在英中は即興の劇団を共同主宰。現在は日本での英国式演技術の活用に努める。

小日向 素子(ホースコーチング「COAS」 ファウンダー) 経営者が馬からリーダーシップを学ぶホースコーチングの主宰者。新卒でNTT入社、大学院を経て、外資系に転じ、マーケティング、新規事業開発、海外進出等を担当。2009年独立。新たな学び・成長プログラムの開発を指導し、馬と出会う。2016年に株式会社COAS設立。

これからの時代、
ブレスト→プレゼンのやり方でいいのか?

小布施:ACCのクリクロは、領域を超えるアイデアの祭典。このアイデアを、どうすれば生み出せるのか毎回悩んでいるんですよね。そもそも、価値を今どう生み出しているのか?

木嵜: 63回目となる「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」。日本の産業を取り巻く環境が大きく変化する中、クリエイティビティの力をどのように駆使して社会に貢献すべきでしょうか? 新しい時代の価値の生み出し方について、有識者の皆さんと提案していきます。

小布施:さっそくですが小日向さん、ホースコーチングとは何でしょう。多くの経営者が学びに行っていますよね。

小日向:「ホースコーチング」という言葉は私が名付けたものです。簡単に言うと“馬から学ぶリーダーシップ、あるいはコミュニケーション”です。自然や馬と対話をすることで、自分自身とも対話をするというプログラムです。

小布施:なるほど。広告業界では伝統的に、ブレストして、アイデアをつくって、プレゼンをしていくという流れが習慣化しています。これからもそういうことでいいのか?ということを今日は疑いたいと思うんですよね。これからの時代の価値の生み出し方って何なのだろうということを、みなさんに一言で表していただきました。

裸眼で考えろ
「目的」「知識」のレンズを外せ

荒木: 「裸眼で考えろ」
この言葉は、普段我々がレンズをかけて生きているということの裏返しなんです。例えば会議では、「目的」のレンズをかけている。いつまでに何をしなければ、とか。そうすると、今ここで行なっている会話の解像度がものすごく落ちてしまうんですよね。

小布施:目的があると、解像度が下がってしまうと。

荒木: 知識もそうです。「今彼が話していることはあのパターンのやつだ」と知識で頭がショートカットしてしまう。するとみんながどんな感覚をもって話しているかに対しての認知が落ちてしまいます。ダイナミックな会話って、何を、なぜここで話しているのかに集中している。
だから「価値を生み出す会議」をつくるときには、目的を忘れなくてはいけないんですよ。完全に忘れるなんてムリなんですけど、「忘れる」というくらいでちょうどよくなる。するとようやく、人の話が聞ける。人が何を言わんとしているのかにフォーカスできる。なかなか慣れるのは難しいことなのですが。
とくに会議参加者に役割が与えられていたりすると、その遂行に目が行ってしまうから。プレゼンはその典型じゃないでしょうか。「とにかく自分はこれをプレゼンするぞ」となると、場の空気なんてどうでもよくなる。オーディエンスが何を考え、何を言いたいかが二の次三の次になってしまいます。

小布施:たしかにプレゼンでは、用意したものを全部言わなくてはとなりますよね。

荒木: だから今日も自分の目的を忘れて、対話そのものにフォーカスする状況をつくりあげられるかが大事だと思っています。

木嵜: 時間が必要ではないですか? 1時間の会議でこれを決める、というときに、目的を忘れていると収まらない。それがダメってことなんでしょうけど。

荒木: ダメというわけではないんです、制約は必ずありますから。忘れろと言っても完全に忘れられるものではないので、それぐらいの意識をすることでようやくセンサーが開くという感じです。

外からの情報と内からの情報
非言語のコミュニケーションを重視

小日向:「感覚(外)(内)」
五感、七感といった外部からの情報を使うセンサーと、「今自分は緊張して胃が重いな」といった内部センサーにフォーカスしようということです。荒木さんが「今ここで起こっているほかのメンバーのことがわかるようになる」とおっしゃったのと同じ感じ。言葉の世界で生きていたときには見えなかった何かを、感じられて、見えるようになってくる。

小布施:意識を一度、内に向けるという感じですね。

荒木: 馬には言葉が通じないから、感覚と感覚でコミュニケーションするんですよね。小日向さんは、経営者と馬の非言語コミュニケーションの場をつくっている。

小日向:言葉の檻の外に出る体験をしてもらっています。のちに振り返って言語化もします。自分が馬とどんな対話をしたのか、その言語化をするプロセスもとても重要です。

小布施:言葉を交わさないコミュニケーションのなかに、新しい価値のつくり方があるのではないかということですね。

荒木: 価値って言葉によってつくられているという認識がある。その一面もあるのですが、言葉にできないなにか、暗黙知にすごいポテンシャルがあります。そこを開くだけでだいぶ価値のつくり方は変わってくると思います。

枠があるから、余白が生まれる
その場で生まれる物語

石田: 「余白で考えろ」
僕は15年ロンドンにいましたが、「余白」「余裕」は英訳しにくいんです。日本語感覚の余白は、「margin」では済まされない大きな意味を持つ。これはもしかして、日本の秀でている感覚なのかもしれないと。三間四方の能の舞台は、真四角な枠。余白は、この枠があるからこそ誕生するものだと思います。枠があるから、余白に価値が生まれる。

小日向:ホースコーチングでやっていることととても似ています。まだ日本には少ないプログラムで、海外では多いので、仲間と話すと英語になるんですけど、余白を「space」とか「pause」と呼んでいます。
クライアントたちと馬はアリーナと呼ばれる舞台にいて、私たちはそのスペースをファシリテートする、大事にホールドしています。すると馬とクライアントの間に物語が生まれて、クライアントにはそれを持ち帰ってもらっています。

小布施:そこへ行く経営者たちの目的は何でしょう。

小日向:延べ2,000人ほどの実業家や企業役員の方々が来ています。目的はバラバラですが、あえてひとつ言うならば、リーダーシップをアップデートしようと意気込んでいらっしゃる。時代が変わっていく中、このままではいけないと思っている経営者がほとんどです。
あとはAI時代に対抗して、五感的なもの、人間らしさを強める方向にフォーカスしています。2010年くらいから、人間性を取り戻すといった動きへのニーズが高まっていて。私は2008年まで会社員をしていたのですが、その頃は誰に話しても「は?」と言われた。最近は通じますね。

小布施:経営者層はなにより価値を生み出そうとしている人たちですもんね。悩まれているんでしょうね。

小日向:切迫感があるんでしょうね。