クリクロレポート/オープニングキーノート
今、熱い!
「IPコンテンツ×広告クリエイティブ」
近年増加している、IPコンテンツを用いた広告作品。日本の誇るマンガ、アニメ、キャラクター、ゲームといったIP市場が活性化する今、何を意識し、どうIPと向き合えばビジネスを成功に導けるのか?
「TOKYO CREATIVE CROSSING 2024(クリクロ)」のオープニングにふさわしい実際の成功事例を持ち寄っていただき、それぞれ3つの視点から紐解いてまいります。
■モデレーター
谷 菜々子氏(電通/コピーライター、プランナー)
林 龍太郎氏(博報堂/アクティベーションディレクター)
村上 絵美氏(ADKマーケティング・ソリューションズ/クリエイティブディレクター/アートディレクター)
■パネラー
【chapter1】
佐野 貴子氏(サントリー食品インターナショナル/コミュニケーションデザイングループ 課長)
【chapter2】
久松 みずほ氏(読売広告社/プランナー)
【chapter3】
増田 究平氏(電通/プランナー(当時:集英社 常駐))
町田 悠至氏(ADKマーケティング・ソリューションズ/ビジネスプロデューサー)
IPとはなにか? 【chapter1】サントリー「BOSS」
×『クレヨンしんちゃん』事例 【chapter2】
花王Essential×アニメ『【推しの子】』事例
(閲覧期間:2026年1月末まで) 【chapter3】
「ONE PIECE FILM RED」
作品宣伝事例
【chapter0】IPとはなにか?
「IP」とはIntellectual Property「著作物や商標、意匠や発明といった無形の知的財産」を指します。当業界においては主に、マンガ、アニメ、出版、キャラクター、映画、ゲーム、音楽などクリエイティブな活動によって生み出されたコンテンツを指すことが主。
この10年、市場は右肩上がり。とくにゲームとアニメが成長しており、アニメに関しては市場規模が約2倍になっています。
映画産業も10年で変化を見せ、ヒット作はアニメIPがけん引。音楽のヒットも、アニメIPのテーマソングであることが必須になっている状況です。
生活者の趣味も20年で変化をし、動画視聴、ドラマ鑑賞、モバイルゲーム、マンガ・アニメが10位以内に入ってきています。最近よく聞く「推し活」も定番化。昔はIPファンは「オタク」と言われてきたが、今や大衆化し「一億総オタク時代」に突入しているのです。
IPコンテンツのファンというのは、永続的にコンテンツを買い続けてくれるロイヤルカスタマーと捉えられます。これにより、IPコンテンツ市場が充実し、IPビジネスが活発化しています。
■IPビジネスとは
IPを持つ人物・企業が作品自体を販売して収益を得るだけではなく、そのIPを販売または貸与することでさらに収益を得ようとするビジネスモデル。
「自社IP」自社で権利を保有しているIP。自社での活用、ライセンス使用料などで利益を生む。
「他社IP」他社のIPを借りるもしくは購入し、コラボレーションすることでビジネスに活用する。
中でも企業とのコラボ、広告やイベントへの起用が増加。「コラボ期間中は1.5倍の増収」「WEB CM公開前週と比べ売り上げ174%」など成功事例が多く、近年さらにコラボ案件が増加しています。
とはいえIPというのは繊細で、業務の難易度は高いもの。「何を意識し、どうIPと向き合えばIPビジネスを成功に導けるのか?」について、3つの視点から紐解いてまいります。
【chapter1】
サントリー「BOSS」×『クレヨンしんちゃん』事例
ブランドが大切にする、IPとの“シナジー”
■パネラー:佐野 貴子氏(サントリー食品インターナショナル/コミュニケーションデザイングループ 課長)
佐野: 「ボス」は1992年の発売以来変わらず、「働く人の相棒」というブランドコンセプトを掲げています。世の中・働き方に変化が生じれば、相棒のあり方もおのずと変化します。そういった時代の変化の中で、缶コーヒー以外にもPETボトル入りの「クラフトボス」や濃縮タイプの「割るだけボスカフェ」など、様々なラインナップが生まれています。
「クレヨンしんちゃん」という国民的IPコンテンツとのコラボを企画し始めたのは2019年です。当時まだ発売して2年弱だったクラフトボスはマス広告中心に展開していましたが、このコラボをきっかけに、ブランドとしての表現幅が広がり始めました。
村上: 制作体制としては、サントリーさんに「しんちゃん」ファンでもあったデジタル担当の方とブランドの宣伝担当である佐野さんがいらして、さらに「しんちゃん」の製作委員会でもあるADKと版権元さんがしっかり連携し、IPとブランド双方の視点バランスがとても良いチームが出来上がっていたと思います。
「働く人でありお父さんでもある野原ひろしの姿を通じて、働く人たちがほっと一息ついて明日も頑張ろうと思えるようなメッセージを送りたい」ということで実施した施策です。
実は、当初のオリエンでは缶コーヒーの「ボス」で考えていたのですが、ひろしが35歳と知って、クラフトボスに変更をしました。この企画が出る頃に発売予定だったクラフトボス新商品のターゲット年齢がまさにど真ん中世代だったからです。クラフトボスでIPコラボを展開したことはなかったけれど、ターゲット世代がひろしの姿と自分が重なるような見え方ができたら、素敵なコラボになるんじゃないかと思いました。
村上: ブランドの想いを形にすべく、IPの作品性を大切にしながら、チャレンジもしました。
チャレンジというのは、「赤ちゃん時代のしんのすけを登場させる」「弱音を吐かないひろしが悩みや胸の内を吐露する」というところ。
大切にした作品性というのは、エモーショナルとギャグのバランスです。また髙橋渉監督をはじめとした映画チームに制作をお願いし、映像のクオリティにもこだわりました。
村上: その結果、動画はトレンド入りし、1,000万回以上再生。お父さん世代を中心に共感の声が集まりました。
佐野: IPコラボを考える時には、ベースとして、「ブランドのテーマ」、「コンテンツの魅力」、「モーメント」の3つの掛け合わせができているかをまず考えますし、働く人が「今の自分でいいんだな」「頑張ってみよう」と勇気づけられる読後感を大切にしています。そこと交わるところを、「コンテンツの魅力」の中で探します。
佐野: しんちゃんはファンの多い国民的コンテンツなので、コラボするならばファンの方たちを裏切らないようにというのが最低限のマナーだと取り組みました。 せっかく組ませていただくのであれば、コラボ先の新たな一面を引き出したいという思いがありました。今回で言うと、しんちゃんの小さい時や、ひろしが30歳の時など、こんな一面があったんだというところを引き出せたら。ブランドが大事にしたい部分と、コンテンツの魅力の重なりが大きければ大きいほど深い共感をもたらすことができると考えます。
村上: まとめますと、
①ブランドとIPの親和性が高いほど、ターゲットの深い共感が生まれ、ファンの信頼と強いLOVEが生まれる。
②IPを好きすぎると盲目になってしまいがちですが、「IPに詳しい人」×「IPを客観視する人」両方の視点が、幅広い層の方々に喜んでいただく鍵。
③ブランドからIPへのリスペクトと愛情がIPホルダーとの一体感を生み、相棒・チームとして同じゴールに向かうことができる。
こういったことが言え、関わったすべての人がハッピー、というお仕事になったと思います。
ありがとうございました。
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK
【chapter2】
花王Essential×アニメ『【推しの子】』事例
物語と現実がリンクする―IPコラボの新潮流―
■パネラー:久松 みずほ氏(読売広告社/プランナー)
(閲覧期間:2026年1月末まで)
久松: 『【推しの子】』は、アイドル界を舞台にして芸能界をリアルに描いた作品です。ここに出てくる「B小町」を、実在のアイドルグループとしてアンバサダーに起用するというのがコアアイデアでした。
一方でEssentialは、リブランディングしてZ世代にアプローチしたいという課題を持っていました。
人気IPであるため多数の企業コラボがすでにされており、埋もれることなくファンが反応する施策にするにはどうすればいいかを考える必要が。そのために、ファンが作品を楽しんでいるポイントを探しました。
ファンは、「リアルとフィクションの狭間のストーリーに引き込まれている」。よって『【推しの子】』の世界を現実に持ち込んだら、ファンも見たことないような見ごたえのあるストーリーのコラボがつくれるのではないか?と考えました
久松: そのために、「B小町がEssentialのアンバサダーに!」というメタ文脈の徹底構築をしました。彼女たちが実在するという設定を、徹底的に追求したクリエイティブに。例えば、駅広告にB小町の直筆サインを入れたり、広告出演裏側のメイキングムービーをつくったり、PRリリースにはCM出演についてのコメントを掲載したりしました。仕掛けのひとつひとつは小さいけれど、ファンが裏側を想像できる隙を随所につくることで発話を生みました。
まとめますと、
①IPのリアリティある作風を活かし、フィクションをノンフィクション化した。
②B小町が実際のアイドルだったら、と細部を徹底的につくりこみ、ファンやメディアがリアクションしやすいストーリーに。
③ストーリーの裏側を感じさせるCM、B小町の気配を感じられる交通広告など、ファンが発話したくなるポイントを創出。
久松: 結果、これまでEssentialに興味のなかった層からの興味・購入喚起の声が生まれ、シェアも上昇するという、ブランドにとってもハッピーな結果となりました。ただ単にCMだけで終わらず、その裏の世界まで創造していったファンが喜んだコラボとなり、ポジティブな声が多く聞かれました。
林: ネタを仕込む加減やポイントは何でしょう。つい、やりすぎてしまいがちなところのバランスをどう取ればいいのか。
久松: ファンから「これじゃない」と思われるのが一番しんどいので、作品を読み込み、「このキャラならこうするだろう」という細かいところにこだわりました。
林: 今後、アンバサダー企画は増えていくのでは。どういった作品が向いているのでしょう。
久松: 日本の現代社会が舞台で煌びやかなキャラなら、違和感なくなじみやすいのではないでしょうか。反対に、すごくギャップのあるキャラというのも文脈をつくりやすいのかなと思います。
林: なかなかそれを見つけ出すのが大変ですよね。コンテンツ愛が必要になってくるところです。キャラクターが実在の生活の中にあたかもいるように見立てるというのは、コンテンツを愛する人はみんなやりたいこと。みんなが“一斉に見立てる”ことができるのが広告という力で、企業との結びつきがあるからこそ交通広告やCMで同時に見立てることができる。みなさんの次のプランニングのヒントにしていただければと思います。
©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会
【chapter3】
「ONE PIECE FILM RED」作品宣伝事例
25周年を迎えた国民的IPが巻き起こした、熱狂の仕組み
■パネラー:
増田 究平氏(電通/プランナー(当時:集英社 常駐))
町田 悠至氏(ADKマーケティング・ソリューションズ/ビジネスプロデューサー)
谷: 『ONE PIECE FILM RED』は国内興行収入200億円を超えて国内映画興行の歴代6位、世界でも300億円を超えました。いかにしてこの成果を出したのでしょう。
増田: ちょうど原作の漫画『ONE PIECE』が連載25周年を迎えたところでした。ただ、2022年当時はコロナ禍で、どうコミュニケーションをとれるのかという最中。
映画を使って(漫画の)『ONE PIECE』を最大化するには、(漫画の)『ONE PIECE』を使ってこの映画を最大化するには、に主眼を置いて施策を展開していました。
アニメや映画の興行収入が飛躍的に伸びたのは2020年代以降。それはコロナ禍と重なっています。広告コミュニケーションやマーケティングメソッドの在り方も変わり、今までできたことができなくなったり、逆に新しい手法が出てきたり。そういうことは2021年~現在の3年くらいかなと思います。
こういった状況の中、改めて『FILM RED』の映画宣伝にソリッドに向き合いました。
谷: これは実際に宣伝に使用していた設計図ですね。
増田: 原作25周年記念の映画と銘打った時に、本来はコントロールできないところの原作との連動が奇跡的にはまったんです。
① 原作とシンクロした映画宣伝
増田: 成功の大きな要因は、原作と映画宣伝が奇跡的にシンクロしたことです。原作「ワノ国編」が節目を迎える中、主要キャラクターが「そんなに怖いか?【新時代】が!」と話して終わる。映画の曲タイトルも「新時代」であり、そのタイミングに合わせて話題量の最大化を狙ってスパイクを置きました。話題量の最大化を取りに行くため、スパイクをそこに置きました。
谷: 週刊連載とこんなにハマるというのは聞いたことがあまりないですね。しかも原作の中に映画のキーワードが出てくるというところも、ファンが熱狂したひとつのポイントだったと思います。
② 歌姫 ウタを創造する
「ウタ」を一人のアーティストとして最大化する宣伝施策
増田: ファンにとってはウタがシャンクス(※原作主要キャラクター)の娘であったり、監督がパイロット版アニメの監督をしていた谷口悟朗さんであったりというトリビアも、コアファンやアニメ界隈の人々にとってキーワードになっていました。
一方で、Adoさんに曲を歌ってもらい、中田ヤスタカさんなど7組のアーティストに楽曲提供をいただいて、ウタというキャラクターをどう活用するかも大きなポイントに。それがこの映画を観に行かないであろう未関心層へのアプローチになりました。素人ながら、ウタといういちアーティストを立ち上げるつもりで活動していました。
クリエイター陣がつくりあげたウタを、我々がどうできるか、と。ウタというキャラクターが実存の世界の中でアーティストとして楽曲を出し、劇場公開前に思いをV-logで少しずつ語っていく。そこを大事に育てていきました。
谷: こういった形でグランドタイムラインを組んで。7曲を豪華なアーティストの方々とコラボレーションしています。
谷: フル版をいつ出すかなども、工夫されたコミュニケーションだったかなと思います。MV、歌も含めて多くの人が熱狂する結果になった。
増田: 「FNS歌謡祭」や「ミュージックステーション」などに出演し、史上初めてアニメキャラとして「紅白歌合戦」にも出場し、おかげさまで22年は年末いっぱいウタと一緒に駆け抜けた年になりました。
【作品宣伝に関する具体的な事例】
町田: 国内事例としては、映画公開のタイミングで渋谷をジャックしたり、ウタのアーティストとしての宣伝を具現化したりといった活動をさまざまに行なっていました。全国8大都市で原作1話分を載せた号外を同時配布し、全国のファンに届くように行ないました。大事なのは、既存ファンだけでなく、その外側の人たちの興味を惹くことでした。
海外では、北米公開を控えてNYでタイムズスクエアの6つのビジョンをジャックし、上映予告をしました。
現地ファンが多数集合して、広告の域を超えたイベントのように。
谷: SNSでも非常にバズったんですけれども、海外のメディアにも取り上げられました。
町田: NYコミコンがあったので、アメリカのコンテンツファンがコスプレで集合してくれたんです。広告が始まる1分前からカウントダウンが始まっていました。
実は日本のIPとして初めてタイムズスクエアをジャックし、コミコンのタイミングだったことで大きな盛り上がりをつくることができました。当時はまだ日本のコンテンツを大々的に海外でプロモーションするような例がなかった。その後『鬼滅の刃』もタイムズスクエアジャックをしたりと、海外プロモーションが最近は増えています。その一番最初を飾れたのがよかったと思っています。
村上: みなさま、素晴らしい事例と視点をありがとうございます! 観てくださった方にとって、今後IPコンテンツを用いる際のヒントになればと思います。