総評
受賞作を通して自分が感じたキーワードをいくつか挙げてみました。
- ■価値観の対立
- 受賞作の多くに共通しているのは、価値観の対立構造というのをはっきり意識して、それを土台にして表現しているということです。
「女性らしさVS男性らしさ」とか、「フランス映画VSハリウッド映画」とか、「病気の子供VS健康な子供」とか、「超イヤな奴VSイイ奴」という。
「イイ奴」というのは大体広告で描かれているステレオタイプな主人公像ですね。そういったコントラストがあることが共通しています。
そういうコントラストを音楽で作る場合もあるし、キャストで作る場合もあるし、トーンで作ることもある。
ブランドとの関係性において、価値観の対立を上手くその映像の言葉に落とし込んでいる、アイデアが強いということです。 - ■勇敢さ
- 審査員長のピートの掲げた「勇敢さ」というキーワードは、価値観の対立を描く時に必然的に生まれてくる態度なんだと思います。
ブランドにその勇敢さがないと、常識とか、ステレオタイプというのを打ち破る戦略が立てづらい。その際に、エージェンシーとの信頼関係がベースになってくる。
今年のフイルム部門で圧勝だったNIKEは、Wieden+Kennedyと長いパートナーシップを結んでいますが、そういった点が今回の結果に反映されているなと思いました。 - ■葛藤
- 人間の中にある感情的な葛藤、コンフリクションを描くということですね。
これは尺の限られた広告では難しいんですが、特に「HALLOWEEN – TV」はパーフェクトな見本を示してくれたと思います。
人間の表面の後ろにある矛盾するような感情とか、葛藤が自然に感じ取れる設定とか、ストーリーテリングを通じて感情移入してもらう。感情こそがユニバーサルなランゲージなんだと思います。 - ■最後まで見させる力
- タイのサプリのCM「CAPTURE」や、「GRAVITY CAT」に見られるものなんですが、連続して違和感を生み出す演出力が図抜けています。
この2つとも演出家が企画に深く関わっているんだと思うんですけど、企画者と演出家が、いかに共犯関係を結べるかが、その仕事にとって永遠のテーマだと思いますね。 - ■突き抜けたOPTINISM(楽観主義)
- 「WE'RE THE SUPERHUMANS 」に見られると思います。人間を最大限ポジティブに温かく見ようとする態度というのは広告の持っている美徳だと思いますし、それが人を勇気付けたり励ましたりする力を持っていると改めて思いました。
映像には、そういうオプティニズムを心に届ける力がある。
それを「WE'RE THE SUPERHUMANS 」が証明してくれたのかなと思いました。
実際の「カンヌライオンズ2017」の様子
あとがき
この後、田中耕一郎さんと鏡明さんによるトークセッションが行われ、作品紹介とは切り口を変えたお話を伺うことができました。
報告会では、作品上映とともに会場でしか聞けないお話しも展開されます。ぜひ、来年もお楽しみに!