〈杉山俊輔氏による作品紹介〉ダイハツ・ムーブ/ミライース/企業CM/ウェイク
杉山: ミライースのCMは、ダイハツの社運をかけたといったら大袈裟ですが、本当に力の入っている商品でした。だから作り手としてはすごく詰め込んで力説したくなる。でも詰め込みすぎるとお客さんに残らないので、低燃費・低価格というところに絞って。どこがやんちゃかというと、軽自動車なのにハリウッドの大物俳優を連れてくるとか、彼をちょっといじっちゃうとか、商品名や社名を間違って言わせるとか。それによって逆説的に覚えてもらうという。
中島: すんなり上に通せましたか、この企画は。
杉山: 全然そんなことなかったです。実は「低燃費低価格」のほかに、ダイハツの企業メッセージみたいなものを織り込みたかったんですね。でもそれこそ広告を出す側の独りよがりになっちゃっていて…。この企画を出すまでに5,6回プレゼンやりなおして、トータル50~60本くらい企画を出してもらいました。そこでやっと、1つのフレームに全部詰め込むのは無理やなと思いなおして、CMを2パターンにわけて。商品特性だけをしっかり伝えるものと、企業メッセージを伝えるものに分けることができたので。そこからはすんなり行きました。
中島: 難しいお立場ですね。会社の言い分とクリエイターに挟まれて。そして金使いましたな、この時期。
杉山: 会社からは怒られましたが、社運をかけた車でしたので。マーケティングの打ち出し方だったんですけど、ハイブリッドでもなく電気自動車でもない、「第3のエコカー」というカテゴリーを作りませんかとご提案をいただいてまして。それをきちんと残そうと思ったら、1車種のCMじゃないんですと上に通しに行きました。2,3車種分の予算を使わせてもらってできました。おかげさまで、広告も評価をしてもらいましたし、商品も好調で。当初の目標を大きく上回る売り上げができました。
吉田: ここからはクリエイターのおふたりにお話を伺っていきます。
〈篠原誠氏による作品紹介〉パイロットCコレト/家庭教師のトライ/KDDI au
中島: 「シャーペン入りました」(コレトのCM)めちゃめちゃ大好きです。
篠原: プレゼン行く時って普通は緊張するんですけど、パイロットさんに行く場合はちょっと癒されに行こうかというくらい。プレゼンすると、「おもしろい~」とすごくお茶の間感覚で反応してくださるんですよ。スポットがなくてタイムだけなので、週に何回か流れるといったCMです。だからこそ企業とナリが出ないかなと思って、例えるなら“あんまり発言せんけど、たまにポロッと言うことが面白いやつ”みたいな企業です、と見えたらいいかなと。またタイムだけなんで、大体見る人が同じ。なんとなく「パイロットって企業はこんな感じかなあ」と蓄積されて思ってもらえるように、そこを気にしながら企画しました。
もうひとつルールを自分で決めたのが、商品から逃げないということ。パイロットの商品はひとつひとつにスペシャルな所があるから、商品と関係ないところで面白いんじゃなくて、ちゃんと商品の根っこにあるところで遊ぶと決めていた。結果やんちゃになってるんですけど、世の中的に面白いもの、ウケるものというのは、だいたいクリエイターがクライアントさんと一個になってる。それって信頼ということだと思うんです。クリエイターにとって一番のプレッシャーは、クライアントから「お願いします」「信じてます」と言われること。まさにパイロットさんは、「面白いです。よろしくお願いします」と言われるんで、絶対裏切れないなと。それがすごくプレッシャーになって、信頼関係があるからやんちゃなものができるといういい例だなと思って。
中島: 一緒になってやんちゃを作っていく。クリエイターが暴走するという状況は良くないということですよね。クリエイターに不信感のある広告主さんというのはいっぱいあると思うんですけど。ここにいらっしゃる広告主のお二方は、クリエイターに対して信頼があるというか、いい関係ができている気がします。
吉田: それでは佐藤夏生さん、お願いします。
〈佐藤夏生氏による作品紹介〉
メルセデス・ベンツ/ブリヂストン/Zoff/ZOZOTOWN/KAGOME
中島: ベンツの広告と思わなかったでしょ。
吉田: マリオとベンツって意外な組み合わせですね。
佐藤(夏):やんちゃというのは、おじさんのものだったのを女性のものにするとか、和食に合うと思っていたものを洋食に合うようにする、とか、商品の持ってる世界をちょっといじるというか、新しい世界に連れていくことだと思っています。メルセデスで言うと、入り口として「メルセデスらしくない」。そこから先クラフトレベルをつきつめることで、見終わった後に「あるかもね」と思わせる。その段階でブランドイメージが更新される、ブランドそのものがアップデートされる。ブランディングをする時に、ブランドのコアじゃなくて、ブランドのキワを拡張することを意識しています。キワを拡張することは新しいお客さんと関係を作ること。マリオにしてもウケればいいのではなく、この車の持つ“身体拡張感”をアイデアにしたということ。身体能力が高くなったように生活が楽しくなる、ということを起点にした時に、これはゲーム!マリオだな!という風に思ったんです。
またメルセデスのSクラスは、最高級のグレードですから、普通だったらいいライティングを当てて、モノとしてのプレミアム度を表現すると思うんですけど、僕はプレミアムというのをモノとしてではなく実用性と捉え直したんです。そういったように常にその商品、ブランド、企業のイメージが更新されることを心がけています。
中島: Sクラス、黒で、高級な場所にあってというイメージを、普通のパーキングにポンと置いてある。大胆やな~、見え方としては普通の車としてみているということですよね。夏生さんをはじめとして今日見た作品はみんなクオリティが高くて、クラフトに対するこだわり強いですね。
佐藤(夏):画で音楽を発注すると、音楽は必ず画に合わせてくるんで、僕はとにかく画を無視して、画と合わない音を探します。「こういう感じ」というのは既知の世界のことなんで、未知の世界を生むためには、合わないものを探す旅、ジャーニーが必要です。そういったジャーニーをすべての制作プロセスに入れていて。画作りも、音楽も、衣装も。とにかく合わないものを必ず一回ジャーニーするんです。そうすると大体「やっちゃったな、崩壊してるわ」とはじめに思うんですけど、どこか一か所が合うとグググッとレベルが上がる瞬間があるんです。合わないモノと合わないモノを融合していくと、ミスマッチのマッチングが生まれる。大きいところで言うとメルセデスとマリオもそう、外車とアニメもそう。メガネCM(Zof)とドキュメント手法とか、常に手法もモチーフも合わないものから探します。
中島: それやんちゃよねえ、やり方としては。
ここでやんちゃの大家のVTRを見せていただきましょうかね。
〈箭内道彦氏、VTR出演〉
壇上に呼ばれないというのは微妙な気持ちなんですけどね(笑)。やんちゃと聞いて僕が思い浮かべるのは、“やんちゃ芸”。やんちゃは芸だと思う。根っからやんちゃだったら広告会社の試験に受からないですよ。放っておいたら真面目なんですよ、広告業界に入ってくる人ってみんな常識人だし。それを壊すことを求められているのであれば、それは義務だし使命だし、権利だし、そういう動きは無理やりしなきゃいけない時もあるんじゃないかなと思いますね。
佐藤章さんと昔、ジェットライムという強炭酸飲料のCMを作ったことがあって。ビカビカ光る激しい編集をしたんですね。そしたら編集が終わったころにちょうど例のピカチュウ事件が起こってしまいまして。そんな編集はけしからんってなっちゃったんですね。点滅の面積が小さければいいだろうって、すごい屁理屈を使って。真っ黒い画面の真ん中に、やる予定だったCMを小さく入れるという。あれもそういう意味ではやんちゃでした。商品がまったく売れなくて、僕とコピーライターの木村さんが10ケースずつ買わされたんですよ。そんなことあってあります?毎日ジェットライム飲み続けましたね。やんちゃなクライアントですよね。腹をくくるとか責任を取るってそいうことなんだろうなと。
“やんちゃを飼いならす”というのが上司の一番の醍醐味なんですよ。こんなやんちゃなヤツを掌で遊ばせている俺ってどう?っていう、器量のみせどころなんです。僕もどんどんやんちゃにしている時代があって、そこの社長と飲みに行って「この社長!」なんてやってると、社長はすごい喜ぶんですよ。普段そんな風に接してもらえないから。で、社長がトイレに行っている間に、専務とか営業部長にぼこぼこにされるんですよ。「やめろ、ほんとハラハラする」って。だから、トップがやんちゃを求めてるんですよね。
最近、「やんちゃだな」と言われたことがあって。ラジオ局を作ったんですよね、渋谷にコミュニティFM87.6MHZ。CMの中でやんちゃすることが一番大事だと思うんだけど、それ以外の場所で、もしかしたら人から見たら必要のないこととか、理解に苦しむことを形にするということは、今の時代にちょっと必要なことかもなと思って。これも芸としてやっている部分がありますね。ラジオ局を作りたいという気持ちが99%ですけど、残りの1%は広告の人間がラジオ局を作るぞという姿を若い人に見せて、否定してもらったり、炎上してしまったり、そんな風にずっといたいなと僕は思っております。
佐藤(章):ああみえて彼の徹夜というのは、その頃はすごいんです。2,3日徹夜して1日寝て、また2日徹夜みたいな。100案くらい作って、私のところに見せるのは20案。照れ屋でしょ、だからあひるのように、水中で掻いている量がすごいんでしょ。さっきのジェットライムにもありましたが、やんちゃをしつくして失敗しないと、本当に芯をくうものは見えてこない。それ以降何度も彼と仕事をしていますが、だんだん太くなっている印象です。
杉山: 企画を通そうと思ったらトップに近づけという話があるじゃないですか。あれ現場の人間としてはイラッとくる時もある。クリエイティブの方が現場をすっとばしてトップとものごとを決めちゃうと、「何勝手にやってるんだよ」と思うんですよね。クリエイティブとクライアントががっちり組まないといいものできない」って言ってることと違うじゃないか、と。でも、自分も企画を通そうとする時は上に近づいているんですよ。さっき箭内さんが「芸」とおっしゃってましたが。やりたいことを通すために、一番いい方法というか、というのを考えてやるのがいいのかなと思います。
中島: 夏生さん、クリエイティブが担当を超えてトップと近づくと担当はイラッと来る問題についてどう思います。
佐藤(夏):僕はトップとやることが多いんです。オリエンのないものは、いい仕事になる確率が高い。広告会社の仕事って昔は、課題に対してソリューションを出すことが求められていた。ここ10年くらいは課題を作ることって言われてると思うんですけど、僕はそもそも課題って言葉が好きじゃない。クライアントのトップは、課題があるなら自分の部下に言うんですよね。で、外部のクリエイターには可能性を問う。課題っていうと解決しなきゃいけない重たいもんみたいですけど、課題が過去だとしたら可能性は未来。僕はクリエイティビティというのは、商品やブランドの可能性を広げられると信じてやまないんです。可能性を作るために何をするかというと、今ないもの、見えないものを探しに行かなきゃならない。だから無駄を含めたジャーニーを一緒にしなくちゃいけないんです。僕はとにかくビジネスジャーニーを、出張のことじゃなくて、ぐるぐるいろんなムダなこと、情報をどんどん集めるんです。無駄とかジャーニーを愛する人とは、どんなに若い得意先担当者でも、一緒に楽しめるんですけど。効率的に1時間でゴールにたどり着きたい、課題がはっきりしてるんだから解決しろみたいなことを言われると、スコープが違うかなと。
中島: おしゃれ。
篠原: 今の、可能性の話とジャーニーの話はどこかで使うと思います(笑)。今日来ているクライアントさんが少ないことを願いますけど、プレゼンで、今回は可能性を探るジャーニーですって冒頭で使うと思うんですけど(笑)。
中島: 合わない物を探すジャーニー。合わない音楽を探すジャーニー。もう、ジャーニーだよね!広告づくりというのは人間の好奇心と、お互いの調和なんやな。やんちゃだけでは成立しない。やんちゃな好奇心いっぱいの、未知への旅をしつつ、実施においてはみんなとどんだけ仲良くやっていけるかということが、大きな力を生み出していくのではないかと感じました。
(ACC編集部あとがき)
ここに収録したほかにも、佐藤章氏による新しい商品開発と宣伝活動秘話や、杉山氏による「ウェイクだよ」裏話、篠原氏のau三太郎や家庭教師のトライにまつわる制作過程、佐藤夏生氏の「タイヤやメガネ」の認知を変える試みなど、盛りだくさんの内容となりました。
次回のシンポジウムをお楽しみに!