好意度獲得に向けた施策あれこれ
<三好氏による作品紹介>
天然水 ブランド広告_#水の山行ってきた/天然水×君の名は。コラボ/C.C.レモン 忍者女子高生Web movie/BOSS 北海道新幹線編
三好: メーカーなのでゴールは商品の売り上げに貢献するということ。ただその一歩手前にある、ブランド好意度を上げようと作ったCMが多いです。
サントリー天然水はここ8年くらい実写のCMをお休みしていて、若い人には大滝秀治さんの言う「山の神様がくれた水」というコピーも知られていないんですね。
南アルプスの冷たい水のイメージを持ってもらうための広告として作りました。
中島: ハッシュタグをつけているのは、ツイッターに展開しようと?
三好: そうです。若者に知っていただこうとすると、単純にテレビCMを流すだけでは難しい。ツイッター等でつぶやいてもらうことを想定しました。長期的な好意度獲得を狙ったものでしたが、ポーンとすぐに売り上げに現れました。
「君の名は。」とのコラボレーションCMは、短期的な好意度獲得を狙ったもの。タイアップが決まって本編にも商品を出してもらっているのですが、それに加えてスピンオフで新海監督ディレクションのCMを3本作りました。テレビで流したのは数本で、デジタルのところで拡散するよう考えたんですね。新海監督ファン、映画ファン、RADファンに先行して情報を入れ、公開前に動画が拡散するように設計して。
中島: 熱狂的なファンから拡散させる仕組みですね。上手いですね〜。
三好: ファンの方にまず知ってもらい、そこを起点に広めていただくという。
「忍者女子高生」のお題目は、「動画再生数を獲得するノウハウを会得する」というちょっと変わったものでした。どう作ると再生数が増えるのか、どうPRすると広がるのかというところを知りたかった。海外で評判がいいと日本人は食いつくということで、海外で評価されるようノンバーバルで、「忍者」「女子高生」「パルクール」「神社」「城」と「ソフトエロ」も入れて。最終的に840万再生されて、関連動画を含めると1000万超えたというところです。
中島: これ、C.C.レモン売れましたか?
三好: まったく売れませんでした。どのブランドにするか後付けだったこともあり。
福部: 再生数が行っても必ずしも結果に結びつくわけではないところを、どう収めていくのか……。
三好: なかなか収まらなくて(笑)。実験でノウハウはわかったけど、まったく売れなくてこれは違うと。何かしら店頭に結び付く仕掛けをもうひとつ作らないといけない。
「BOSS」のは長期的にブランドのラブを獲得するという、缶コーヒーユーザー向けのCMです。北海道新幹線開業と時期が重なっていたので、JR北海道さんとも相談しながら企画しました。おめでたいのでタレントさんも豪華に、青森側が石川さゆりさん、北海道側が北島三郎さんと。
中島: スマップが出たりタモリさんが出たり、湯水のように話題の人物を使いますよね。
三好: いいクリエイティブは媒体費を節約しますから、強いものを作ろうとする労は惜しみません。メリハリもついてまして、先ほどの「忍者女子高生」はスマホで撮影して300万で作っていますし。
中島: そのメリハリの「ハリ」の部分でお仕事したいな(笑)。
小尾: ここからはクリエイターのおふたりに聞いていきたいと思います。
どんなものでも面白くするクリエイティビティ
<越智氏による作品紹介>
宮崎県小林市PRムービー ンダモシタン小林/サバイバル下校、セイコーホールディングス ブランデッド・ミュージックビデオ Art of Time、江崎グリコ GLICODE
越智: 「ンダモシタン小林」は、宮崎県の小林市という私の出身地のPR動画になります。総務省が全国自治体の移住促進ムービーを集めていて、それに対応する作品を作るというのがお題です。最初にひとつだけ、「絶対これは守りましょうね」と約束したことがあって、「毒にも薬にもならないような、誰の記憶にも残らないようなものは作るのやめましょう」と。そのために、いろんな自治体のありがちなムービーを100本くらいみんなで一緒に観ました。多くの動画は、いい景色や特産品、人の顔を繋いだものにいい音楽が乗っていて、尺が5分以上という。だんだんつらくなって、精神がついていかなくなる、それを共有してスタートするという(笑)。
中島: その方法はいいですねえ。拡散度で言ったら相当?
越智: 再生回数は200万程度ですが、SNS以外にテレビでも相当取り上げられて、それで沢山の方に見て頂くことができ、さらに反応が連鎖していったという印象です。次のは同じく小林市のもので、市のキャリア教育の一環として高校生と一緒に作ったPR動画です。彼らに比喩表現や誇張表現とったCMの基本とともに、見る人を裏切るような展開を入れるとウェブで受けやすいとか、レクチャーしながら作りました。
中島: これ本当に高校生が作ったんですか?電通の方で内定はもう出したんですか(笑)? もうマークしておいた方が。
越智: もちろん撮影はこちらでやってますが、企画の根っこは彼らが作ったものです。意外と王道で、この労働力は使えると驚きました(笑)。
セイコーホールディングスさんのお仕事は、ウェブムービーになります。お題がちょっと変わっていまして、「社長が大の音楽好きで会社のイメージソングを自ら作曲されました、バズらせて下さい」と。
中島: うわあ、すごいな。ミッションは成し遂げた?
越智: 最終的に120~130万再生行きました。「OK Go」さんがこれを見つけてシェアしてくれたりと、なかなか嬉しい成果が得られました。誰に歌ってもらうかというところが肝で、社長さんが歌うという可能性もあったのですが、より多くの人がコンテンツとして聞きたくなるよう、やくしまるえつこさんを提案して。
中島: この動画を見ても「社長が歌を作っちゃったので」というお題はわからんな。(笑)
越智: 江崎グリコさんのは、「お菓子によって社会貢献ができないか」というお題で作りました。2020年に向けて全国の小中学校でプログラミング学習が本格化するということで、お菓子をトリガーにしてプログラミング学習できるものが作れないかと。グリコさんのお菓子を並べて撮影するとプログラミングが書けるというアプリを作って、それをみんなに知ってもらうための映像です。
中島: プログラミングとお菓子、なかなかつながらないところでそこがクリエイティブやなと思います。
越智: 企画段階では「食べ物で遊んでいいのか」というハードルもあったのですが、やってみると食いつきがすごくよくて。子どもたちは楽しみながら、いつのまにか理論構築できるようになっていて、一緒に大人も学べるし、よいものになったかなと思います。
小尾: では最後に福部さんお願いします。
広告主と制作側の熱量
<福部さんによる作品紹介>
アキタ きよらグルメ仕立て おふとん篇/きよらグルメ仕立て NG集、大塚食品 MATCH 浜辺の告白、大塚製薬 カロリーメイト 見せてやれ、底力。
福部: 「きよらのたまご」ですが、そもそも卵のCMって見ないじゃないですか。値下げで売っている業界で、アキタさんは「ブランディングで売りたい」と。今まで卵でCMしていたのはヨード卵・光くらい。
中島: 僕やりましたね、東八郎さんのおでこに光のマーク貼って。ブランド卵の走りでしたね。
福部: オリエンは「私たちの仕事はすごくシビアで、1個でもサルモネラ菌が出たらすべてだめになってしまう。うちのポートリーにはダニ1匹いません」「卵は10個売って2円の利益があるかないか」というもの。それでうちはCMを打とうとしています、よろしくお願いします、と言われて。
中島: プレッシャーきつ!10個売って2円の利益で予算を取ってきたと。
福部: これは失敗できない、「3B」の3つすべて出そうと。美人、動物(ビースト)、赤ちゃん のどれかを出せばヒットすると言われているあれですね。このCM、意外と気づかれませんが小雪さんが出てるんですよ。そして猫のキャラクターがいて、声を新津ちせちゃんという子どもがやってるんです。
中島: 相当小雪さんが脇に回ってるね。
福部: よく気づかれずに納品できたなと思って(笑)。去年のACC賞のマーケティング・エフェクティブネス部門でグランプリをいただきまして。出品する時にどれくらい売れたか調べたら250%売れていたという。卵は産む鶏の数が決まっているので急に増産できないので、最初からそれぐらい売るつもりで用意してくれていたんですよ。
中島: こわ!
福部: そうなんですよ(笑)。こういう系のCMは普通のと違って恐ろしいプレッシャーです。
次は大塚製薬さんのカロリーメイト。最初のプレゼンで、自信満々の4本を提案していたんですね。これはもう4年分くらい使えるぞというくらいの自信作。ところがそれを4本とも「違う」と言われて、途方に暮れて焼肉食べながら出たのが、ADの「黒板アートどうすかね」という。どれくらいの人数と時間が必要で、どんなクオリティになるのか想像もつかなかったんですけど、もうこれしかないと。どうにかこうにか、34人の美大生の力を借りてすごい熱量で作ったのがこちらです。
小尾: 何度見てもうるっとしますね。
福部: 完成するまで出来がわからないんですよ。実写ならビジコン見ている時に「行けるな」っていう瞬間があるじゃないですか。それがまったくなくて。最後の最後、精度が99から100になる時じゃないとよかったのかわからない。
中島: これはADC賞のグランプリも受賞されてますけど。4つの案を否定された大塚製薬さんはなんでのっかったんでしょうね。
福部: 大塚製薬さんからオリエンで言われるのは、胸にぽんと取りやすいようなボールをくれるなと。顔面にシュートを打つくらいの気持ちでやってきてねと。「自分らでもどうなるかわからないけど、やってみたら面白いに違いない」というくらいのものを採用しようという気概があったのかもしれないですね。
中島: ここまで見てきて、テレビだろうがネットだろうが人の心を打つものはいいな。ただ思うのはね、ACC賞の受賞リストを見てもシリーズものが多い。一本で完結して「うわあ」という単品勝負の神様、川崎徹さんにインタビューをしました。その映像をご覧ください。
【川崎徹氏インタビュー映像】
2016年受賞作について
一番大きい印象は、ものすごくうまい。それは子どものころから映像や音声に親しんだ人たちが作ってるから当然のことだけど、サントリーのBOSSにしてももう一回見ますもんね。どうやって撮ってるのかなって。あと変な夫婦のやつも好き。(コンコルド コンコルゲン夫婦)何しろ編集も音の付け方もうまい。こんなのとても作れない。早く辞めてよかった、いやほんとですよ。
一つ欠点というか、これはどうなのかなと思うのは、表現ということに対する疑問があまり持てないなという気がしますね。今回見たものはやはり表現することの喜びやうれしさ、達成感とかに満ち溢れているという欠点はあると思う。
ご自身の作品3作をご紹介ください
- 西武「おいしい生活」糸井重里さんにコピーをもらった瞬間にもうできた企画なんですね。すべて言い尽くしてるので、ビジュアルで表現する必要がない。
- 関西電気保安協会素人を大事に使うということじゃなく、いじめぬく。いきなりセリフを口伝えで、練習も何もなし。だから完全に目が泳いじゃって焦点が来てませんから 、それがOKなんで。
- 大日本除虫菊「キンチョール」「バケツだからじゃないですか」ってどうにもならない落ち、ですね。バケツのあのビジュアルと、あの3音の響きが僕はとてもいいと思った。なんでか説明つかないんですけど。
若いクリエイターへメッセージ
安全圏の中で仕事してるという感じがしますね。三振もしないけども、場外ホームランは絶対打てないよなと。場外ホームランなんてのは何年に一度しか出ないというのはわかってますけど、広告全体の活性剤になるんですね。こんなことができるのかという。そういうものもたまにはあっていいんじゃないかな。
中島: どうですか。
福部: 「表現する喜びに満ちすぎている」、うわっと思いました。禅問答のようで。
中島: 僕も昔「川崎徹塾」に行っていたのですが、「広告主に対しての批評的な眼差しが足らないんじゃないか」とおっしゃっていましたね。お茶の間の人たちはそれほど広告主を信じていないだろうと、その気配を彼は一生懸命描こうとしていました。
越智: 「関西電気保安協会」は不完全なものが持つリアリティを丸ごと出したというか。攻めてますし、今でも十分通用するコンテンツだと思います。ウェブのコンテンツでも、完全なものよりもリアリティのあるものに惹かれることが多くなってきたと思います。特に最近は、隙を見せることで意外とみんな応援してくれる。その作り方には学ぶところがあるなと思いました。
福部: 1コマ目から商品名を出す強さってありますよね。カンヌとかの文脈で言うと、なんの宣伝か最後までわからなかったり。それあかんのちゃう、と思うんですけど。
中島: とくに15秒だとね!
福部: YouTubeで言えばタイトルをより多く目にしますよね。「忍者女子高生」というタイトルがキャッチコピーになっているというか。
中島: なるほどね。コピーの役割が扉に。それで見るかどうか決まるという。
さて、そろそろお開きの時間となりました。今年もまたさまざまなお題がクライアントからクリエイターに投げられます。本日お越しいただいたような、会社を良くしようという心のある、クリエイティブをリスペクトしてくれるクライアントと、クライアントと膝を突き合わせて問題を共有する姿勢を持ったクリエイターが感動を生み出している。
いい製品が周りにあり、そことのコミュニケーションがCMであったり広告映像であったり、企業と自分とのいい関係が結べている国というのは幸せな国だと思います。豊かさのひとつだと思うんですよ。大きい話ですが、広告が担う国づくりの部分だと思います。
(ACC編集部あとがき)
「ヤフーにログインする」で現われる小島よしおの仕掛け。
登山に宇多田ヒカルが選ばれたわけ。
カロリーメイト黒板アートで美大生が見せた血のにじむような努力と根性!
ンダモシタン小林のセバスチャン(フランス人男性)、実は西諸弁がしゃべれない!?等々、会場でしか聞けない秘話も盛りだくさん。
次回のシンポジウムもお楽しみに!