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Vol.19

株式会社テレビ朝日/ゼネラルプロデューサー
藤城 剛

新陳代謝の激しいテレビ番組の深夜枠で、テレビ朝日の『EIGHT-JAM』(日曜23時15分)が10年目を迎えている。SUPER EIGHTがホストを務めるこの音楽バラエティは、名だたるアーティストを独占取材し、楽曲制作の裏側から初出しエピソードを届ける。音楽プロデューサーや編曲家などプロの裏方に脚光を当て、楽曲やアーティストの魅力を改めて掘り起こす、唯一無二の音楽番組。オタキング 岡田斗司夫氏が絶賛するなど熱狂的なファンが絶えない。演出兼プロデューサーとして番組を育ててきた藤城剛ゼネラルプロデューサーに話を聞いた。

唯一無二の“音楽バラエティ”はいかにしてつくられたのか

変化は“番組内で曲づくり”から始まった

―大物アーティストがよくこんなに出てくれますね。『EIGHT-JAM』がアーティストたちから信頼されている様子が手に取るように伝わってきます。どうやって番組をつくってきたのでしょうか。

10年前、バラエティ班の中でもお笑いメインだった僕に声がかかって始まったのが『関ジャム 完全燃SHOW』(現『EIGHT-JAM』)です。25年前に入社して以来、『ロンドンハーツ』や初期の『アメトーーク!』などさまざまなバラエティ番組を兼務してきました。「関ジャニ∞(現 SUPER EIGHT)の音楽番組を始めるそうなんだけどけどやってみる?」と上司の加地*1から言われ、すぐに「やらせてください!」と。今までやってきたお笑いとは違うことへの興味がありました。アイドルの方とも仕事をするのが初めてというスタートでした。

始まった当初は今ほど音楽性に特化しておらず、バラエティ要素が強かったんです。アーティストの素顔を探るとか、「おすすめの通販グッズは?」なんていう企画もありました。
当初のコンセプトは、過去にヒットを生み出している上の世代と、新しいアーティストの両方をフューチャーしようということ。ただ、あれこれ試しましたが番組としてのオリジナリティが少し弱かった。さまざまな方からアドバイスもいただいて、今のスタイルに行きつくまでには色々な企画を行いました。レギュラーバラエティ番組の宿命です。

―大きく変わるきっかけはあったんですか。

「ゲスの極み乙女」がゲストの回です。事前に川谷絵音さんに「どうやって曲をつくっているんですか」と伺ったところ、「レコーディングスタジオに入ってから曲づくりをすることが多い」とおっしゃる。ヒット曲がそんなギリギリにつくられているなんて本当なのかなと興味を持ち、番組の中で曲をつくるというのはどうかと聞いてみました。「やってみましょう」と言ってくださって、実現。ドキュメンタリーのようなつくりになったと思います。段取りは決まっておらず、僕たちスタッフも先が見えない状態でしたが、川谷さんたちにお任せしました。
これまでの音楽番組ではあまり見たことのないスタイルで、これはおもしろいんじゃないかと。川谷さんが曲を考えている“間”も、極力そのまま使いました。あまり編集せず、雑談も全部入れて。放送すると、反響が大きかったんです。今のスタイルに向かうひとつの転機だったかと思います。

―バラエティ班の藤城さんを抜擢したのは、局の音楽班だったんでしょうか?

『ミュージックステーション』を立ち上げた山本たかお*2さんが自分を推薦してくれたとは伺いました。たかおさんとSUPER EIGHTや支配人役の古田新太さんの古くからの関係性が誕生の背景にあると思います。プラス、音楽業界に通じる「Mステ」チームの存在が『EIGHT-JAM』をつくる上には欠かせない要素でした。

―メインのSUPER EIGHT(以下、エイト)を含め支配人(古田新太)までひな壇にいて、ホストとゲストが対峙するような見たことがないスタジオのフォーメーションですよね。

ホスト側の人数が多かったので、トーク番組となるとああいう形になるんですよね。古田さんはエイトのことをよく知っていて、音楽にも詳しく、エンターテインメントにも精通しているクリエイター。バラエティを楽しくしてくれる存在でもあり、当時は今より10歳若かったメンバーの歳の離れたお兄さん、かつお目付役として入ってもらいました。

*1) 加地倫三 :演出家、テレビプロデューサー。テレビ朝日役員待遇のエグゼクティブ・プロデューサーとして、『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』など数々の番組のプロデュース・演出を担当。日本のバラエティ番組をけん引する存在と評される。

*2) 山本たかお :元テレビ朝日役員待遇、エグゼクティブプロデューサー。バラエティ・音楽制作プロデューサーとして活躍。1986年『ミュージックステーション』を立ち上げたほか、さまざまな音楽バラエティのプロデューサーも担当した。

プロのゲストが“知りたくなる話題”を持ち寄ってくれる

―これまでに山下達郎、矢沢永吉、宇多田ヒカル、松任谷由実(敬称略)などとんでもない大物の出演を実現させています。ここまでの番組になった理由はなんでしょう。

音楽プロデューサーの蔦谷好位置さんとヒャダインさんに「同業として嫉妬しちゃう曲は」という企画を投げた回があって、存じ上げない方(の曲)が結構入っていたんです。僕が音楽に詳しくなく、不勉強なこともあるんですが。
番組のつくり手としては、「有名な人を入れてくれませんか」という方向性で進める選択もあると思うんです。でも選んだ理由を聞いたら、その曲を聴いてみたくなるような興味深い内容でした。これは、音楽に詳しくない人が見ていたとしても、知りたくなるだろうなと感じたんですね。だから変にいじったりせず、そのまま収録、放送しました。すると大きな反響があって…。地上波のテレビ番組でさほどメジャーではないことをやっても、世間がちゃんと反応してくれたことに驚きと喜びを感じました。
今やっている『EIGHT-JAM』でも、視聴者が知らない話題が多いと思うんです。いまだに僕は、会議中「これは誰なんですか」ということばかり。それを紹介してくれるプロの音楽家たちが、「この番組ならうまく伝えてくれる、おもしろくしてくれる」と信頼してくれているのを感じます。
同じように、出演してくれるアーティストの方たちも「こんなところを聞いてくれるんだね」「この番組は、音楽的なことを専門家を通じて親しみやすく扱ってくれる」と信頼を寄せてくれるようになった気がします。

―蔦谷さん、ヒャダインさんの存在は大きかったんですね。お二人とももうすっかり人気者に。tofubeatsさん、Yaffleさん*3なんて初めは知らない人も多かったのに、もう普通にゲストで出てくる。「そっちに行くんだ!」とおもしろく拝見しています。

蔦谷さんのことはたまたまラジオで聴いて、「すごい人だな、おしゃべりも上手だな」と人選させてもらったんです。僕が全然存じ上げなかったゲストもたくさんいて、それはやっぱり音楽班の目利きだし、普段のコミュニケーションがあるからできること。そこは、お笑い中心の経験だけの僕ではできなかったと思います。

―見ているほうからすると、宝物を探しに行くみたいな気持ちになる番組ですね。まだそこまでメジャーではなかった藤井風のブレイクには相当貢献していたのではないですか。

あくまで僕ら制作サイドよりもプロの方々の熱量があったからこそ、早い段階で番組で取り上げさせてもらいました。“貢献”なんておこがましいです(汗)

*3)
tofubeats:歌手、音楽プロデューサー、DJ、トラックメーカー。SPACE SHOWER MUSIC AWARDS「BEST GROOVE ARTIST」などを受賞。
Yaffle:音楽プロデューサー、作曲家、編曲家。藤井風、iri、SIRUP、高岩遼(SANABAGUN.)、Capeson、adieu(上白石萌歌)らのアレンジや楽曲提供、CM、映画の音楽制作等、幅広く活躍。

「あそこじゃないと話せないことがある」、番組が唯一無二の場所に

―藤井風の無観客になったコロナ下のライブ*4に、エイトのメンバーが訪ねて行く回がありました。普通のテレビ感覚だと、スタジアムでアーティストが急遽たった一人になったところを撮影に行くってやらないと思います。同じ尺でのエンタメ度を考えると、その決断は難しかったはずです。躊躇はなかったですか。

僕は「風さんはどんなふうに話してくれるかな」という興味だったので、撮れ高の心配はしていませんでした。あの時現地に赴いた安田くんは楽曲中心に興味があったし、村上くんは「どんな人なんだろう」と人間に興味があった。だから、両方を聞き出せるだろうと思ったんですね。
それはやはり、エイトのメンバーが音楽にも真摯に向き合っているからこそであり、この番組のホストが務まる理由もそこに在ると思います。

―番組のおもしろさのひとつに、メンバーがバンドのプレイヤーであることが垣間見られる点がありますね。

彼らが音楽に向き合っているからこそ聞ける専門性の高い質問があるし、一方でテレビでこれだけ活躍している人だからこそ“みんな”に向けた聞き方ができる。5人が5人ゲストに応じたフォーメーションを持っていて、僕は特に「こうして」とは言わず、メンバーにお任せしています。もちろん台本は見てもらって、「今回引き出したいこと」「こういう話ができたら」はお伝えしたうえで。

―以前はエイトとゲストでよくセッションもしていましたね。

今でも時折セッションしています。セッション前の緊張感や、演奏後の余韻もカットせず放送して。ああいうの、僕はあまり見たことがないので「新鮮だな」と感じたんですよ。あのよさは、エイトがアーティストと向き合えているからこそだと思います。セッションするから通じ合えることもあるのかな。

―テレビの専門家でありながら、「自分が見たい」を優先しているんですね。

番組の構成作家はバラエティ中心のメンバーです。もちろん「おもしろいと思うんだけど、どう思います?」と相談はしています。同時にその企画や質問がアーティストに対して失礼ではないかと、会議の場で音楽チームにも確認を取ります。楽曲制作の裏側を聞くにあたって、やりすぎると野暮になることもあると思うんです。その匙加減には気をつけています。

―宇多田ヒカルさんの回はすごかった。そんなに話して大丈夫?と思うほど初出しエピソードが満載でした。こうした取材には音楽班が行かれるのですか?

あれは僕がインタビューしました。質問はゲストやエイトといったプロからのものなので、僕が思いつかないようなものも多いのです。だからこそ、「そこを聞いてくれるなら話します」となるのだと思います。答えてくれたことに対して補足で聞いていくのは、インタビューに行ったディレクターです。相手が素人なのでわかりやすく話してくれているのかもしれないですね。

―ゲストが喜んで出演している雰囲気が溢れています。そこがこの番組の一番の魅力では、と思うのですが、中には警戒する人はいませんか?

それが、警戒どころか打ち合わせの段階で「これを是非話したい」と言ってもらえることが多いんですよ。ただ、ちょっと伝わりにくい内容かもなあと思うこともあるんです。じゃあ、どう伝わるようにするか、おもしろくするか。
そこで、VTRの前にひとつパーツを挟むことで、「これを踏まえて見ればわかる」ようにしました。大切なのは、知識がなくてもおもしろく見ることができること。『EIGHT-JAM』のパターンに、「踏まえて聴こう」は多いんです。

―テレビなのにサロンのような、ラジオを聴いている感覚にもなりますね。

たしかに、出てくれた方から「あそこじゃないと話せないことがある」と言われます。それは、ホストの皆さんがうまく受け止めてくれているから。話す方に多少不安があっても、エイトのリアクションや質問、古田さんの言葉で噛み砕いてもらえる。プロからすれば当たり前のことでも、(ホストの一員である)アンタッチャブルの山崎さんやサバンナの高橋さんが言葉にしてくれることで、視聴者にもわかりやすくなるんですよね。

*4) 藤井風が、2021年10月に日産スタジアムで開催した生中継ライブ「Fujii Kaze “Free” Live 2021」。新型コロナウイルスの感染者数拡大により無観客での実施となり、悪天候の中でのライブの模様はYouTube等で無料生中継された。当日は約18万人が同時視聴した。