一般社団法人 日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)との共同企画!
プロダクションの精鋭プロデューサー、ディレクターによる制作現場レポートです。
今回は、フィルム部門Aカテゴリーでグランプリを受賞した住友生命保険「1UP」のプロデューサー伊藤隆さん。制作の裏話から、普段どのようにCM制作に携わり、どのようなことを感じているのかお聞きしました。
「1UP」ほか代表作について
主役の「上田一」を演じる瑛太さんは、こちらの求めるおもしろさをちゃんとわかってくれる役者さんです。休憩中でも、あの「上田一」の空気感なんですよ。周りに配したエキストラにも本物の“一般の人感”が必要なので、オーディションをしています。
もうひとつ、長く携わっている作品にトヨタさんのお仕事があります。多くは海外ロケなので、日常では味わえないような経験がたくさんできました。モロッコのワルザザートという所はスターウォーズのロケ地にもなっているんですが、ものすごい大自然でその迫力は胸に迫るものがありました。ハリウッドのセレブが自家用ジェットで撮影に来るような場所なんですよ。ほかにも、海外ロケであちこち行けるのは嬉しいです。もともと旅行など全然しない人間だったのですが、海外では日本でできないような経験ができるのでいつも刺激をもらえます。
プロデューサーとPM
プロデューサーは、制作スケジュールや予算の管理、ロケ地選定や最後の編集まで作品のクオリティ管理を一貫して行います。作品によっては、企画の発案やキャスティングに関わることも。最初から最後まで、要所要所で付き添っていきます。
そんな中で私が意識をしているのは、下を育てるということ。2014年にPMからプロデューサーになりましたが、最初は仕事の内容にそれほど変わりはなかったんです。制作が好きで、現場に関わっていたい思いが強かったので。ただ、あまり首を突っ込みすぎると後輩PMがやりづらくなりますし、他の仕事も回らなくなります。何より優秀なPMを育てることが、自分の関わる作品のレベルを上げる一番の近道だなと実感しています。
プロデューサーという立場になっても思うのは、PMにもっと注目してほしいということです。プロデューサーの名前は覚えてもらえても、PMの名前が覚えられることはあまりありません。でも、彼らの力量は作品の仕上がりに大きく関わってきますから、指名制でもいいくらいだと思うんです。PMの立場が変われば、CMの質は全体的に底上げされると思います。ただ、今の世の中、限られた時間の中で、後輩を育てていかなくてはならない。限られた労働時間におけるスケジュール管理も、今の課題のひとつです。
制作のやりがい、醍醐味、将来
2007年に東北新社にPMとして入社しました。制作会社の仕事は、がんばればがんばった分、考えれば考えた分、手間をかければかけた分、よいものができる職人的な作業だなと感じます。大変な職場ではありますが、ものづくりが好きで、みんなで作品を形作るという作業を愛せる人には向いていると感じます。そういった面で、自分にとても合っていると思うんです。
PM時代に、監督とふたりで海外へ行ったことがありました。監督と現地の制作スタッフがあまり合わなくて、こちらで色々と仕切り直してみたらうまく回ったことがあったんです。その時監督に認めてもらえて、「PMがクオリティを左右する」と言ってもらえたことが嬉しくて。今の立場はプロデューサーですが、今度はPMを見守る立場として、変わらずそのことを意識しながら仕事をしています。
プロデューサーとなると制作管理が主な仕事になりますが、海外での撮影に立ち会うと未知のアイデアにその都度出会えるので新鮮です。手法、機材、カメラマンなど、日本では見られないものを吸収できるいい機会です。
今は、とにかくプロデューサーとして精進したい。映画やショートフィルムにも興味はありますが、今のモットーはとにかくCMの現場で、現場に近いプロデューサーでありたいということです。優秀な人材を育てたい。そして今まで見たことのないようなものをつくってみたい。これまでにないような新しいことへの研究をしたいと思っています。
伊藤隆(いとうたかし)
1981年 11.25北海道札幌市生まれ
2007年 早稲田大学第一文学部卒業
2007年 入社後、プロダクションマネージャーとして働く。
2014年 プロデューサー
2017年 チーフプロデューサー
現在に至る。