一般社団法人日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)との共同企画!
プロダクションの精鋭による制作現場レポートです。
今号は、2017年リマーカブル・ディレクター・オブ・ザ・イヤーを受賞、ADFESTでは「Fabulous Four」※に選出された新進気鋭のディレクター、金澤善風さんにこれまでの道のりや作品について、また思うことなどをお聞きしました。
テーマなんてない。ただ、夜道でちくわを回したかった。
広告の世界に興味を持ったきっかけは、大学で聴いた中島信也さんの授業でした。「CMをつくるっておもしろそうだな」と漠然とした印象を抱きつつ、本格的にディレクターを目指そうと決めたのは、“撮りたいテーマがない”から。ゼミで制作した映像作品に対して、先生から「このテーマは?」「この映像の意味は?」などと聞かれるのですが、僕にはとくにないのです。ただ、その作品の時に思っていたのは「夜道の草むらから、ちくわが出てきて回ったらおもしろいな」ということ。テーマを聞かれるので後付けでそれらしいことを言ってみたりはするものの、あくまでも仕方なくという感じで。
ディレクターなら、企画の根本のところを考えてくれるのはプランナーですから、面白くなることだけを考えればいい……これだ!と思いました。就職活動では10社ほど受けたのですが、すべてディレクターで応募しました。面接官に「PM(プロダクションマネージャー)はどう?」と聞かれても、「あっ、ディレクターじゃないならいいです…」という勢いでした。
賞をきっかけに
JACのリマーカブルに応募を始めたのは、入社1年目からでした。最初の作品は『鼓動』というタイトルで、理科室の人体模型と骨格標本が飲み交わしたりします。まだ演出部ではなく、制作部で研修をしている最中での応募だったので、何から始めていいのかわからない状態でした。予算の関係でアニメーションで表現することになったのですが、諸事情で撮影スタジオの中に入れず外から遠隔で指示を出しました。スタジオで動いてくださっている方に「こうじゃないんですよ」なんて生意気な口をきいて、先輩からたしなめられたりと学ぶことがたくさんありました。
この作品が、リマーカブルのファイナリストに選ばれたことで、社内のプロデューサーから仕事をいただけたんです。賞を獲るってすごいと実感し、以降「ディレクター・オブ・ザ・イヤー」をいただくまで3年連続で応募し続けました。
3年目ともなると現場にも慣れてきていて、社内からあれこれご意見をいただいても流されることなく、ディレクターとしての軸を通せるようになっていました。同時に、それぞれのスタッフの領域には割り切ってお任せできるようにもなっていました。そうやって、信頼して任せられる人脈ができたということもあると思います。
賞をいただくと、プロデューサーへのアピールができるし、知人も増え刺激を受けて、嬉しい事ばかりです。と同時に、だんだん他社の同世代の人たちも気になってくるので、彼らに負けることなく“絶対に一番面白いものをつくる”という気でいます。
リマーカブル・ディレクター・オブ・ザ・イヤー/
ファイナリスト 「鼓動」
リマーカブル・ディレクター・オブ・ザ・イヤー
「クセモノ」
若手もどんどん言わないと
最近まで、1年間電通に出向していました。電通ではプランナーに付いて、NTTドコモさんのポインコや漂流教室×モンストのキャンペーンなどに携わりました。ここで得たものはとても大きく、例えばプランナーの方はとても論理的なので、不明瞭なことが少しでもあれば事情と現状を可能な限り聞いて、綿密に意思共有する大切さを学びました。
先輩についてさまざまな現場に行くと、「いい現場」と「あまりうまくいっていない現場」の差を感じることができます。いい現場を倣うとなると難しいことですが、逆にうまくいっていない現場は「なぜこうなってしまったのか」が割とわかりやすかった。だいたいが、意思疎通がうまくいっていないことに端を発していた気がします。それを目の当たりにしたので、僕は思いついたことがあればすぐにPMさんに電話でもなんでもして、意思を伝えたり、確認をとったりするようにしています。遠慮してしまって伝えられない、ということだけは避けないといけないんだなと実感しました。
転機となった作品『Floating Father』
「Floating father」
この作品で、スタッフとの関係づくりが一段階うまくいくようになった気がします。どんなに仲が良くても伝えるべき時はしっかりと伝え、同時に、もらった意見が「いい」と思えば素直に取り入れられるように。それまではどこか学生ノリが抜けていなかったのが、この作品を境に、どうすれば結果的に最も作品をよくできるか、そのためにできることは何でもしようと思えるようになりました。
ディレクターには今、「この人だから依頼する」と思われるような個性が必要だと感じています。そのためのインプットは、僕の場合とにかく“人”から。おしゃべりが大好きで独りが大嫌いなので、人にどんどん話しかけるし、偶然すれ違った知人もスッとは通しません(笑)。会社でも複数ある喫煙所を順繰りに回って、色々な人とコミュニケーションをとるようにしています。おもしろい動画を見つけたらすぐに友だちに送って意見を聞くし、自主制作やコンペ応募用の作品をつくり友人に見せて意見をもらうことが多々あります。
僕が今持っているのは、“たくさんの人とたくさん話す”こと、“コンテを描きこむのが好き”なこと。今、大きなCMの仕事を若手ディレクターにいただける機会は多くありません。これまでいただいた賞は、実務のクライアントワークではないんです。目標は、ビジネスとして撮った作品で賞を獲ること。山内ケンジさんと中島哲也さんを足して2で割ったようなディレクターを目指しています(それってどんなディレクターなのかは、僕にもちょっと分かりません)。
※ADFESTが実績の多くない若手監督を対象に行うコンペティションで、アジアの若手監督にとっての登竜門と言われています。テーマに沿ったショートムービーのスクリプトを募集し、審査を経て、実際に映像制作を行なう4名が選出されます。
金澤善風(かねざわよしかぜ)
電通クリエーティブX
ディレクター
1992年 秋田県生まれ
2015年 武蔵野美術大学 デザイン情報学科 卒業
2015年 電通クリエーティブX 入社
2017年 アジア太平洋広告祭「Fabulous Four」選出
2017年 JAC AWARD「リマーカブル・ディレクター・オブ・ザ・イヤー」受賞