ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSについてのお問い合わせ
【CM情報センター】CMの二次利用についてのお問い合わせ

現在、電話・FAXでの受付を停止しております。
詳細は、「CM情報センター」ホームページをご確認ください。

刊行物

TOP > 刊行物 > ACC会報「ACCtion!」 > あの人が今

ACCロゴ&トロフィーリニューアル!対談

八木義博×小田桐昭
「ACCここです。」

 広告、CMの枠を超え、クリエイティビティに領域を広げたACC。組織名の変更や、委員会組織の再構築を経て、象徴となる「ロゴ」「アワードのトロフィー」を一新しました。
 これらのデザインを手掛けたのは、国内外のステージで活躍するアートディレクターの八木義博氏。彼を制作者として推薦したのは、CM黎明期から長年にわたり日本の広告界をけん引してきた小田桐昭氏です。このお二人を本誌編集長がお迎えし、対談を行ないました。

最初は、変えなくていいんじゃないのと思ったんですよ

―制作を八木さんにとおっしゃったのは小田桐さんなんですよね。

小田桐:ACCから相談を受けた時にまず、あの細谷巖さん(前トロフィーをデザイン)に納得してもらえる方に頼まなくてはというのがありました。そしてACCが新しくなるにあたって、形は普遍的なものがいいだろうと。いろんなものを呼び込めるような、抱き込めるような幅の広さがあるものをと。昨年からデザインカテゴリーができたから、そこにいる人がつくり直すのが良いのではと考えたんです。八木さんは、ずっと素晴らしいと目をつけていた人なので引き受けていただいてうれしいですね。

八木:実ははじめは、「変えなくていいんじゃないですか」と思ったんですよ。でもACCの人たちが「変わりたい」とおっしゃっていて、「こっちに行きたい!」という熱が素晴らしかった。もはや“CMの賞”ではないと。昨年からブランデッド・コミュニケーション部門の審査委員をしているので「たしかにな」と感じました。それまでACCは自分と関係なかったのが、そうではなくなっている。変えようとするのはわかるなと。だいぶプレッシャーを感じましたが。

小田桐:ロゴを変えるときの基本的な考え方ってなんだったの?

八木:もう、何をよりどころにすればいいのか…という感じで、本当に難しくて。以前ACCがロゴとトロフィーを変えたときの記事を見たり、世界のアワードロゴの資料を集めたり、とにかくいろいろ調べました。でも、最終的に「クリエイティビティ」という時に、この業界だけでなく建築家とかミュージシャンとか、いろいろなジャンルの人が入ってこられるような、遠くから見ても「ACCここにありまーす」とわかるように、というイメージがありました。スター・トレックというドラマがあるんですけど、あれは自分のためだけではなく社会のために奉仕している世界なんです。宇宙人も地球人も外国人もみんな同じところで、同じ目標のためにがんばっている。その宇宙船に乗っているライセンスというようなイメージもありました。
 このロゴタイプは正三角形と正円でできています。それらはとてもニュートラルで、かつ強度があって壊れない。この赤が「ACCここです」という意味を持っていて、みんなが遠くから見えて、この下に集まるもの。例えば「カンヌライオン」のように装飾的なものではなく、みんなが入っていける器を用意するという感覚です。赤の「情熱的」な印象と、シルバーの「知的」な印象で、アートやクレイジーだけではない、広告ビジネスとして冷静な視点も持ち合わせているイメージがいいかなと思いました。

小田桐:最初にロゴを見て印象に残ったのは、文字よりも赤いフレームでした。すごく安定していながら、ちょっと騒いでいる感じがあって。その使い方がすごく面白かったですね。でもこれをトロフィーにするにはどうするんだろうと(笑)。

「知の集合」を重ねるトロフィー

八木:最初にお話しいただいた時は、ロゴだけだったんですよ。あとから「トロフィーも」と言われて、「え~」と。

小田桐:すごく楽しみでしたよ。このロゴの上に何かのっけてもしょうがないし、どうするんだろうと。

八木:それがすごく大変で、小田桐さんが「どうするんですか」「なんて呼ぶんですか」とドキドキすることをおっしゃるので。最初はこのトロフィーを「レッドフレーム」と呼んでいたんです。「枠を超えていく」「枠にはまらない」「枠を壊して新しくつくっていく」というようなことが大事だと、そういう方向でみなさんにお話はしたのですがどうもうまくいかなくて。ロゴができてから新しい考え方を、足したというより引いていきました。

―トロフィーはシンプルでかわいいし、新しくて開かれたイメージを感じます。

八木:今は「レッドブロック」と呼んでいるんですけど、最初のイメージは「本」「知の集合」でした。本って持ちたくなるし、少し重さがあって「ここに何かがあるな」という感じがある。もともと文字や考えに重さはないけど、本という形にそれを感じるじゃないですか。そこをヒントにして、アワードを「受賞して偉ぶる権威」ではなく、ACCの歴史に刻まれて、手本であり超えるべきハードルとなり、それがどんどん積みあがっていろんな形になるようにと。そういう考え方でトロフィーをデザインしたらおもしろいかなと考えたんです。大きな図書館のように、この中に今年の作品の叡智が入っている。あとは、本棚に置きやすいとか、重ねて集めたくなるとか、たくさんのことを凝縮しています。

―感覚的に持ちたくなります。

八木:それを大事にしたかったんです。

小田桐:僕は最初、この重さはなんだろうと思ったんです。今「知の重さ」と言ったの、それはすごくいいですね。僕たちの仕事は、何よりも「考える」という仕事です。そして、それを支えているのは「知」の力です。

八木:まず、これは木でつくりたいと思ったんです。なぜかというと、打ち合わせると「カンカン」といい音がするから。小田桐さんから日本原産の木がいいんじゃない?とアドバイスをいただいて、ACCの方とも相談してヒノキにしました。実際にはやらないと思うんですけど、もしかしたら隣の人と「カンカン」と。音だけじゃなくてブルンと振動が手に伝わるのが、すごくいいんです。発想としては「関係している」ということです。作品同士がぶつかるとか、人と人が触れ合うとか、混ざることで「この音いいな」が生まれる。

小田桐:贈賞式で一斉にやればいい(笑) (※この対談は贈賞式の直前に行なわれました)。

八木:自然とそうなったらいいですね。例えば小田桐さんの名作CMと、全然違う発想のデザインが出会って「カン」と鳴っているのを聞いたり、持っている人同士がその振動を感じるというのはすごいこと。そういうACCになったらいいなと思いました。単に賞を与えるだけではなくて、積み重なっていく。そういうトロフィーでありたいという思いが詰まっています。

―確かに贈賞式ってそういうものですよね。いろんな人の作品を見て刺激を受け合って、共鳴し合う。そういうことを象徴的に表しています。そして背面のプレート、グランプリが赤なんですね。

八木:トロフィー外側の色を金銀銅それぞれにして区別しようか悩んだのですが、ACCの象徴を「レッドブロック」として、背面で金銀銅を見分けるようにしました。ここは最後までかなり悩みました。積み上げていって、背面から見るとグランプリ、ゴールド、シルバーがわかるんです。見せなくてもいいし、見せてもいい。

小田桐:僕ほしかったな。積み上げて。もう遅いけど。

―1個獲ると次がほしくなるというアフォーダンスですね。

小田桐:一段じゃさみしいから、ACC三段とか、ACC四段とか。

八木:それいいですね!名人を目指す。でも難しかったなあ。ここまでたどりついて本当によかったと思います。

これからのクリエイティブ業界

―ロゴとともにACCは変わろうとしています。業界の変化についてどう見ていますか?

小田桐:広告の技術は何かというと、それはコミュニケーションの技術だと思うんです。技術そのものはそんなに変わっていない。ただ今まであちこち別々にあったものが、より統合された形で機能していくようになる。それは当然の変化だと思います。カンヌなんかで一時期、もう広告はいらないと言ったりしていました。大切なのはクリエイティブじゃなくてコンテンツだと、みんなからたくさんイイネをもらえばいいんだと。それは、ほんの一面だと思うんです。形が人の心に入ってどう深く人の心を動かすかという「説得」の技術そのものは、基本的には全然変わりません。

八木:コミュニケーションの仕事で「瞬間最大風速」を求めるときと、今回の仕事のように長く使う耐久性を要するときと、使う筋肉が全然違います。普段は瞬間風速を求めるレールになっていて、でも本当はそうじゃないものが効くんだという時に、それを説明するのは大変だし、自分たちも全然足が動かなくなるんじゃないかという悩みがあります。どういう風に心を持っておけばいいのか、忘れそうになってしまう。違う種類の仕事が来た時に、ニュートラルに向き合えるか不安ですね。

―人の気持ちを動かすという本質は変わらないけど、動かし方が違うことに悩みますね。

八木:「CMをつくってください」と言われた時に、ちゃんとゴールを見定めて「いやこの場合CMよりも」と言える人でありたいから、自分がそこまでちゃんと考えられるか不安ですよ。そういうのを、ACCで見本を並べてくれるんじゃないですか?「こういう仕事も、ああいう仕事もありますよ」と。

広告はおもしろい

小田桐:広告は冒険と危険に満ちたビジネスで、ハラハラするし退屈なものではないということを若い人に信じてほしいんですね。コミュニケーションは世の中からすごく必要とされていて、舞台はある。そこにエースとして登場する気概が若い人に欲しいと思うんです。広告の仕事の中には冒険があるし、それに見合った報酬もある。そこを求められている。そういう冒険少年のようなヒーローがたくさん出てこないといけないんだけど、自分たちでドアを閉めているような印象があって。

―胸に響きます。僕のことを言っているのかな(笑)。

八木:もしかしたらちゃんと広告のことを理解してないのかもしれないですね。僕も今、やっと広告っておもしろいなと感じるようになって。若い人は知らないんじゃないかな、おもしろみを。今、インターンなどで訪ねてくる学生が言うのは「広告じゃなくてグラフィックデザインなんですよ」「テクノロジーなんですよ」ということ。それは手段の話でしかなくて、目的じゃない。広告は商品持ってタレントが笑っているとか、そういうイメージなんでしょうね。でも本当は、世の中の価値のあるものを発信するためにある。
 ただ、商品がそもそもスペック競争でしかないと発言は生まれないし、むしろそんなクライアントをデザイナーやコピーライターが導くぐらいの野心を持ちたいですよね。受注ではあるけれど、「そんな商品と広告じゃだめですよ」と言えるくらいの。そこを舞台にして商品づくりから考えるくらいの。僕もそうありたいです。

小田桐:たしかに受注になってるよね。僕は昔から、受注を超えたいと思ってやっていた。

八木:人とぶつかるのが面倒くさいと思ってるんです、きっと。「だってこう言われるからやだ」「反対されるから面倒」と。それを言い負かしてやろうとか、デザインで応えるとかしないとおもしろくはならない。そのおもしろさを伝えるのは大切なことですよね。

小田桐:会社が、あるいは上の人が、そのことを伝えていないのかもしれないね。すごく大切なことなのに。もったいないよね。広告はおもしろいですもん、やっぱり。

text:矢島 史  photo:川面 健吾