第1回「ACC YOUNG CREATIVITY COMPETITION」
グランプリ受賞者×審査委員対談
新たに創設された、30歳以下のクリエイターが対象となる「ACCヤングコンペ」。渋谷区を後援に迎え、区が掲げる「ダイバーシティ&インクルージョン」をテーマに企画を募集しました。応募総数221件の中から選ばれた6組のファイナリストは、「TOKYO CREATIVE CROSSING」でプレゼンを生配信!その後の最終審査で、おむつをメディアとした「だいパーしてぃ」がグランプリを受賞しました。今回のヤングコンペでは、グランプリ企画は区での実施を検討していただけます。受賞直後に、受賞者×審査委員2名での対談を行ないました。
- 塚田航平
(電通)
- 久古はる香
(博報堂DYメディアパートナーズ)
- 永田 龍太郎
(渋谷区/総務部男女平等・ダイバーシティ推進担当課長)
- 大塚 智
(ADKクリエイティブ・ワンクリエイティブ・ディレクター)
行政だからこそのプラットフォームになりうる企画
―グランプリおめでとうございます!
塚田:ありがとうございます。予想していなかったのでとても驚きました。企画を実現したいという思いが強かったので、そのスタートに立てたのが嬉しいです。
久古:この企画は8月から今日の完成形に至るまで、何度もブラッシュアップを重ねてきました。諸先輩方、当事者の方からも意見をいただき、自分自身すごく勉強になる3ヶ月でした。結果グランプリをいただくことができて本当に光栄です。
準備は文化祭前の忙しさにも似て、終電に向けて走ったりと「青春でした!」
永田:おめでとうございます。行政としては、プラットフォームとして継続性をもたせられるか、巻き込み力を持てるかどうかという視点で審査していました。普通の広告とは違い、プラットフォーム自体がソーシャルデザインなんですよね。そういったところで、おむつがメディアというキーワードは非常によい目の付け所でした。二次審査のあとから今日に至るまでの間に、おふたりの「ダイバーシティ&インクルージョン」への理解や見識が深まっていて、そこを踏まえての展開案が大きく成長していて、これは行政としてやれる、行政だからこそできるプラットフォームになるのではと感じました。
大塚:グランプリとして素晴らしい企画でした。途中経過ですごく磨かれていきましたね。どの行政区に住むかというのは普段あまり気にしないのだけど、子どもが生まれたとたんどんな自治体にいるのかということがドーンと来るんですよ。システムもサービスも自治体によって違いますから。そういうタイミングにある期待や不安を強く掴んで、アイデアにしていた。エグセキューションとしてもチャーミングなデザインにしたり、おむつというものをうまく活かすクリエイティブで。区が妊婦さんに贈るパックの中に入れるという、既存の行政サービスの中に組み合わせるというコミュニケーション上のデザインもうまくできていて、グランプリとなりました。
―今回エントリーされた作品全体について。
永田:渋谷区が「ダイバーシティ&インクルージョン」をテーマにしている、それは実はとても広義なんです。人権の話だけではなく、ベンチャーから大企業、ライブハウスからアリーナまでと、多様なビジネス、カルチャー、芸術といったさまざまな領域で多様なものがまじりあうことが、未来を生み出す力になる。それが区のビジョンであり、「ちがいをちからに変える街」というワードに凝縮しています。とはいえ、具体的なアイデアを出すことは簡単ではないと思います。ただ、このビジョンに結び付くご提案をいただけたら、区としては喜んで検討出来るということです。
今回さまざまな企画でエントリーがあり、とてもありがたく感じました。ただ、ジェンダーに関する話がとても多くて、「渋谷区と言えば」が固定されてしまっているんだなというシビアなイメージ調査にもなりました。また、もう実施している施策のご提案も散見されたので、これは多くの人が見つける場所に情報を発信出来ていないのだなという我々の課題も見つかりました。知ってもらう努力も必要。ただ、そこに大きく税金を使うわけにもいかないので難しいのですが。
大塚:これは審査委員側も気をつけなければいけないことですが、「ダイバーシティってこういうことでしょ」という固定概念が生まれつつあって、危ないなと思いました。しかも、それを持たないようにすることは、とても難しい。世の中の変わり方についていかなければならないし、具体的に何がどう動いているのか、相当意識していないと、本当に今必要なアイデアを見失うと実感しました。
「だいパーしてぃ」のアイデアについて
塚田:親のLGBTQにまつわる価値観を変えることは容易なことではないな、と感じていて。しかし、メッセージをただ伝えようとしても響かない。普段生活をしている中で、つい目にしてしまい、しかも心を動かせるタイミングを探していました。そこで、「おむつはどうだろう」と。子どもの性を意識しつつ、しかも子どもの将来に思いをはせる、突破口になると考えました。
久古:渋谷区で子育てをするお父さんやお母さんにインタビューさせていただく中で、心を動かされた言葉があったんです。「いつか息子に好きな子ができたら一番に聞かせてほしい。その相手が女の子でも、男の子でも」と。こんな家庭で育つのであれば、どれだけの人が救われるだろうって思いました。こういう家庭を増やしたい、そのために何ができるんだろうと考える中でメッセージができあがって。「生きづらい」と感じてしまう子を減らすには、親の固定概念を無くしていくには、どういう言葉を届ければいいのだろうかと。
大塚:世界的な潮流としては、インクルージョン&ダイバーシティになっている。いろいろな人がいるということが可視化されるのは重要なことだけれど、もっと踏み込んでその現実に対して何を考えたらいいのか、どう行動したらいいのか、と人を動かしていくほうが強いアイデアにつながると思いました。「いろいろある」ことがA~Zであるというよりも、おむつを受け取った人が自分の想定していない来をつい想起してワクワクする、という部分のほうがいいなとか。性というテーマにしても審査委員の間で議論になったんです。「女の子にはこんな服」という固定概念に対してフラットに見直す機会になったり、意外性のあるものがバンバン出てきたりしてもいいんじゃないかと。たとえば女の子に「将来の夢はプロ野球選手かも」とか。着眼点ですよね。日に何度もおむつを替える、そのタイミングにちょっとワクワクしてほしい。メッセージやデザインをつきつめて……まさにクリエイティブの力が問われます。
塚田:大塚さんがおっしゃるように、なるべく楽しい気持ちになってほしいのに、ややもすれば「男の子がお人形さんはおかしい?」がショッキングに見えてしまうかもしれない。どんな塩梅で書けばいいのか本当に難しくて、答えは正直まだ見つかっていません。
久古:人の気持ちに寄り添いつつ、ハッと気づかせる」そのバランス。どういうことを言われたら意識の変化が起こるか、その子の将来を受け入れてもらえるか。メッセージがただの押し付けになってしまったら、人を動かすことはできなければ、何の効果もないので慎重に考えました。