ロコ情報スペシャル!
高崎篇
このたび、ACC賞ME部門で見事グランプリを受賞した群馬県高崎市の「絶メシリスト」。地元の小さな飲食店数十軒に絶妙な切り口でスポットを当て、大きな話題と実際の集客を呼びました。ムービーにしてもポスターにしても、店主たちのあまりの飾り気のなさに圧倒されます。実は行政主体なのに、そういう感じがまるでしない……!高崎のこの成功は、どのような取り組み、広報方針で生まれたのでしょう。
高崎市の中沢さんにお話をうかがいました。
大好きな焼きそばのお店がなくなってしまった…!
市長の思いがPRに結実
これまで高崎市では、“一般的に行政がやりそうな”PRしか行ってきませんでした。動きが出たのは2年ほど前、高崎市のさまざまな施策が実を結んできた頃でした。商店街の改装補助をしたり、駅前の活性化を図ったり、アリーナやコンベンションホールが建設されるなどして来訪者が増えていました。アイデアマンの市長のもと、次々と新しい取り組みが生まれていたんです。
そのようなタイミングで、高崎のブランド力を上げてくれる企業を広く募ることに。各社から提案書をいただいた中で、博報堂ケトル(以下、ケトル)さんの「食を売りにしたPR」を選んだのが「絶メシ」の前段となります。ここに、街歩きが好きで小さな個人飲食店好きの市長の思いが重なりました。市長には、昔ながらの個人飲食店が次々と閉店していく状況を見て「これはさみしい。こういった個人飲食店を守りたい」という気持ちがあったのです。
東京などの大都市と違って、高崎のような地方の都市では口コミグルメ情報サイトがあまり機能していません。そのうえ、ネットにないお店は選択肢に入りません。だからこそ、ネットに載っていないような個人飲食店を応援しようとなりました。だいたいが、前回の東京オリンピック後にお店を始めた70歳代の方々。お客さんは常連の顔見知りばかり、というようなお店です。代替わりをしようにも、後継者がいなくてこのままではなくなってしまう。
「絶メシ」ポスター
そういった明るくはない状況を、逆に価値にしようというのが「食えなくなっても知らねえよ~!」というコピーでした。正直な話、これらのお店はとびっきりの一流というわけではないんですよ。着目したのは、お店の歴史や積み重ねてきたもの。それに個性派ぞろいの店主の人柄です。
そんな“味”が支持を受け、昨年リストがリリースされてから全店平均で20~30%の売上増になりました。とはいえ過去のデータを取っていないお店がほとんどですし、レジではなく計算機でやっていたりするのであくまでもだいたい(笑)。控えめに言っても、これくらいアップしたというところです。
“行政”の壁を破る
やはり行政なので、「絶滅」という負のイメージを連想させる「絶メシ」というネーミングを通すことでは苦戦しました。そこは、ケトルの畑中さんが熱意で市長を説得してくれたんですね。市長ももともと柔らかい思考の持ち主なので、この形が実現しました。
また、個人商店を選んで紹介するということも、行政とすると公平性の観点から難しい。これまでは協会加盟や組合員全ての店を載せるということが一般的でした。しかし、これはプロのグルメライターで編成された「絶メシ調査隊」が、「昭和の空気を感じさせる歴史がある」「後継者問題を抱えるか、抱えそう」「この店でしか味わえない絶品料理や雰囲気がある」などを基準に実際に足を運んで外からの目線で選んでいるということで成立しています。
このプロジェクトでは、ケトルさんという高崎の外からの視点が入ったことで大きな成果を出せたと思いますし、たくさんの発見がありました。内輪で見ているだけでは、例え大好きなレストランに通い詰めていたとしても、存在に慣れてしまってそのよさがPRにつながるとは思いもしません。「これ、いいじゃないですか」と外の人が言ってくれたことで、高崎にこんないいところがあるんだと気づくことができた。県外からもお客さんが来てくれるようになり、中には行列になるようなお店も。2店ほど、後継者候補も決まりました。