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ロコ情報スペシャル!
(佐賀篇)

「佐賀のプロ」が仕掛ける!
年3本のコラボプロジェクトが次々話題に

「副知事 島耕作」「さがしてたのはこの味ですレストラン」など話題の企画を次々に生み出す佐賀県。いったいどんな方法で? どんな軸をもって? 南青山にある佐賀県の情報発信基地「サガプライズ!」のオフィスを訪ねてみました。

島耕作の次の役職は⁉ 「佐賀がやるから」おもしろくする

令和5年度の情報発信プロジェクト「副知事 島耕作」は、島耕作が佐賀県の副知事に就任するという企画ですが、コアアイデアやストーリーを、企画会議の中で講談社さんにご相談しながら形にしていったものです。島耕作といえば注目されるのは役職です。課長から取締役まで昇進して、今は社外取締役。ネットでは「次は自治会長か?」などと騒がれている文脈の中で、公務員になったらおもしろくないか?というコアアイデアが出てきたんです。
「島耕作シリーズ」本作の中に佐賀県が出てきたことはありません。登場人物や作者の出身地でもありません。だからこそ、佐賀がやったら意外性があっておもしろいだろうと考えました。ただ、佐賀とコラボすることへの納得感を持ってもらう必要はあります。佐賀は、全国で最も民間経験者の採用率が高い県。行政職員全体の15%が私のような民間出身で、新規採用にも公務員試験対策の必要がない特別枠を設けています。さまざまな人材を受け入れている佐賀県だからこそ、サラリーマンの代名詞である島耕作が佐賀県で副知事になることに納得感が得られると思いました。

最初は「知事」にしようという案も出たのですが、選挙が必要な役職なのでリアル感が薄れてしまう(笑)。かといって「課長」とすると担当する分野に限りが出る。「副知事」が丁度よい塩梅で、11月14日の「いい上司(リーダー)の日」にローンチして話題を呼びました。
島耕作の公務は、佐賀のスポーツビジネスと半導体産業の情報発信です。佐賀は人口が少ない中でプロスポーツチームが3つもあるスポーツ県であり、多くの半導体関連企業が操業する県でもあります。そしていずれの分野も、漫画の中で島耕作が関わったことのある分野です。
どのプロジェクトも「佐賀がやる意味」を見出す。それが企画を跳ねさせる。結果的に「副知事 島耕作」は、広告換算額11億円を超えるプロジェクトとなりました。

こだわりすぎて、実在の副知事と勘違いされたことも

副知事 島耕作の執務室 ©弘兼憲史/講談社

私たちは、作品の世界観を活かすことに徹底的にこだわりたかった。そこで、実際にオリジナル漫画を作成して、特別バージョンとして“佐賀のために動く島耕作”をつくり上げていきました。この漫画はWEBで公開し、冊子も制作。島耕作の漫画に落とし込んで発信すれば、県の広報誌に載せると読み飛ばされてしまいそうな情報も読み込んでもらえます。島耕作が話すから、取り組むから、読み手は「ふむふむ」と納得できる。この世界観を壊さないようにつくる点に力を入れ、制作にはかなりの時間をかけました。
島耕作の副知事就任式でもリアルにこだわりました。佐賀県人事課が発行した本物の辞令書を交付したんです。辞令書には知事印も捺されています。
また、県庁内には、島耕作の執務室をつくって一般公開しました(好評につき期間延長後2024年2月29日終了)。さも島耕作副知事がいるかのように設えたことで、「なんでこの人はいつも絵なの?写真は?」とか、「(2人いる)副知事のどちらが辞めてこの人に変わったの?」と聞かれたことも(笑)。来庁者は増え、県政に興味を持ってくれた方が増えたことで、佐賀県の取り組みを知ってもらうために始めた「副知事 島耕作」プロジェクトの狙いどおりの展開になったなと感じましたね。

県の本気が、作者もコラボ企業も動かした

どの企画でもあることですが、この「島耕作シリーズ」とのコラボプロジェクトでは、特にたくさん講談社さんと直接やり取りをしました。講談社さんも、ここまでガッチリ組み合ったコラボは初めてとおっしゃっていました。
当初は、本編に佐賀県を出してもらえたらとお願いしたんです。さすがにそれは難しいということだったんですが、作者の弘兼先生にお会いしたときに、「ぜひ1度、1泊でいいから佐賀にお越しください」とお話ししたことがあって。週刊連載を抱えてお忙しいので、佐賀訪問が実現した時は嬉しかったですね。
佐賀にお越しいただいた際には島耕作の執務室にお迎えしました。すると先生が、「今後佐賀県も作中に出てくると思います」と公言してくれたんです。他にも、島耕作が公務として取り組むスポーツビジネスの拠点「SAGAアリーナ」をご案内したり、佐賀牛を食していただいたり。先生をこのコラボにどこまで巻き込んでいけるかと考えながら、とことん佐賀の素晴らしさに触れていただきました。

そして、ついには、「島耕作シリーズ」が連載されている『モーニング』の表紙に、弘兼先生が「副知事 島耕作」を再び描いてくださったんです。本編に副知事は描かれていないにもかかわらず、雑誌にとって最も大切な表紙で描いていただけるなんて、当初は思いもよらないことでした。しかも、その号の裏表紙は「副知事 島耕作」を起用した佐賀県の広告が掲載されていたので、雑誌の表も裏も「副知事 島耕作」という(笑)。最初は不可能と言われていたことがたくさんありましたが、盛り上がっていくにつれ講談社さんも一緒になって遊び心を持って攻めてくださいました。こちらの本気度を伝え続けたことで嬉しい化学反応が起き、想像もしなかったような発展をみせた例かと思います。

自治体の難しさと「入り口に連れて行く」使命

佐賀には素晴らしいところ、モノ、コトがたくさんありますが、多くの人に知れ渡ってはいません。だから私たちの仕事は、佐賀を知らない人たちを入り口に連れて行くことだと考えています。その気持ちは各自治体のみなさん同じだと思うんです。ただ、民間出身だからこそ感じるのが、公務員は担当の裁量権がとても狭いということ。おもしろい感覚を持つ若い方もいるけれど、やれないことの方が多いし、叩かれるリスクだってありますから。
そのような中で仕掛けた「副知事 島耕作」プロジェクトは、そもそも「官」発の情報発信事業でしたが、話題になったことで「民」の方からもコラボに参画したいという相談をいただきました。佐賀県内に本拠地を置くバレーボールV1リーグ女子チームの「久光スプリングス」と連携した「副知事 島耕作によるVリーグ視察記念として来場者へコラボTシャツを配布する」という企画は大成功。サッカーJ1リーグの「サガン鳥栖」、バスケットボールB1リーグの「佐賀バルーナーズ」とのコラボ企画も盛り上がりました。
県民が一緒になって楽しんでくれている様子を目の当たりにして、がんばってよかったと思いましたね。

都内に唯一広報課がいる県
ねらいは血肉の通ったコラボ

このように展開していけるのも、前例踏襲をよしとしない今の佐賀県政の軸があるから。
実は、広報部門単独で東京にオフィスを構えているのは佐賀県だけ。プロジェクトを進めるうえで、コラボ相手などと実際に会って、同じ机を囲んで熱量を合わせていく場が必要と考えたからです。このコンセプトから、オフィスのデスクはとても大きな一枚板でつくられています。
大切にしているのは、話題を呼ぶような「佐賀がやるからおもしろい」情報発信をすること。オフィスには4人の職員がいます。私たちにクリエイティブのスキルがあるわけではないけれど、職員一人ひとりが誰より佐賀県を知っている佐賀のプロです。そのことと何をどうつなぎ合わせたら人々に刺さるおもしろいことになるのか。ただコラボするということではなく、佐賀への思いを大切にしながら企画を組み立てていくことで、人々に楽しんでもらえる施策になるという実感があります。佐賀県が「アニメ・漫画の聖地巡礼で行きたい都道府県」ランキングでは2年連続ダントツで1位なのは、これだけ力を入れてエンタメとのコラボプロジェクトを続けてきたからこその評価だと考えています。

日々、足で営業
多くの人に佐賀の魅力を伝えるために

毎日朝一番に、「気になるネタ」を披露しあう情報会議をしています。毎日なので、雑談ベースで気軽なものでもよしとしています。「さがしてたのはこの味ですレストラン」は、この会議で話題になったクリエイティブディレクター・明円卓さんが率いる、体験クリエイティブテーブル「entaku」とのコラボプロジェクト。「友達がやってるカフェ/バー」は誰が仕掛けたのかと話題になったことがきっかけでした。
明円さんの著書の発刊記念イベントに伺って、サイン待ちの行列の一番最後に並んだんですよ。後ろにもう誰もいないから、「実はこういう者でして、佐賀県とコラボしてみませんか」という私たちの話に耳を傾けてくださいました。そうしたら、「ちょうど地方の自治体と仕事をしてみたいと思っていた」と言っていただけて!
自治体なので、もちろん公募が鉄則です。ただ、待っているだけではたくさんの人に刺さるコラボは生まれませんから、トレンドを次々と生み出す方たちに佐賀県の情報発信の取り組みをご説明し、「パッションを感じていただけたならば公募にエントリーしてみませんか」と日々営業をかけて回っています。暑苦しいくらいの佐賀への愛が根底にあって、誰より佐賀に詳しいことに自信がある。そこを企画とつなぎ合わせていくのが難しいところであり、やりがいのあるところでもある。振り返ればどのプロジェクトも全力でやり切ったという思いがありますね。

text:矢島 史

佐賀県 政策部 広報広聴課
サガプライズ! プロジェクトリーダー
柴田 晃典

スポーツクラブ、ラジオ局勤務を経て2018年佐賀県庁入庁。伝承芸能の振興、JAXAと佐賀県の宇宙教育プログラム等の取組に従事し、2021年4月サガプライズ!着任。「副知事 島耕作」など企業やコンテンツ等とのコラボを通じた情報発信事業を担当