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ロコ情報スペシャル!
(愛知篇)

唯一無二のシンボル「ナナちゃん」
新しい扉、どんどん開きます

名古屋のシンボルとして愛される名鉄百貨店の「ナナちゃん人形」。6m10㎝という巨体にさまざまな衣装を纏わせ、百貨店のマスコットとしてだけではなく公共啓蒙活動や企業の宣伝のため働き続けてきました。年間40着、これまでに600着以上を着こなしてきた地方のシンボル、そんな存在は全国にここだけ!?

50歳を迎え、社員と住人の愛を一身に受ける

2023年、ナナちゃん人形は設置から50年を迎えました。半世紀前のことなのでヒアリングで知ったのですが、設置は「勢いだけ」で行なわれたようです。
マネキンの展示会に行った販促部長が、売り物としてではなく飾られていた6mもの巨大なマネキンを見て「これだ!」と。会社に「高さが入るか」と確認の電話だけして購入して帰ったということでした。今と違って画像データを送ることもできませんし、会議も通さず、まさに勢いで。昔だからできたことでしょうし、それを楽しめる仕事の仕方をしていたのだと思います。

ナナちゃんが置かれたのは、本館から少し離れた別館の「セブン館(のちのヤング館、閉館)」前。
若者をターゲットに、とんがったお店を集めて常に最先端を提案しようと運営していた別館でした。
入口前が待ち合わせスポットになりやすかったのですが、目印がなかった。「シンボルになるものを置きたいよね」と探しているさなかの、ナナちゃんとの出会いでした。

名鉄百貨店に残る最も古い写真は1983年のクリスマスナナちゃん。
以前は基本的に裸だったナナちゃん。愛着をもってくれた住民から
「何か着せてあげて」というお声をいただいたことも。

この50年の間に、撤去の危機は2回ありました。1回目は、そもそも1~2年の期間限定で設置予定だったということ。ところが、待ち合わせ場所として定着してしまったので撤去しようにもできなくなった。
2回目は、頭部を天井に固定する金具の腐食が懸念されたとき。もう撤去したほうがよいのでは?という議論もありましたが、行政のほうから「名所をなくさないで」という声が入って危機を免れることになったそうです。このあとも、金具交換や百貨店の改装のたびに撤去の選択肢が出ましたが、メンテナンスをして継続してきました。

社員にも、住人にも愛されるナナちゃん

ナナちゃんは我々と同じ広報部員で、チームの一員という認識です。立ちっぱなしの彼女は足を通行人に踏まれたり、衣装替えの際に切り傷がついたりしてしまう。女の子なのに傷だらけなのは忍びないので、塗装をはがして下地から塗りなおすお化粧直しをすることもあります。
最近のお化粧直しで工場に搬入した際には、跡地に1mの小さい「ミナちゃん」を置きました。するとその1か月、地域の方が温かくミナちゃんを見守ってくれたんです。一緒に写真を撮ろうという列が、毎日ありました。誰も誘導しなくても、ちゃんと1列に並んで。
ナナちゃん50歳の誕生日のときには、ネットでエピソードを募集して15段の新聞広告で掲出しました。50年立ち続けるということは、住民の人生のさまざまなシーンにナナちゃんがいるということでもあります。かなりの件数がすごいスピードで集まりました。ナナちゃんの前でプロポーズをした人もいれば、振られた人も。転勤から戻ってナナちゃんに会えてうれしいと言ってくださる人がいれば、若いときに待ち合わせ場所だったナナちゃんの所に子どもを連れて来ましたという人も。50年間立ち続ける意義というものを、感じました。
プレゼントを贈ってくださる方もたくさんいて、なんて愛されているんだろうと。ありがたいとしか言いようがありません。

2022年のお化粧直しでは、
“ミニ”サイズの“ナナ”ちゃんの意で名付けられた「ミナちゃん」の姿も。

ナナちゃん、開放される

以前は、ナナちゃんは基本的に裸でした。当社の企画と、献血などの公共啓蒙活動に限って衣装を着せていました。これだけ愛されているナナちゃんを活かさないのはもったいないということで、2012年に広告媒体化に踏み切った形です。
それに伴うキャラクターのコントロールが必要となった同時期に私が担当に。ナナちゃんのほか店内装飾や紙メディア、オウンドメディアなど幅広く担当し、複合的にお客様とのコミュニケーションをはかっています。
正直なところ、担当になった当初、私たちはさほどナナちゃんを重要視してはいませんでした。担当になったタイミングで「名鉄百貨店ならではの独自性はなにか」と考えたときに、さまざまな人から「ナナちゃんでしょう」と言っていただけたのです。そこから、スイッチが切り替わった覚えがあります。

ナナちゃんの最大の特徴は、表情がなく体が動かないこと。そんな不愛想なナナちゃんをどういじるか? その特性をどう活かすか? という観点で使っていただけるよう、みなさんにはお願いをしています。表情をつけたい、動かしたいというご要望はよくあるのですが、お断りしています。電信柱ではないので、看板をつけるだけというのもNGです。
「ナナちゃんらしさを」という制限があることで、かえってアイデアを絞れるのではとも考えています。これまでで一番秀逸だと感じているのは、2014年のGODZILLA×名鉄百貨店開店60周年企画「ゴジラ、名古屋上陸!ナナちゃんがゴジラに捕まった?!」。壁からゴジラの手が突き出ていて、ナナちゃんを掴んでいる造詣。ああいったアイデアのあるものをやりたいと、いつも頭の片隅に置いている作品です。

百貨店企画の際は、アイデアの見せどころ

百貨店60周年の際にはナナちゃんにお辞儀をさせたり、クリアランスセールでコーフン!の鼻息を吹かせたりしました。ばかばかしい企画に、真っ向真剣に取り組む。すると多くの取材が来てさらに認知度を上げることができる。その繰り返しで問い合わせ件数はどんどん増えていきました。
それは、ちょうどスマホの普及と同じタイミング。毎週火曜日の着替えの際には、みなさん写真を撮ってSNSに上げてくれます。すでに、日常的な光景として定着しています。
そして弊社のプロモーションの際には、できるだけ双方向にしたい思いがあります。「新春運試しナナちゃん」と銘打って足元でおみくじをひける企画をしたときも、お客様はちゃんと並んで積極的に楽しんでくださいました。鼻息を出した、「クリアランシュー!大コーフンナナちゃん」では、ジェット噴射で涼んでいくお客様がたくさんみられました。

2014年11月、名鉄百貨店開店60周年「60年間のご愛顧ありがとうございます」の意を込めたお辞儀ナナちゃんが登場。

こういったあしらいの際には、ビジュアルを広告会社にお願いし、自分たちでつくっています。制作会社にすべてをお任せすればラクだとは思いますが、ナナちゃんらしさにこだわるとすれば、我々が精魂込めてつくったほうがいい。
「お辞儀をするビジュアル」をもらったときも、「どうつくる?」を考えるのは我々です。制作会社にもご協力いただこうとしたら、「不可能です」と断られて。それでも考えて、考えて、友人の結婚式のある余興でソリューションを見つけたんです。まさに「これだ!」と。そのアイデアを元に同じ仕組みでお辞儀が実現しました。

追い込まれるから降りてくるアイデアというものがあると思います。それは、自分たちが必死で考えなければ出てこないし、必要なこと。幸い、ナナちゃんに愛情を持ってくださっている関係者の方がたくさんいて、「こんなものをつくりたい」と相談すると大張り切りで取り組んでくださる。
鼻息のときも、鼻の穴の開いたお面をつくって、管を地面から天井まで通して、と必死でした。お客様に驚いてほしくて、真夜中のうちに装着して。自動噴射をさせられるほど時間と予算に余裕がなかったので、横に小屋をつくってアルバイトさんにボタンを押してもらうというアナログな方法でやり切りました。

ナナちゃんの抱える、課題

難しいのは、ナナちゃんがバズっても入店客数が必ずしも比例しないことです。本館と距離があることもあり、呼び込むために試行錯誤。スタンプラリーを催したり、ナナちゃんの写真を撮って来たら景品をお出ししたり。まだ、これといって明確な手法がないのが現実です。
人気がありすぎて苦労する点もあります。名古屋の名所としての認知度が高く、「名鉄百貨店のナナちゃん」であることが知られてないことがあります。
さらには、知らないところでナナちゃんがひとり歩きしていることも。いつの間にか、他社さんのビジュアルに映り込んでいるんですね。名古屋を象徴する「建造物だよね」「好きに使っていいんだよね」となりがち。コントロールの難しいところです。

新しいナナちゃんの扉を開くアイデアを! 

今後も、ナナちゃんがナナちゃんらしくお仕事をしていけるように支えたい。そして我々が、意外性をプラスしていきたいと思っています。
アイデアは簡単には出てこないので苦しいところですが、インプットは意識しています。街をぶらぶらしたり、東京に出たときは自転車で移動したり。見せ方のおもしろい小さなお店など、目にしたものからいろいろと妄想を膨らませて楽しんでいます。旅行では、必ず街ぶらの時間を入れることにしています。
また参考にしているのが、現代美術。新しい、想像もしていなかったような表現を見ることで刺激を受けています。美術館で「あそこがナナちゃんだったら……」などと想像したり。
個人的には、今後、ナナちゃんを現代美術の材料として使ってもらえたら、という願望があります。どうすればそこにつなげられるのかわからないのですが……。現代美術に限らず、新しいナナちゃんの扉を開くアイデアをいつでもお待ちしています。

株式会社 名鉄百貨店
営業企画室 販売促進担当部長
保田 めぐみ

1994年名鉄百貨店入社。現在、広報・宣伝担当の部長を務める。ナナちゃん人形とは2012年から関わり、大きな話題となった「お辞儀ナナちゃん」や鼻から鼻息を吹き出す「大コーフン!ナナちゃん」などを企画した。