ロコ情報スペシャル座談会!
(福島篇)
“卒弁”の文化をつくりたい!
ACCヤングコンペから生まれた『卒弁民報』
2023年、第4回「ACC YOUNG CREATIVITY COMPETITION(ACCヤングコンペ)」で準グランプリを受賞した『幕の内民報』。福島民報社が「若者の地元離れと離職を防ぐコンテンツと情報発信」をテーマに協賛したコンペで、見事実装にこぎつけました。若手クリエイターと福島民報社のタッグで実行した『卒弁民報』は、どう生まれたのか?福島県に何をもたらしたのか?
受賞した、博報堂の武田麻鈴さん・田嶋千寛さん・諸星亜佳里さんと、福島民報社の長谷川洋平さんにお話を聞きました。
長谷川 洋平(株式会社 福島民報社/広告局 企画推進部長兼 浜通りエリア 営業担当部長)
2000年福島民報社入社。現在は広告局企画推進部勤務。
東日本大震災から15年。福島県が抱える課題の解決や「福島の魅力」を国内外に発信できる新聞企画・プロジェクトを推進していきたいです。好きなお弁当のおかずは、鶏の唐揚げ。
武田 麻鈴(株式会社 博報堂/コピーライター)
東京都出身。2023年博報堂入社。コピーライター。
コピーを軸に、世の中がちょっぴり良く見えてくることを企画します。
だれかの心に残って、ずっと使われ続ける言葉を生み出したいです。
好きなお弁当のおかずは、れんこんで挟んだハンバーグ。
田嶋 千寛(株式会社 博報堂/デザイナー)
1999年京都府生まれ。2023年金沢美術工芸大学を卒業。同年博報堂入社。
マス広告をはじめ、企業のCIや書籍など、幅広い領域のデザインを担当。
好きなお弁当のおかずはたまごやき。
諸星 亜佳里(株式会社 博報堂/アクティベーションプラナー)
静岡県出身。2023年博報堂入社
さまざまな趣味に熱中してきた経験から、「好き」という感情には人よりちょっと詳しいと思っています。心を動かし、誰かに「好き」になってもらえる広告をプランニングしたいです。
好きなお弁当のおかずは、スコッチエッグ。
『幕の内民報』は帰省から都市へと戻る時に食べる駅弁を、故郷の情報満載の紙面で包むという企画でした。そこから発展して実現したのが、『祝・福島卒弁民報』。2025年1月21日、福島の高校3年生に向け、最後のお弁当を包んで門出を祝う特別紙面が発行されました(『福島民報』朝刊に挟み込み)。紙面には保護者から寄せられたメッセージがあしらわれ、お弁当を食べながら思い出も一緒に味わえる仕組みに。
準グランプリ『幕の内民報』の誕生秘話
武田: ACCヤングコンペに応募したのは、まだ入社して配属されて2か月という時期でした。企画をゼロから考えられるチャンスであり、腕試しになると考えて。過去の受賞者の先輩に話を聞きながら、手探りで取り組みました。
諸星: 数あるコンペの中でも、「実装してもらえるかも」というチャンスはあまりありません。やってみたいなと思いました。
田嶋: この3人は、もともと知り合いだったり友だちだった仲で、話しやすい人と参加できたのはよかったです。最後は諸星の家で泊まりこんでつくったりしたもんね。
武田: 印象的だったのは、2週間かけて固めつつあった企画内容を、締切1週間前にすべて白紙に戻したことでした。"実現可能性""福島民報社さんがそれをやる意味"を考えたらほころびがでてきて。無理やりな出口になっていたんだよね。
諸星: 人に具体的な行動をさせようとしていました。それよりも、新聞という媒体の特性を活かしたほうがよいのではないかとなって。「行動させる」より「知ってもらう」もののほうが心を動かせるのではないかと。
田嶋: それで、地元の情報を載せた紙面で牛乳パックをつくろうとか、ポテトチップスのパッケージにしようというアイデアが出たのですが、そこで固め始めたところで「ターゲットが主婦になる。ずれていないか?」と言い始めたのが締切3日前。
武田: 納得感のあるタッチポイントがないということで、これで行くかどうかケンカしました(笑)。そもそも企画の発端は、諸星と田嶋のふたりが地方出身で「若者の地元離れ」という課題感を重ねられるところでした。自らの素朴な体験から、本当の課題はどこかと考えました。
田嶋: ふたりとも、「地元に残って働いている人」のロールモデルを描けないんです。思い浮かべる人はだいたい都会に出ている。これは実感のあるインサイトだろうと、そこをぶらさないように企画していきました。
諸星: 自らの体験を振り返ると、地元の静岡から東京に戻る新幹線の車中が一番「もっと静岡にいたかった」と思うんです。
田嶋: 車中でいつも泣いてしまうという友だちもいます。地元への名残惜しさと、またがんばらなきゃという瀬戸際にいる。
武田: 最終的に、帰省から戻る時に食べる駅弁なら気持ちが高まっているし、目は空いているからつい読んじゃうよねという「ここでなら確かにこう動く」という納得感のある企画になりました。評価していただけたのはきっと、新聞らしいやり方だったことと、シンプルな視点だったと思うんです。イメージができる。手触りがわかる。「こうやって手ごたえって掴めるんだ」という新しい体験でした。
長谷川: 優れた企画がたくさんありましたが、テーマに則していて、最も実現性が高いものはと社内で協議した結果、準グランプリの『幕の内民報』が選ばれました。
ファイナリストに選ばれてからのブラッシュアップ
実際に福島のお弁当屋さんに突撃!
諸星: 地元のお弁当屋さん「福豆屋」に伺って、実際にお弁当を見たり、「どういう方が買っていきますか」などとヒアリングをしました。つくった幕の内民報で実際にお弁当を包んだり。
田嶋: 当時デザインで意識していたのは、とにかくプレゼン上のわかりやすさ。包んだ時にロゴがきれいに見えるようにとか、福島の風景を撮影して掲出する広告のイメージを見せたりとか。
武田: この企画の一番よいところは、「帰省の新幹線はエモい。そのタイミングでこれを読めば故郷に帰りたくなる」というチャンス発見の部分なので、プレゼンでもそこを意識して話しました。
田嶋: 準グランプリをいただいたときは、「やった、最高!」と思ったんですけど、ふたりを見たらすごい悔しがっていた。
諸星: グランプリじゃないと実施する機会をもらえないのかと思っていたんです。本当に、この企画を実際にやりたいという気持ちが強かった。福島民報社さんに自主プレゼンをしに行こうとしていたほどです。
武田: その矢先に、福島民報社さんのほうからお話をいただけたんですよね。
長谷川: これなら実際にやってみることができそうということで、当時、東京支社の博報堂担当だった私がお話に伺いました。
『幕の内民報』が『卒弁民報』に
実装にいたるまでの紆余曲折
武田: どうしても、新幹線の駅弁だとリーチが少なくなってしまうんです。もちろん駅弁は人気商品ですが、新聞を各ご家庭に届けるという数とは桁が全然違う。また、ターゲットにピンポイントであたるかというと難しいという課題がありました。
実装にあたって、「若者の地元愛を育む」「お弁当を新聞で包んで情報媒体にする」という軸はぶらさず、駅弁にこだわらない形でアップデートしようとなりました。
長谷川: 福島の郡山駅で一番有名なお弁当屋さんは老舗の福豆屋さんで、「海苔のりべん」が名物なんです。そこで「こういうアイデアがあるので新聞で包みたい」とご相談したところ、最大で20個なら可能ということだったんです。けれども、20枚のために輪転機は動かせません。また、私も単身赴任時よく乗っていましたが、郡山―東京間が80分程度なのでお弁当を食べない人も多いんです。クライアントをつけて行う以上、数の面で成立するのかなというところがありました。
ただ、お弁当を包むというコンセプトは変えたくないよねと皆さんで話しましたね。「お弁当といえば高校生の時を思い出すね」と。「高校最後のお弁当ってどんなだったかな」とか、そういう話をしました。
諸星: ちょうど、高校卒業生の県外流出率が半分以上というデータを見つけていたんです。それならば、"高校を卒業するタイミング"でお弁当を通して福島への地元愛を育もう、親子愛を通して地元愛につなげようというのは、やりたいこととマッチしているのではないかと企画ができあがっていきました。結果、駅弁で行うより大きくリーチも増えました。さらに、高校生たちだけでなくて、その親御さんたちから喜びの声をたくさんいただけたのが嬉しかったです。
長谷川: 朝刊に挟み込んでの配布なので、約20万部は届きました。その中で高校3年生の親御さんにどれほどリーチしたかはわからないのですが。実施の際には県教育委員会等に後援していただいて、県立高校から保護者に『卒弁民報』の発刊をお知らせしてもらいました。私立高にはこちらから直接連絡をして、ターゲットへの周知に努めました。


