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『MY WEAR | GREEN BATON Brand Film』
福岡の制作チームが成した
魂が宿るウェアの操演

このたび「2024 64th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS・フィルムクラフト部門」で見事にブロンズ、そしてスタッフ賞の「操演賞」を受賞した『MY WEAR | GREEN BATON Brand Film』。子どもの成長する喜びとともに、ものを循環させることのよさを切なさをもって見る者の心に届けるこのムービー。全編実写で服が自在に動き回る表現は、いかにして撮影されたのか!?制作チームに話を聞きました。

大隈 章由(株式会社 ティーアンドイー/プロデューサー)
福岡で制作6年→東京で制作とプロデューサー8年→福岡2年、今に至ります。
東京と福岡の知見を活かし、フルスイングします。

篠原 健太郎(株式会社 ティーアンドイー/ディレクター)
1983年生まれ。
電通クリエーティブX退社後、北米に渡る。
2016年より、地元福岡で活動再開。

辻 慧介(株式会社 ティーアンドイー/プロダクションマネージャー)
1993年生まれ
2016年T&E入社
制作進行8年目。一生懸命頑張ります!

THE NORTH FACEやHELLY HANSEN等のアウトドアブランドを手掛けるゴールドウインが、リセール事業として取り組むサステナブル・レーベル「GREEN BATON」。サイズアウトしたものや傷ついたキッズウェアを作り手がアップサイクルして再販。ファッションロス・ゼロを目指す取り組みのブランドムービーが、この少女とウェアの物語です。

■『MY WEAR | GREEN BATON Brand Film』 ■[Behind the Scenes] MY WEAR | GREEN BATON Brand Film

上がりの見えない企画に
「とにかくチャレンジ」

大隈P:PARTYの眞鍋(海里)さんが、最初に3つ企画を見せてくれたんです。その中で、「フィジビリティ的に無理です」と言ったのが、実はこの“洋服が動いて冒険する”という企画でした。でもPARTYの佐藤(裕馬)さんが「こういう仕掛けで、なんとかCGを使わずにやってみるというのはどうでしょう」と丁寧に相談してくれて。
そういうことであれば、実際にやってみながら無理そうなものは落としていく感じで進めてみましょうと。最初に出された3案の中で、最も上がりが見えない企画だったので。監督の演出も足していくと、結局CGを使わなければできないことも出てくるのだろうなと思ったりもしました。
クライアントも、PARTY側も、我々も、「とにかくチャレンジしてみよう」というスタートでした。

篠原D:あと2案があったの知らなかったんですけど(笑)。この企画を見たときに、相当なやりがいがあるなと感じました。大隈さんから「実験しながらやってみましょう。無理そうなものは落とすかもしれません」と話を聞いたので、とりあえず思いっきり演出コンテは書いてみました。結局、「これは落とします」は1か所もなかったですね。

大隈P:監督のコンテが素晴らしかったので、テストもなしにペケをつけるのは失礼だと感じたんです。ともあれ一度やってみようと。そうしたら、速攻で辻PMがテストに入ってましたね。洋服を動かしてみて。結局、ほぼすべてがなんとかできたんですよ。CGを使うこともなく。

辻PM:そもそも、眞鍋さんには実写でやりたいというこだわりがありました。今回の商品の訴求が「アップサイクル(捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生すること)」だったので、実際にウェアが動いたほうが心を打つものになるだろうと。

大隈P:仕掛けの都合上、同じウェアを11着用意してエイジング加工し、それぞれに必要な仕掛けを施しました。シーンによって、テグスで吊ったり、アンコを入れたり、棒を何本も付けたり。穴を開けるような仕掛けもあるのですが、すべてゴールドウインに戻してアップサイクルしてもらいました。服を大切にして次の人に繋ごうというのを体現するためにも、アナログでやりたいという思いが眞鍋さんにはあったんですね。 予算の関係もありましたが、みんなで挑戦しようという前向きな気持ちで実写に取り組みました。

篠原D:CGとなるとアニメーターへの感情の伝達が挟まるので、行ったり来たりが増えてしまいます。「少女」「ウェア」という感情表現のしにくいものだっただけに、実際に動かして試行錯誤しながらキャラクター性を出していったのが結果としてよかったと感じています。

切ないウェアの表現に思わず感情移入!
操演部を入れずに、いったいどうやって?

篠原D:大隈さんもカメラマンも僕もちょうど4歳の子どもがいて、ウェアのキャラクターが5歳という設定だったのも功を奏しました。「実際子どもって、こういう状況でこんな動きするよね」と見せ合ったりして。

大隈P:今回、操演部は入っていないんですよ。代わりに、制作部ですべての演技をしました。だからACC賞で操演に対してスタッフ賞をいただけたのがうれしくて。
福岡の制作部は、なんでもやるんです。僕は最近まで東京でやっていたので顕著に分かるのですが、東京ほど案件数の分母が多くないこともあって本当に制作部がなんでもやってしまう。今回の部屋の美術も、助監督も、制作部でやっています。

辻PM:とはいえ、全編を通して服を動かすというのは初めての経験でした。検証して、テストして、やってみての繰り返しで。

篠原D:最初は、本当は操演部入れたいと思ったんですけどね。

(笑)

篠原D:でも結果として、制作部でやってよかった。恐らく操演のプロに頼んだら、「こういう感じでやります」「お願いします」となったでしょう。でも制作部でやったから、カメラマンも含めて「もっとこうしてみたら」といろんな人から意見が入って、どんどんブラッシュアップしていった。この過程がなければ、これほどいいものは撮れなかったかもしれません。チームの一体感をつくる意味でも、功を奏しました。
大隈さんまで操演に回っていたから、プロデューサーがいない状態でしたよね。

大隈P:僕と制作部の5人で操って演じていました。スタッフの緒方(葵)がウェアの感情を担っています。カウントして動作を合わせるのではなく、彼女が「待って!待って!行かないで〜」のような声で感情を出して、それにみんなで合わせて動かしました。

篠原D:合わせて動ける制作部、すごいですよ。
緒方さんの動きが普段から子どものように無邪気で、ぴったりだったんですよね。「こういう感情でやってみて」「緒方ならこういう時どう動く?」と話して、一度カメラ前でその動きをやってもらうんです。その動きのイメージで掛け声を発してもらっていました。

大隈P:だからあのウェアは実は5歳というより、ほぼ緒方(笑)。ウェアに名前をつけたのも彼女でしたね。ノースフェイスの「のんちゃん」。最初にテストをしまくってぼろぼろになってしまったウェアは「始祖」と呼んで。愛着ありましたね。

辻PM、八面六臂の活躍

―実験にはどれくらい時間をかけたんですか。

辻PM:人が集まらないと検証ができないので、「この2時間だけ集まろう」「〇時以降に集合」と声がけをして連日実験していました。

大隈P:それぞれ通常業務がありますからね。やってみて、辻くんが撮影して、どうしようかどうしようかと検証を重ねて。ウェアの成形も難しいんです。頭の形が長くなると、虫みたいになってしまう。

辻PM:準備は10日くらいですかね。アンコの入れ方を検証したり、ホコリが立つようにするにはどうするかとか。フードにはクリアファイルを成形して中に入れたんですけど、正面から撮る時はそれができない。頭を吊ったり、中に手を入れられるようにしたり。

篠原D:撮影の時かわいそうだなと思ったんだけど、辻くんが基本のセット組を考えたり、「こう動かしたらよさそうですね」と操演を引っ張っていってくれていたのに、当日は現場を仕切らなきゃいけないから操演に参加できなかったんですよ。

辻PM:みんな操演に夢中になっているので、時間通り進めるためにケツを叩くという悪役になっていました。

篠原D:1日終わった後に「辻くんごめんね」って謝って。

(笑)

篠原D:4日間の撮影では、5人の息を合わせるのも大変だし、何度も撮り直しました。中身のアンコが出てきて「内臓が!」ということも。狭い室内の撮影では、操演の5人とカメラと僕が入ってぎゅうぎゅうになるので、だんだん酸欠になってきて最後はボーっとしてましたね。