Vol.4
Septeni Japan/クリエイティブディレクター、コピーライター
飯島 夢
あの人のノート、いったい何が書かれているのだろう? 世を騒がせるクリエイターの思考法をのぞき見したい。2022年度のヤングライオンズコンペティション(以下:ヤングライオンズ)※1では、PRINT部門の日本代表として本戦に挑み、自らの道を切り拓いていっている飯島夢さん。仕事をしながらさまざまなセミナーやコンペティション(以下:コンペ)に参加し、成果をぐんぐんと上げています。そのモチベーションはどこから!?本誌編集長の安達が話を聞きました。
※1)カンヌライオンズで行われる30歳以下のプロフェッショナルを対象とした公式プログラム。各国の代表2名1チームが参加し、現地で与えられた課題に対し、定められた時間内に作成した映像や企画書の提出、プレゼンテーションにより、GOLD, SILVER, BRONZEを決定します。
打ち込んできたバレエと広告に通じる魅力
―どうして広告業界に入ったんですか。いろいろな人に話を聞くと、幼少期にルーツがあることが多くておもしろいんです。
幼いころから大学生まで、長い間クラシックバレエをやっていました。クラシックバレエは、“型ある芸術”だと考えています。基準がしっかりと決まっていて、型を守ることで美しさが生まれる。習得するために、ものすごい鍛錬が必要となります。けれども、それを完璧にできたとしても、見ている人が心を動かされるかはまったく別の話。踊る本人が、自分の目で見て、自分の身体で経験してきたものが、表現に出てくるからです。だから同じ演目でも、踊る人によって違うということがあるのだと思います。その合理的な部分と、非合理的な部分の両側面があるところが魅力でした。
就活中、そんな仕事があったらおもしろいなと考えて、ピンと来たのが広告業界だったんです。ある程度いい企画には型があって、それを守って形にするところ。そして、そうじゃない部分、いくら頑張っても言語化できない部分があるのではないか。とくに広告クリエイティブの仕事にはその両極端がうまくバランスを取って両立されている凄みを感じました。
―よく広告の仕事にその両面を見つけられましたね。
幼少期の体験は大きいのかなと思います。父が食品関係で、「商品のパッケージつくってみてよ」とお題をくれた。うまくはできなくても、ほめられたのを覚えています。あとは小学生のとき、図書館で偉人の伝記を読もうとしたときに、背表紙に書かれた“その人を表す一言”で誰の本を読むか決めていました。どれが魅力的なのか、その一行を見て吟味していた。今思えば、コピーに触れていたのだと思います。
就活中は、広告業界のほかにも化粧品業界を視野に入れていました。やはりバレエで幼いころからメイクをしていたので、興味がありました。今となっては化粧品の広告を担当することが多いので化粧品に関われているのが不思議だなと思います。
仕事は、ダイレクトレスポンス領域のコピーを書くことはもちろん、飲料メーカーのECサービス立ち上げのクリエイティブディレクション、タグラインやステートメントを考えたりと、デジタル領域を主軸に幅広く担当しています。直近では、セプテーニが電通のグループ会社になったので、電通の営業・ストラテジックプランナーの方と一緒にお仕事することも増え、その際はコピーライターとして入ることが多いですね。
―いつかお仕事ご一緒できたらうれしいです。
自分の土を耕すための、ノートと勉強
―ノートって使っていますか?
使用用途を分けて、アプリも含めたら4つ使っています。
1つ目は、「Miro(※オンラインホワイトボード)」というツール。ヤングライオンズに参戦するときに、相方(古林萌実さん/東急エージェンシー)と共有していました。
さまざまなクリエイティブを収集し、分析してコメントを交換し合うためのノートです。表現のバリエーションを頭に入れたり、社会課題にアプローチしている広告を集めて研究したり。脳内の引出しというイメージです。
デコンストラクション(以下:デコン)ためのノートとしても使っています。広告を解体していき、どんな事実の発見があるのか、どんな伝え方をしているのかなどを分解していく作業のことです。分析の仕方や構造を学ぶことは何に対しても役立つことなので、ここで得たものをコンペティション以外の場面でも生かしています。
デコンの際は、TBWAさんが打ち出している“ディスラプション(創造的破壊)”の考え方を参考にしています。「変えるべき当たり前」に着目し、どう変えていきたいかというビジョンを置いて、そのために起こすアクションは何かと、3段階を踏んでアイデアをつくるメソッド。これに則って分析していました。
アイデアでジャンプする前に、まず分析をして正しい方向を向くためにやっています。花を咲かせるために、最低限の土を耕すというイメージです。
2つ目は、アナログのノート。コピーの案出しを、気軽にここに。そしてコピーとビジュアルとセットで考えられるように、構図の検証をしています。こういう要素、こういうビジュアルと一緒に、コピーが入るといいのではないかというイメージを可視化するノートです。
―若い人が手書きするって意外です。手書きの方がいい?
いいかどうかはわからないのですが、「取り入れた方がいいな」と思って(笑)書いたり消したり、書いたものに棒線を引いて上書きしたり。身体性を伴う経験が、自分に必要なのではないかと。デジタル出身の人間なので、あえて自分の手を使って書く機会も大切にしています。
もし構図の検証をパワーポイントでやるとなると、書き入れようとするたび考えて丁寧に入力すると思うんです。頭に浮かんだことをパッと書き出すには、手書きのノートの方がいい。それに、手で書いている流れで思いつくアイデアもあります。見返したときに「いいかも」と引っかかるものがあるのは、アナログのノートであることも多いです。
―コピーライターが画を意識するというのは大事ですよね。
いいコピーを書こうというより、いい企画を出そうと思って考える方がうまくいくことが多いんです。そう考えると、どうしても言葉だけにはならないので。
3つ目は、スマホのメモ機能です。歩いていてふと思い出したことや、オンライン参加した講義などで引っかかったワードをメモしています。しょうもないことをたくさん書ける場所でもあります。ちょっと笑っちゃった誤字とか、心に残った友人の一言とか。そういう日常の小さな心が動いた経験を蓄積しています。
4つ目は、Evernote。課題が出されるような講義や勉強会、「ながら」ではなく着席して聴くセミナーの記録用として使っています。今は、阿部広太郎さん主宰の「企画メシ」に通っています。
―すごい講師がそろっていますよね。僕、企画メシのイラストを描いているんですよ。
ほんとですか! 講義や勉強会は、定期的なインプットがないと不安なので、積極的に参加しています。仕事もしながらなので、たまに自分でも「大変なのになぜ…」と思うことも(笑)。まだクリエイティブに異動して2年ほどしか経っていないので、自分の企画の型がまだまだできていない状態。その分、人より多く「場」に出ていって、たくさん吸収して、できるだけ早く型を整えたいなと思っています。
―冒頭に話していた、広告の型の部分を吸収しているのが見て取れますね。そのモチベーションはすごい。
本当は型の学習だけではなく、気がつける人になりたいという気持ちが強いです。日常のふとした瞬間から、大事なことをちゃんと切り取れるように特訓しています。気がつける能力って社会に出るとなかなか難しいことだと思います。でも、自分にクリエイターとしての特徴があるとすれば、違和感を持てる能力だと思っているので、それを最大限に活かしたいです。
バレエの世界もクリエイターの世界も、きっと才能のある人が、才能以上の努力をしてうまくなる世界だと思います。まずは、ベースの部分で遅れを取らないように、型を習得しておくことが必要かなと。