Vol.12
空気を笑う
―動画の中の顔のつくり方が絶妙ですよね。うまくいった時のマウント顔もトホホな時でも同じ顔に見えるところが斬新で笑いを誘います。
普通にやってるだけなんですけど、周りから「その顔おもしろいね」とメッチャ言われて。アメリカ人にも好評なので、世界共通でおもしろいのかな、と。動画編集のときにその顔を使うようにしてます。
―藤原さんはアイデアを出す人であり、手を動かして作る人であり、出演する人でもあり、自分で編集もされています。ご自身のなかでそれぞれの役割ははっきり分かれているんでしょうか?プロデューサーやディレクター的な目で見ることもありますか?
そこはあまり分かれてはいなくて、ずっと素なんです。それが一番心地いいので。プロデューサーの目というのはあると思いますね。芸人をやっていたので、客観的に自分を見る癖があるんです。「自分はどう見えているんだろう」「今のこの状況はおもしろいかな」と。
空気を笑うっていうのが好きなんです。テクノロジーにはそういう空気をつくりだす能力があります。例えばメッチャ真剣な話をしているときに、Siriが「すみませんわかりません」と反応してしまった時の空気とか…。
お笑いは何が起こるかわからない空間の方が爆発しやすいので、マシーンが急に予想外の動きをするのがいい方向に働くこともある。規則的に動いている、その空気自体が何か変だったり。そういったテクノロジーの味わいが好きで、『無駄づくり』でロボットに手を出している一面があります。
「何しているかわからない大人」になる
―学生時代はどんな人だったんですか?
(動画でも公言している)友だちがあまりいないというのは中学高校からで、ひとりで映画を見たり、ゲームをしたりでした。高校は単位が取れるぎりぎりの出席で、休んでは映画館で過ごしたり。基本的にひとりで徘徊していました。
よくあるやつですけど、自分は何者でもないというコンプレックスが大きくて。美大に行きたいけどデッサンはできないし、工作もしたいけど下手だし、かといって努力もできない。でも、何かつくりたいなあ……と。
本当はアーティストになりたかったけれど、無理に決まっていると思いつつ美術の修復師を目指して美術系の高校に入ったんです。でもデッサンで挫折して、「もういいや」とジャズ部に入って。そのジャズ部は部員がみんなシャイで、せっかく学園祭でライブとなっても「人前ではやりたくない」という状態でした。仕方ないから私と友人の二人で、「布を一枚引いて顔を見せないでやればいいじゃん」と説得して、布越しのライブをしたんです(笑)。
それがきっかけで、気がつきました。人前が恥ずかしかったり、自分はそんな器ではないと思っていたけれど、ものを生み出すことは自由だし、それをどう見せるのかはやり方次第だと。内心ではずっと、オモシロイことをやって人に見てほしい、オモシロイと思われたいという欲求があった。大学に行くほど頭もよくなかったし、NSCに行くことにしました。
―いや、頭がよくないなんてとんでもない。今年出された『考える術』ですが、ここまでアイデアについて言語化できるなんて、と感銘を受けました。
―誰か目指すような人や成功モデルはいるのですか?
成功している人より、周囲で時々見かける「このおじさん何で生計立ててるんだろう?」という人が好きなんです。自分もそうなりたい。そしてベタですけど、タモリさん。同じことをずっと続けている人を尊敬します。長く続いているバンドとか、コンスタントにアルバム出して、ちゃんとアルバムごとに違うことをやって、そういうのに憧れます。同じパッケージの中で、いろいろあるだろうに解散もせずに続けて、時代に合ったものを出していくって本当にかっこいい。
自分は、最近ようやく安定して週に1つ新作をアップするようになりました。そのために、1日1個はアイデアを考えるようにはしています。コンディションが悪くてもひとつは書くように。それを続けることが大事だなと感じています。
白黒つかない余白を表現
―『無駄づくり』の映像をつくるうえで、ルールやこだわりはありますか?
余白をつくる。「こう見てほしい」は決めない。気をつけているのは、誤解されそうなものやノイズになるようなものは排除すること。
余白というのは、グレーゾーンというか…。SNSをみんなが使うようになってから、「白か黒か」みたいな価値観になってとても居心地が悪く感じるんです。「好きか嫌いか」「いいか悪いか」というのは、怖いしストレスを感じます。だから、「オモシロイし、オモシロくない」「無駄だし、無駄じゃない」と中間を表現したいんです。
あと私は仏教が好きで、仏教は虚無に向かうものなんですよね。砂の曼陀羅なんかも、すごく手間暇をかけて、最終的には崩してしまう。今年はじめにアップした「ゴミができるプラモデル」は、せっかくつくったけどできるのはゴミ、という。仏教の教えを込めていたりもします。
―「ゴミのアート」なのかと思って見ていましたが、違ったんですね!哲学的ですね…。とはいえ拝見していると、多くの作品に「この問題を解決したい」「不満を解消したい」というところが垣間見える。『無駄づくり』の活動を通じて、世の中にどんな作用を与えたいと思っているんですか。
私自身が『無駄づくり』の中でものをつくることに救われています。「別に何をつくってもいいじゃん」「何をしてもいいじゃん」を届けられたらいいな。これを見てくれた人の中に余裕みたいなものが増えるといいなと思っています。
―コロナ関連の発明も多いですね。ウィズコロナとなって、創作する上で感じていることはありますか。
コロナをハッピーに語ることはできないけれど、その中でも人はがんばって楽しもうとするところがあるのだと感じます。世界中が同じ状況になって、カルチャーがまったく違う国の人とも「マスクって耳痛くなるよね」と共通の気持ちを持てるようになっている。そういう意味では、バラバラだった世界が一つになっているような感じがしています。
無駄づくりのためのアイデア・メソッド
―『考える術』*を読ませていただきました。本当にまじめで質の高いアイデア創出のための書籍になっていますね。それはとてもハードルが高い仕事だったと想像しますが、なぜあれを書いたのでしょうか。
最初はエッセイを書こうとしていたんですけど、読み返したらマジでつまらなくて。YouTubeは無料で見てもらえるから「私はこれがおもしろい」とやれるけど、お金を払って買う本だから読む人にはいい思いをしてほしいんです。
それで、これまで無駄づくりのアイデアを出してきた上で、メソッドが溜まっているから言語化しようと考えました。そのことで自分も助かるし、ほかの人も助かるかもしれないと。書くのに2年くらいかかりましたが。
―『考える術』の71もあるメソッドひとつに「アウトプットの言葉」をつけるというのがありますね。あれはどういう発想法ですか?
例えば「アプリ」とか、「サービス」とか、言葉のお尻につけると新しい想像が刺激される言葉を指します。「紙飛行機」というとそれそのものですが、「紙飛行機アプリ」となると違うものが想起される。つけるだけで想像が膨らむ、アイデアの引き金のような言葉のことです。
ワークショップの講師をしたことがあるのですが、自分の悩みにアウトプットの言葉をつけて企画をつくってくださいとお題を出しました。そしたら「ムカつく上司大全」とか。「大全」をつけるだけでアイデアが具体化する。他にもいろいろ出てきましたよ。
* 「考える術―人と違うことが次々ひらめくすごい思考ワザ71」(2021 ダイヤモンド社)
「わけの分からなさ」がある広告を
―ご自身のコンテンツと比べて、現在のテレビをどう思いますか。
もともとテレビっ子でお笑い芸人を目指していたような人間なので。みんなテレビ見なくなってるなとは感じますけど、テレビはテレビで楽しいです。たまに出演することもあるのですが、私のしょうもない発明品を少しでもよく撮ろうと、カメラマンさんがいろいろな角度から何時間もかけて撮ってくれるんです。テレビってクオリティ高いなと思います。
CMもそうですが、十数秒でも思考と技術の結晶じゃないですか。テレビの5分くらいの紹介VTRでもみなさんの技術が集約されていて―。時代にそぐわないみたいな言い方をされることもありますけど、それでも企画次第でオモシロくなる。好きです。
―『無駄づくり』以外でやろうと思っていることはありますか。
私は「何しているのかわからない大人」に憧れて、無事それになれたのでは、と思っています。次はたくさんの小中学生の前に出て、「この人は何をする人なんだろう」と思ってもらいたいんです。みんなにもたくさん無駄なものをつくってほしい。
今、STEAM教育とかプログラミング教育とかあるので、自分の頭の中にあるものをつくるための技術を教えてみたい。それがテーマの本を今書いているところで、教育系に展開できたらと考えています。
―最後に、今の日本の広告についてご感想を聞かせてください。
YouTubeもプレミアムプランにして広告を見てない私は、みなさんの敵みたいな存在なんですけど(笑)。コンテンツをつくっていて感じるのは、昔のメソッドが通じなくなったり、逆に昔はウケなかったものが今は評価されたり、時代はクルクル変わるのだということ。だから広告でも、あまり気にせず、ガンガン自分の好きなものをつくって流してほしいなと思います。
昔は本当にわけのわからないCMが多くて、ちょっと怖かったり、「この人なに?」と思ったりしたものです。でもそういうものの方が記憶に残っています。
「こういうのがウケる」メソッドに依らず、自分の身体とか気持ちよさを優先している広告、自分自身をあらわしているような広告を見たいと感じます。
―これまでで好きな広告は何でしょうか?
アメリカのバーガーキングのARを使った広告。マックの屋外広告やSNS広告にスマホをかざすとARで燃えはじめ、燃やすと無料クーポンがもらえるやつ。ARは「とにかく使ってみたい」というだけの事例・作品が多いのですが、これはARだからこそのオモシロさがあっていいなと思いました。
―『BURN THAT AD』*ですね。競合マクドナルドの圧倒的露出量の広告を、自社の広告に替えてしまうユーモアは、『無駄づくり』にも通じるものを感じます。
ありがとうございました。『無駄づくり』の新作を楽しみにしています。
* BurgerKing『BURN THAT AD』(https://www.youtube.com/watch?v=PGByvh25uE0)
藤原麻里菜(ふじわら まりな)
コンテンツクリエイター、文筆家
1993年生まれ。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。
2013年からYouTubeチャンネル「無駄づくり」を開始。現在に至るまで200個以上の不必要なものを作る。
2016年、Google社主催の「YouTubeNextUp」に入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展- 無中生有的沒有用部屋in台北」を開催。25000人以上の来場者を記録した。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者部門 2019年度」採択。