Vol.19
「知らないから楽しめる」 「知らないからおもしろい」を目指して
―ご自分が見たい番組になってきたという実感はありますか。
自分が、というより番組の制作サイドが見せたい、ですね。もちろん視聴者の反応があった上でのことですが。番組のカラーが出てきて、すると出演する方も「この番組ならこれを話せる」というものが生まれて、どんどん補強されている感じはあります。最初からこの形が見えていたわけではないんですが。
―トライアンドエラーがあったと思います。手応えが大きかったのは、どんな回なのでしょう。
本当に試行錯誤の連続でした。毎年年始の初回に、プロが選ぶ「年間マイベスト10」というのをやっているのですが、ここで選ばれたアーティストがXでつぶやいてくれて、さらに反響が広がることもあります。選ぶほうは同業なのでご苦労があると思いますが、知名度がそんなに高くない曲やアーティストも入ってくるのが興味深いんですよ。最初は世間がどう受け取るかと心配もあったのですが、「おもしろい!」と思っていただけることがわかりました。
―「マイベスト」ランキングには、ラッパーなども入ってきて―。ちゃんみなやAwichとか、いまや大メジャーになってMステに出るまでになりましたものね。
何年か前のランキングを見ると、「この人も!」と、今ではメジャーになっている方がたくさん入ってますね。
いしわたり淳治や蔦谷好位置などプロのゲストが、1年間聴いた楽曲の中から、
個人的に選んだベスト10を持ち寄って紹介・解説する。
―私たちCMをつくる人間にとっても悩みどころではあるのですが、テレビの未来はどうなるとお考えですか。
昔はみんなで同じものを楽しんでいたけれど、今は楽しむものがたくさん増えて、世代などで分かれましたね。それはそれでいいと思いますが、この番組では往年のヒット曲や平成世代の楽曲に触れる際、「それは今の世代に影響を与えている」という観点で融合できないかは毎回の検討課題です。
例えば先日のGLAYさんの特集では、実はSUPER BEAVERの柳沢亮太さんが影響を受けていると話す。するとSUPER BEAVERのファンは改めてGLAYさんってすごいとなるし、GLAYさんのファンもSUPER BEAVERに興味を持つキッカケになるかもしれません。
深夜とはいえ地上波なので、多くの人が見ています。間口は広いほうがいい。「若い人はこういうの」「年上の人はああいうの」と分けてもいいのだけれど、地上波では両方を取り込みたいところがあります。
―なるほど、「これは60代以上しか見ていないから」というつくり方になると、おもしろくなくなるんですかね。融合させたほうがいいのでしょうか?
時間帯にもよると思います。ゴールデンで視聴率を取るのと、視聴率は望めなくても配信ですごく話題になるものと。テレビではその二極化が進んでいるように思います。僕がもし「とにかく配信で回る番組をつくれ」と言われたら、同じ音楽を扱うとしても間口を広くという風には考えないと思う。出しどころにもよると思います。
―いま二極化に直面されていて、これからどっちをやりたいですか?
欲張りですが両方やってみたいですね。『EIGHT-JAM』もニッチなことをしていますが、もっと突き詰めてニッチにしてみたい。でもそれが、「わかる人にだけわかる」にはしたくない。知らなくても楽しめるものにしたい。そこだけなんですよね。だから、両方。
わざわざ選んで見に来てもらう-配信時代の成功パターンを
―影響を受けたコンテンツ(番組や映画)はありますか?
―藤城さんは、現在プロデューサーもディレクターも兼務されていますが、いちクリエイターとして情報収集で気をつけていることは何ですか。
あんまり自分から取りにいかないんですよね。ただ、他局や他番組でも仕事をしている構成作家さんの意見はとてもためになります。ほかの制作者と横のつながりがないので、機密に触れない範囲で話を聞くようにはしています。
―ボカロやDTMの登場で音楽シーンが変わったように、今後技術でテレビ番組が大きく刷新される可能性はあるんでしょうか?
それで言うと、TVerなどの配信サービスは制作サイドにも大きく影響を与えたと思います。従来のリアルタイム視聴より、積極試聴の度合いが強いと思いますので。これまでの視聴率とは別の指標が新たに増えた結果、視聴率・配信それぞれに強い番組、両方とも強い番組など年々変化が見られます。
―嫉妬するような仕事をする人、目標とする人はいますか。
『世界の果てまでイッテQ!』『月曜から夜ふかし』の日本テレビの古立善之さんはおもしろくて数字を取れる番組をつくっていらっしゃいます。古立さんがいるから「おもしろい番組だけど数字取れないんだよね」という言い訳はできません。配信もすごいし。見習いたいです。
テレビが細分化して、配信も増えて、でも成功パターンが何かというと自分はまだ探っている状態。変わりゆく環境の、そのときに一番よいものを突き詰めていけたら。昔はよかった」と言うのではなく、突き詰めて成功のパターンを見つけていきたいです。
また一方で、細分化した先で、狭いところで終わらないようにしなきゃとも思います。突き詰めた結果話題になって、ターゲットにしていなかった層が思わず見ちゃうようなことになれば、テレビも広告もパワーを持つのでしょうね。
*5)小学館『ピッカピカの一年生』(1978年~)、サントリーローヤル『ランボオ』(1983年)、サントリーホール『陶酔』(1997年)は、いずれも杉山恒太郎氏がクリエイティブ・ディレクターとして関わったテレビCM。『ピッカピカの一年生』、『ランボオ』はACCパーマネントコレクションに選出されている。
「異業種交流」と、「余白」と
個人的に思うのは、もうちょっと業界内で交流したいですね。今までほとんどそういった活動をしてこなかったので。テレビマンが広告のお手伝いしたり、広告つくっている方が番組つくったり。先日広告会社の若手のクリエイターさんとお話をする機会があったのですが、意外な発見がありました。
―ほかの領域にも自分たちの技術を使っていかないと、テレビも広告も小さくなっていってしまいますね。
細分化は悪いことではなくて、突き詰めることで細分化したものが広く届くようになればいい。そこで、広げるために「とりあえず会って話しませんか」と思うんですけど、今はそういう時代じゃないのかな…。
―そんなことないと思いますよ。上司と話すより、異業種の人としゃべってみたい。広告クリエイターはミーハーだからすぐ来ると思いますよ。
テレビマンもそうですね(笑)
―今後、例えばスポンサーのついた教養特番なんてあったら、藤城さんがやるとどうなるでしょう?
やってみたいですね!アートでも、医療でも、食でも、自分が知らない「プロのしていること」「表に出ていない部分」に興味があります。役者や演技の世界も、裏側をあまり聞かないじゃないですか。例えばドラマの番宣でも、俳優さんたちが「ホントはこういう思いで演技したんだよ」っていうのを番組にできないか…なんて思います。
―広告業界の若手クリエイターに対してメッセージをお願いします。
僕が若いころはまだ寝ずに仕事、という感じの時代でした。今もそうかもしれませんが…でも仕事以外の余白が今役に立ってるんですよね。今の若い人は最初から上手に余白を持つのかもしれないですけど。人との交流でも、街を歩くでも、何かを見るでも、仕事以外の余白の大切さを今改めて感じます。
あとは、上の世代をうまく使ってください。学べることもあるし、合わないところは真似しなければいい。せっかく近くにいるのだから、自分にプラスになることを取り入れてください。あとは周りから自分のプランや創作物に修正がかかっても、全てにおいて適合して行く必要はないと思います。もしかしたらその“直したくない部分”が将来的に自分のカラーになるかもしれませんので。
―それでいうと、藤城さんにとって加地EPの存在は大きかったのですか。
加地さんは、25年間ずっと上司なんです。「ひとりの上司にベッタリつかずに、いろんな人の考え方を聞いたほうがいい」って入社当時に言われてはいたんですけど、結果ずっと加地さん。『EIGHT-JAM』は、加地さんが上についていない初めての番組でもあり
だからこそ番組立ち上げ当時は、加地さんだったらどんな演出考えるかな…など意識していたかもしれません。
番組がなかなかオリジナリティを出せずに苦戦していた時、ひとつ思い浮かんだのは企画を練ることと同時に、番組のメイン出演者にその番組がフィットしているのかどうか?ということでした。例えば加地さんが演出を務める「ロンドンハーツ」が長年続いている理由のひとつに、この番組はロンブーがメインでなくてはいけない理由や企画があったと思います。それが『EIGHT-JAM』の場合は、音楽×エイトの中で何ができるか?
音楽的好奇心の強いエイトや古田さんにフィットするのはどんな企画なのか?そんな思考の流れが、“ニッチでも興味深い音楽のことなら何でも扱っていく”今のスタイルにつながっていったと思います。出演者と番組の向き合い方、このスタンスはこの先どんな番組をやるにせよ変わらないような気がします。
執筆協力:矢島 史
photo:村上 拓也
藤城 剛(ふじしろ ごう)
株式会社テレビ朝日/ゼネラルプロデューサー
1975年生まれ。早稲田大学卒業後、1999年にテレビ朝日に入社。コンテンツ編成局第1制作部ゼネラルプロデューサー。現在、毎週日曜23時15分より放送されている音楽バラエティ番組『EIGHT-JAM』のほか、『ロンドンハーツ』『有吉クイズ』『ミュージックステーション』を担当。