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施策でできた人脈が、次の施策を盛り上げる種に

早藤:「リモート市役所」は2021年1月に運用を開始し、3カ月で700人が参加。その内訳は3分の1が移住希望者、3分の1が佐久市民、3分の1が市役所や「地蔵健診」でつながった地元のキーパーソンといった関係人口です。9月(取材時)時点では1291名まで増えました。
 移住希望者というのは「佐久市希望」に限らず、Slack上で交わされるのは移住全般にまつわる情報です。開始当時は希望者側だったけれど、移住を果たして市民としてアドバイスに回っている人もいます。
 キーパーソンというのは、現地で発信力の高い人、そういう方々とつながりの多い人など。例えば自治会長や、コワーキングスペースのオーナーさん。「地蔵健診」の活動で、人脈を頼れるような人たちと知り合えたのは大きかったです。お告げを監修してくれた医師の坂本昌彦先生は、医療系のアプリや書籍をつくっていたりと発信力の高い方。地元のキーパーソンを紹介してくれたり、ツイートで医療クラスターに広げてくれたり。最初に連絡を取っていった何人の方から、網の目のようにネットワークが広がりました。
 オンライン上での空中戦と、現地での口コミの力を体感し、双方がとても重要だと感じました。

ビジネスチャットSlackを活用した日本初の行政主導オンラインサロン。
移住に関わるさまざまな疑問に、実際にそこに住む人からリアルな声を聞くことができます。

垣波:移住を希望する方は、首都圏に住む方が多いようです。関西圏からもゼロではありません。先日、リモート市役所をさらに盛り上げるべくリモート市役所の“課長”を募集したのですが、任命された方は半年前に佐久市に赤ちゃん連れで移住してきたIT起業家の女性です。佐久市に来たことのなかったような方ですが、リモート市役所がきっかけで移住されました。

早藤:リモートで働くのが一般的になって、どこで仕事をしても同じなら地方にという流れがあるなかで、まず佐久市が検索にひっかかることが大切です。

垣波:コロナ禍ですが、移住に関する相談は多いようです。

早藤:地蔵健診のときからクリエイティブで入っていただいている佐藤ねじさんは、最初は移住に興味がなかったのに、リモート市役所を立ち上げるころには移住希望者になっていました。佐久市も移住先の候補に入っていて、より自分事として「こんな情報がほしい」「これが足りない」とブラッシュアップしていただけました。

公的機関と民間の間をつなぐのは

垣波:庁内で合意形成を図ることが難しかったです。早藤さんとは基本的にリモートでのやり取りでしたから、ニュアンスを理解して庁内向けにうまく伝えるというのが。とくに「リモート市役所」という名前を決定するには時間がかかりましたね。

早藤:民間企業であれば「こうすれば話題になるね」という判断指標で動けるのですが、自治体にそこを理解していただく難しさがありました。「聞いたことがありそうで、ない」名前を初めに使うことに価値があるとご説明して。

垣波:ともすると、「役所への各種申請がオンライン上で完結する」と受け取られかねないということで、それは市民からのクレームにもつながってしまう危惧があったんです。

早藤:そこを何度も何度も、折れずに(笑)。どこの自治体も言えることだけれど、初めに言うことが大切だと。せっかく考えていたのにほかに先に言われちゃったらもったいないですよと説明しました。垣波さんは調整が大変だったろうと思いますが、「話題になるためにやる施策ですよ」と、とにかく気持ちで押し通しました。

垣波:庁内の考え方にも納得できるし、早藤さんの言っていることにも「なるほど!」と思える。双方に話を伝えるうえでもどかしく思うことはありました。

早藤:垣波さんに上長への説明を重ねていただいたからこそ、最後に実際に伺って話したときにご理解いただけたのだと思います。名前決めだけではなく、ホームページのデザインやSlackへの投稿ひとつにしても、3回4回と何度もやり取りをしていただいた。まさに連係プレーだったと思います。

リモート市役所から広がる新たな境地

早藤:リモート市役所のなかでの会話から、また新しい施策が生まれました。実際に移住する前に、試しに1~2週間くらい住んでみたいと思ったときに、気軽に行動に移せるサイト「Shijuly(シジュリー)」です。夏休みに入る7月から運用を始めました。

移住する前に、お試しで1~2週間過ごしてみたい。そんな「試住」に伴う、どこに住めるか、子どもはあずけられるか等々の面倒なこと――
それらを一括サポートしてくれる情報サービスです。サイト内で試住にかかる経費への補助金も申請できます。

試住するとなったとき、例えば、どの地域のどこに泊まるのか、子どもをあずけられる施設はどこか、コワーキングスペースはどこか、ひとつひとつを調べて個人が契約していくのは大変な作業です。リモート市役所でも、こういった試住の質問は多く寄せられていました。全部ひとつにまとまっていたらラクなのにという話が企画会議のなかで出て、サービスを実際につくることになりました。どういう情報やサービスをそこに盛り込めば便利なのか、実際の声を活かしていきました。リモート市役所の裏テーマには、“種を探して形にしていく”ということがあります。

垣波:シティプロモーション基本方針は3か年計画でしたが、また来年第二期に入って施策は継続していきます。オズマピーアールさんのつくった「シルクルスム(知る来る住む)サイクル」という考え方は、市の総合戦略でも使われるようになりました。移住の担当課だけではなく、市役所全体でも移住促進により力を入れていくという機運が生まれています。

text:矢島 史