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大人の様子を観察し
効果的な刺し方を考える子ども

三井住友銀行/Olive「通帳の人」シリーズ

―育ちは地方ですか? 三井住友銀行のCM「通帳の人」シリーズを拝見したときに、ああいう地方の親戚の集まりの経験がないと、あんなふうに描けないんじゃないかと思ったんです。

新潟ですが、2歳からは埼玉です。でも結構小さいときから、大人同士の関わりを見ながら「こう思ってるんじゃないか」とか考えていたんですよね。大人同士が会話をしているとき、子どもは暇じゃないですか。加えて子どもって室内犬みたいな精神性なので中心にはいたい。どうすれば一番興味を引けるかと考えていました。「わあ〜っ!」とかバカみたいに騒いでも持続力がないし、それなら隅のほうでレゴで高い塔とかつくってたほうがいいかなとか。大人ばかりの中でなんとかこっち向いて欲しかった記憶があります。

(笑)

女系家族で、祖母、母とその姉妹、姉がわあわあ話していて、祖父・父・僕の男子たちは静かでしたね(笑)。甥としては可愛がられるのだけど、「あんたそれ絶対女子に言ったらだめだよ」「超ダサいよ」という感じで女性に対するルールを叩き込まれました。

結局、大人たちを見ていたんですよね。さっきのCM「通帳の人」の話に戻ると、「大人はわいわいビールを飲んで楽しそうだな」と歳を重ねることへの憧れを感じていたのかもしれません。
卓を囲んださまざまな人がどんなことを感じて、何を考えているんだろう、「よくわからんがいろいろな違う人がとにかくいるな」という認識――それはもしかしたら、CMづくりにつながっているかも。

―「こう思ってるんじゃないかな」という想像は、もうストーリーですよね。

そうですね、大人が話している間はとにかくやることがないんで。あとは、ずっと鍵っ子でひとりで遊ぶしかなかったんですよね。放課後の15時から19時をどう遊ぶか、と。録っておいた金曜ロードショーのジブリを見たり、レゴをつくったり、絵を描いたり、ひとりで何役もする人形遊びをしたり――。

【演出コンテ:三井住友銀行/Olive「通帳の人」A 60秒】
(クリック/タップで各画像拡大)

―映像に興味を持つようなきっかけはありますか?

映像には中学生の頃から興味がありました。当時『Jam Films』など自由な映像が多くつくられていましたね。CMの監督が映画をつくったりと、入り乱れていておもしろかった。CMでも、15秒30秒の中に文学のようなものがありました。
今でもいいCMを見ると感じるのは、「トイレに行く時間」が「少し贅沢な時間」になる。素敵なメディアだと思います。

―どんなCMが好きですか?

人を描いている豊かなCMが好きです。サントリーのニューオールドは、小さいときは意味がわからなかったけれど、なんかかっこいいなと思っていました。トトロの間のCMで「恋は遠い日の花火ではない」とか、今思うとカオスでしたけど。
つまり、当時のCMって子供からすると「大人になることへのワクワク」があったような気がします。強制視聴メディアを使ってまだお酒が飲めない子供へ、粋な"手紙"がいっぱいあって、それを受け取っていたんだなと思う時があります。今、自分はその手紙的なものをつくれているのか、考えてしまいますね。

データと真逆の"ヒューマン"で行く

―ご自身のブレイクスルーとなった作品はありますか。

ホットペッパービューティー/特別ウェブ動画「春」

2018年の『ホットペッパービューティー』の特別ウェブ動画「春」だと思います。あれは太陽企画ではなく、席を置いているクリエイティブチーム「CEKAI(セカイ)」でもらったお話でした。「好きにつくってみてよ」と。

―では企画からされているんですね。

クリエイティブの方からの提案は「バズ重視」「データから打ち出した短尺もの」という内容でした。僕が入社したころ、業界はずっと"最新技術でバズを狙って"という流れでした。でも自分が好きなのは、福里真一さんがつくるような"ヒューマン"なもので。すごく好きなのはアコムのCMで、カンニング竹山さんがサラリーマン役の作品です。演技が素晴らしくて。福里さんが芸人を役者としてキャスティングすると、みんなものすごい雰囲気を纏ってお話に出てくるんですよ。消費者金融のCMでこんなに素敵なものができるんだ、と。その話をのちに福里さんにしたら「そんな昔の知ってるんですか」とキモがられたんですけど。
「春」は「好きにつくって」と言われる中で本当に自分がいいと思った話をつくったら4分くらいになりました。4分なんて"今を生きる"女子高生には長すぎて観てくれないかもしれない、という怖さもありましたが。いい話だからこれでいこうとリクルートさんが言ってくれて。

―それはすごいですね!

とにかく大きな反響をいただきました。「春」では、自分が卒業系CMに感じていたことの全部裏をやったんです。だって満開の桜が舞っていて、先生を囲んでみんなが泣いて、イエーイ!と写真を撮って――なんて経験……なくないですか?あの世界は広告上の素敵なフェイクだと思っています。オンエア時期はそういうCMが氾濫するから、逆をやろうと。
制作の子に「桜いりますか」と聞かれたんですけどね、食い気味に「いらない」と言いました(笑)。実際の卒業式の後って、サラッとしたものです。あの日の冷たい開放感から滲み出るリアルな人たちを描きたいと、常々思っていたんです。

―若者たちからアンケートをとったわけではなく、泉田さんが思っていたこと。

高校時代から思っていました。ただ、肯定したいのは「美しくなりたい」という気持ちなんです。それは、自分の後悔というか「ごめんなさい」という気持ちが入っています。作中で加藤という男の子がトイレで髪をいじっているのですが、僕はかつてああいうやつバカにしていたんです。「何カッコつけてんだよ(笑)」みたいな。でも今振り返ると、身だしなみを整えることってすごく大事じゃないですか。彼は正しかったんです。僕のほうが寝癖を直しもせず、そんな彼を笑って醜かった。男性も女性も、大人も未成年も「美しくなりたい」という自我をこの映像で肯定したいなと。
このサービスはそんな気持ちの先の「まだここにない未来」を掴むがテーマなので、そういう人たちを肯定するためのシーンを数多く入れました。

黒歴史を掘り起こし
みんなに問いかけている

―目線がすごくフラットですよね。広告的なキラキラではなく、普通の人の目線で描いているから共感される。

そういう声はたくさんいただきました。僕らの前には必ず商品があって、その商品のために全力で考えます。けれど同時に、商品の奴隷になりすぎないように……というのは今も思っていることです。好感度というのは訴求内容だけではなくて、その映像、広告プロジェクトが醸し出す「人格」や「伝えたい美学」だとも思うので。僕は学生時代うまくいかなかったことが多かったので、そういう意味では客観的に広告の中での言葉を考えているかもしれません。

―記憶力すごいですね。

僕は僕の人生の主人公ではあるんですけど、「でもそうじゃないんだ」ということがままある。明らかに辿り着かない「50mを6秒で走る」とか、「有名な大学目指してるやつの学力」とか、「トレセン行くようなやつのボール捌き」とか、追いかけてもどうしようもない。そんな自分の心を落ち着けるためにいろいろ考えたんですよ。人生の駒で言えば、自分はクイーンのようには動けない。できないことへの諦めを持って、できることを探して、なんとか「自分もいる」ことを証明する方法を探したりと、考えなきゃいけないことがたくさんありました(笑)。学生時代の小さい世界でそういうことを感じていましたね。

―まわりの目線も気にする時期だし。

そうそう。いまだに恥ずかしかった経験を思い出して「ハアッ!!」と突っ伏すことがあります。でもその黒歴史が自分の中ではものすごく大事。それが劇団で書いているお話だし、ウエルシア※1でいうあの中学生たちだし、ホットペッパービューティー第二弾の「明日」の主人公だったりする。諦めたり負けたりした悔しい経験は、どんな人を描くにしても大事だと思います。

※1:からだWelcia・くらしWelcia「誰も傷つけたくないスポンジ篇」は2024年度ACC賞フィルム部門Aカテゴリーでゴールドを受賞。

―表現を通してだとしても、そこをさらけだせるのはすごいですね。自分の弱者の部分を込められるのはすごいし、そこがみんなの共感を呼ぶリアルさになっているのかも。

いろいろな方と仕事をして企画を見ていると、つくったその人の想いというか、人生の中での経験がそれぞれ滲み出ている気がします。それは楽しい記憶かもしれないし、悔しい経験かもしれませんよね。そういう企画を見ていると、自分とは違うけど共感できる。いいCMにはそれがある気がしていて、言わなきゃいけないことを害さない程度に少しでも自分の目線は入れたいなというのはありますね。