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第三十一回 広告ロックンローラーズ
ゲスト:一倉 宏

箭内: TCCのホール・オブ・フェイムを受賞されて、展覧会もありましたし(一倉宏のコピー100TEN)、改めてみんなが好きな一倉さんのコピーを語り合ったりする機会がたっぷりありましたけど、今日は過去の話を交えつつ、一倉さんがいまどんなことを感じてらっしゃるとか、世界をどんなふうに見ているかとか、そんなお話を中心に聞けたらと思います。
まずうかがってみたかったのは、コピーライターってやっぱりだれでもなれる仕事じゃないですよね。ある意味では文学だと思うし、音楽だと思うし、文化をつくる仕事じゃないですか。なぜ一倉さんは、詩人が詩を書くように、歌人が歌を詠むようにコピーを書けるのか。

一倉: いきなりに大変、お褒めいただいてですね、そう見ていただけるのはありがたい話なんですけど、詩のようなコピーを書きたいと思ったことは一度もないんです。僕は文学が好きだし、詩が好きだし、音楽も好きですけど、やっぱり広告として有効だと思う範囲での手段にしますから。例えば葛西(薫)さんから、グリーンレーベル(ユナイテッドアローズ)のポスターで、長めの読ませるコピーを書いてほしいって言われたときには、そういう散文詩のような言葉になるだけでね。
今回、ホール・オブ・フェイム受賞の機会に、自分の仕事を振り返ることをして、 改めて思ったのは、これが宿命的な仕事であったかのように、ひたすらずっとやってきた。それに尽きますね。どうしてコピーライターになったのか? ということを考えても、その職業が自分に向いてると直感して、23歳のとき受けたサントリーのコピーライター職に望み通り受かったと。毎年1人採るか、採らないかの特別な職種でしたから、それはすごくラッキーだったんですけど。それも、運命みたいなことかなと。

箭内: もちろん、毎回の課題であったり、マーケットだったりを読まれてるわけですから、それは半分の話でね。先にその聞き方をしたのは申し訳ないとも思うんですけど、 僕、一倉さんのコピーって、接してて疲れないんですよね。ギラギラしてないというか。自分すごいでしょ? みたいな圧がないというか。

一倉: 出自もあるでしょう。広告=セールスプロモーションではないとは思いますが、僕はサントリーに入って、商品を宣伝するための広告をつくる部門の社員だったわけです。で、当時はコピーライターブームというか、若くしてマスコミに露出したようなこともあって、同期の営業からあるとき言われたんですよね。「お前、あんまり天狗になるなよ。でも、お前がいい広告をつくってくれると、 俺たちが100回頭を下げなくちゃいけないところが10回で済む。だから、いい広告をつくってくれ」と。そう言われたときに、 自分のやるべきことはそこなんだって思ったんです。だから僕にとっての“いい広告”というのは、彼らから「やってくれてありがとう」って言われる広告で、そうなるための方法や文体から考える。それをいちばんに置いてきましたからね。
あと、サントリーには開高健さん以来の伝統もありますしね。開高さんはお酒の価値を「感情生活」だとしました。単純に飲んでうまいということでなく、そのひとの感情や生活を描こうとすれば、やはり言葉が重要になる。そこから、サントリーのコピーには「文学の色味」がついていた面もあるんじゃないかな。

箭内: なるほど。でも、僕、一倉さんの過去の発言を読んでいて印象に残ったのは、筑波大学の卒論で万葉集をテーマにされたというエピソードで、ある種それが先入観になってるのかもしれない。OBとして大学のメッセージソングの作詞をされたり、恩返しじゃないんでしょうけど、母校を大切にされてますよね。

一倉: 自分は一期生でね、筑波大学が開学した年に入学したんです。それはとても大きな経験で、みなさんよく「大学ってあまり行かなかったよね」って話をされたりするけど、僕にとっては大学の授業が全部楽しくてしょうがないくらいでした。新しくできた大学だからか、先生もみんなやる気があって、自分にとっての大きなアイデンティティになってます。でも、母校愛が強いというより、広告屋としての発想かな。建学の精神とか、筑波大ってもともとなんだっけ? というところから学生たちに伝えるなら、歌にするのが速くて強いと。そう言えば、箭内さんとも歌が接点になっていて、震災の年に……

箭内: そうです。『I love you & I need you ふくしま』
(猪苗代湖ズ)のミュージックビデオに出演くださって。全国47都道府県出身の方が歌い継いでいく企画なんですけど、一倉さんは群馬人代表で。

一倉: あのビデオをいま見返してみても、本当に素晴らしい作品だなと思う。地方人は地元がちょっと嫌で、都会に憧れて出てきたという負い目がありがちだけど。あそこまでストレートに故郷への愛の告白ができるのは、羨ましいと思った。

箭内: あのとき福島がひとりぼっちのような気がしてましたから。全国の皆さんがああやって歌いかけてくれてるのは、すごくうれしかったし、ほっとしたし、 勇気になりましたね。そう思うと、やっぱり歌も広告も本質のところ、必要な人に思いを渡そうとする行為としては同じじゃないかという気がして。そのあたりどう思われます? 広告のコピーとメッセージソングの作詞では違いがあるのか。