第二十三回 箭内道彦 ✕ 藤井保
箭内: (撮影中に)藤井さん、ご自身が写真を撮られるのっていうのはどうなんですか?
藤井: いや、大…嫌いです。
箭内: 「大…」で止めるところがいいですね(笑)。でも、風景とか人物含めて森羅万象撮ってらっしゃるわけじゃないですか。撮る側と撮られる側はどう違うんでしょう?
藤井: 写真って、こうやって言葉でコミュニケーションするのとは違う種類のキャッチボールですから。相手に対峙することが求められますよね。だから写真家同士だったり、お互いによく知ってる人は難しいんです。なんとなく照れがあるというか。
箭内: 対峙される側に立つのは、また違う?
藤井: うーん、どうなんでしょう?遠慮する部分も出てくるんでしょうね。
箭内: なるほど。
藤井: 写真という表現は孤独な作業ですから。ひとりで風景に向かい合って、そのとき感じたものを見ていくもので、僕はたぶん、人も風景の一部と捉えていて、そこから感じるものを大事にしているんだと思います。
映像の撮影は共同作業ですよね。共同作業でひとつのことをつくっていくのは憧れもあるしリスペクトもしている。例えば、箭内さんは音楽もやってる人ですけど、ああいうふうにセッションというのか、互いの音のコミュニケーションでつくりあげていくのは、僕にはないものではある。
箭内: 自然とのコミュニケーションはどうなんでしょう?藤井さんが撮る風景は、いろんな人が"空気"が写っているというふうに言うわけですけど、やっぱり自然とともに生きてらっしゃるところはあって、それは撮影のスタイルやスケジュールに影響を与えているのでは?
藤井: 自然を相手にするのは、面白いけど大変ですね。このあいだも伊豆大島に行く予定だったのが台風が来まして、今日のインタビューも最初のスケジュールから変えていただいたり。
ただ、太陽も雨も、自然界の中ではすべて必要なものじゃないですか。風もそうですよね?その中で自分がどうやって表現をしていくかというところは、つねに考えるところではあるんです。
ロケーションでも一番いいのは、まず朝早く日の出の時間に立つ。そのあと太陽が出てしばらく安定したら、宿に戻って朝ごはんを食べてちょっと休憩する。で、午後準備してまた夕方の撮影に合わせて再出発するーーそんなスケジュールが理想ですね。
箭内: やっぱり朝と夕方ですか。
藤井: うん、そこがドラマチックです。昼は12時を中心にした安定した時間だから。でも、朝と夕方は刻々と変わる面白さがあるね。
箭内: この世界ではマジックタイムなんて言われてますけれど、やっぱりそういうことなんですね。
そう言えば、この前、満島ひかりさんとお話したときに、たまたま藤井さんと葛西薫さんの話になったんですけど、藤井さんのことを友だちみたいに話題に出してたんです。写真撮ってもらうときに「そうじゃないですよ」みたいなことも藤井さんなら言える、なんて。僕ら"藤井保"と言えば、広告写真の神様みたいに思っているから、その距離の近さにすごく驚いたんですけど。
藤井: あの人は表現者なんでしょうね。撮影はこのあいだ奄美で一回だけですけど、女優としての表現を極めたい人だと思いました。だから本当に納得しないとダメだったんだろうと。最後はうまくいったんですけど、時間がなくてちょっと大変だった。まあ、僕から言うとわがままな人だけど、こっちだってわがままですから(笑)。