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カチンコ勝負

一般社団法人日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)との共同企画!
プロダクションの精鋭による制作現場レポートです。

今号は、2018年「ベストリマーカブル・ディレクター・オブ・ザ・イヤー」に輝いた太陽企画の池田萌さんに、ディレクターになるまでの経緯や仕事をしていて感じることなどお話しいただきました。

人間臭いって最高だ!

 学生時代はデザインを学んでいましたが、授業でつくった短編のアニメ作品が映画祭に入選したことをきっかけに、実写映像やその制作スタッフに触れ合う機会がありました。その際私は単身で乗り込んでいましたが、実写組はみんな大勢のチームで来ていました。制作陣の熱量を間近で感じ、予算がなくても脚本でおもしろくしている作品や、役者のキャラクターがいきている作品など多種多様の見せ方に圧倒されて、実写映像の制作に興味を持ちました。その後就職活動をする中で、太陽企画になんとか拾ってもらい、今があります。就職面接は心底緊張していたけど面白かった記憶があります。

 昔から私にとって”笑い”は大事な要素です。それも、笑うはずのない場所にこそ私の好きな笑いがあります。例えば、最近実体験したのは身近な人のお葬式です。骨壷にお骨を入れているときに、それまで口数の少なかった親戚のおじいさんが「自分は体の中に金属を4箇所入れているけど焼けた後に残るのか」ということを熱心に葬儀屋の係の人に聞き始めました。骨と化した故人を目の前に質問攻めをするその様子が、真剣になればなるほどだんだんおかしくなってきてしまい、同時に妙に神秘的な気持ちにもなりました。見た目も話している内容も、老人なのにまるで子どものようでした。例えばもし自分に急に死が迫っても、友達に借りてた漫画を返さなきゃ!なんてどうでもいいことを考えてしまいそうだなといつも思うんです。この緊張と緩和の絶妙なバランスが、憎たらしくもあり、愛おしく、なによりリアルで人間臭くて好きなんです。こっぱずかしい話ですが、昔友達とネタ帳をつくって遊んでいて。今それを思い出しても、そのあたりのツボは変わっていないんですよね。これが日常生活の中で私が大切にしたい瞬間であり、映像上で表現してみたいところでもあります。

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KDDI ケーブルプラスCM 「無料通話」篇

渋いおじいさんが撮りたくて

リマーカブル・ディレクター・オブザイヤー「2人の男」

 賞を獲って一番良かったのは、自分の好きな世界観を周囲の人にわかってもらいやすくなったこと。それまでは女性ディレクターだからか、可愛い路線が好きだと思われがちでした。実際は「2人の男」で表現したようなシニカルな笑いや、ドラマチックな画づくりが好みなので、周りの認識とギャップを感じましたね(笑)。またプロデューサーからは、グランプリを獲ったことで様々な人に紹介しやすくなったと言われます。

 お題は「自由」。私の場合本当に心底自由だ!という精神状態になると、少し虚しさが伴ってくるというか…、すごく大げさにいうと生き方が難しくなってくるような感覚がありました。ひねくれた考えですが、「自由って必ずしも良いものではないかも」という視点からシナリオを考え始めました。

 また、「2人の男」という作品ができた経緯のひとつに「自由なおじいさんを撮りたい」という個人的な希望もありました。私は子どもの頃から生粋のおじいちゃんっ子で、自分の全ての核になっている九州の祖父が人物像のベースにあります。”好奇心旺盛で心は少年のままだけど、残り長くはない自分の人生をどこかで理解しているような老人”を描きたい夢がありました。
 小林勝也さんの出演が決まったと聞いた時には、まずキャスティングの方が大興奮していましたが、本当にイメージにぴったりでした。若者役の松浦慎太郎さんの真面目さも描きたい若者像の人格にピッタリはまりました。

働いていて、思うこと

 自分だけの意見でモノをつくるよりも、人の意見が入ってくるほうが好きです。自分にはない発想が入ってきて、コンテから微妙に変わっていくのがおもしろい。
 現場には「こんな映像に」というイメージを持って入りますが、それ以上のことが起こると本当に興奮します。この辺りの考え方は、実はここ数年での変化です!以前はもうちょっと頑固でした。(笑)
 ディレクターとして現場でコミュニケーションをはかることは強く心掛けています。本来は結構な恥ずかしがりのため、強く思っていないとすぐに戻ってしまいますので…。また、コンテの説明はなるべく書き込むようにしています。師匠である弊社の原武美和子さんは設定を細かく書く人で、時間帯や人物像など、細かい裏設定がとても丁寧です。細やかなこだわりと気配りの積み重ねで映像に奥行きが出るのを目の当たりにし、私も真似をしています。それに、コンテに書いてあれば自分がうっかり言い忘れてしまってもスタッフが気にしてくださるので、伝え漏れ防止の役割も兼ねていますね。ささいな瞬間を見逃さず、丁寧に人を描いた作品をつくっていきたいです。

いち髪 アニメWEB CM 2タイプ
大館市/大館指南 BY秋田犬
手に持っているのは合掌土偶。
表情がたまらない。

池田萌(いけだもえ)

太陽企画
ディレクター

1991年 東京生まれ
2014年 太陽企画入社
2018年 JAC AWARD「リマーカブル・ディレクター・オブ・ザ・イヤー」受賞