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カチンコ勝負

一般社団法人日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)との共同企画!プロダクションの精鋭による制作現場のお話です。今号は、2018年「ベストリマーカブル・オブ・ザ・イヤー」のプロダクションマネージャー部門に輝いた、東北新社の依光杏奈さんにインタビュー。

つくる現場で、なんとかなってる。

 子どものころからずっとCMの仕事がしたい、と思っていたわけではありません。大学では量子力学や分子構造の計算、生物の解剖などをしていました。大学を出てどういう道に進もうかなーと考えた時に、「勉強は十分したからもういいや」と、資格の勉強などがいらない業界にしようと思いました。働くなら、昔から好きだったCMの世界が華やかそうでいいなと。ちょうど父の知人に制作会社の人がいたため話が聞けて、広告会社よりも“つくる現場”での仕事に興味を持ちました。制作の現場は大変だろうけど、飛び込んでみるしかない!と思いました。
 そして実際に飛び込んでみると……やっぱりなんとかはなっています。
 過酷と言えば過酷ですが、今のところ踏ん張れています。1年目は働き方改革が及んでいなかったのでまあ大変でしたが、2年目からは会社のルールも変わりプライベートとの両立がある程度できるようになりました。とはいえ後輩と仕事をしていると、“働き方改革”を複雑に思うこともあります。とくに新人には時間制限が厳しいので、撮影の途中で帰ってもらわなくてはならないことも。するとやっぱり、育つ速度も遅くなってしまうわけです。働き方って難しいものですね。
 私は今4年目ですが、2年目の中盤くらいからメイン制作として自分でスケジュールを調整できるようになり、激務と閑散期の波の中でここまで来ることができました。忙しい時は「こんなにやることがいっぱいあって、もう辞めたい」と思うし、完パケた後はホッとするのと達成感で満ち足りる。自分の関わったCMをテレビで見ると嬉しいし、最近では自分が携わった作品がツイッターでバズって、友人にリツイートされているのを見て、感慨深く思いました。

PMの仕事はてんこもり!

 PMの仕事をしていて「これは大変」と思うのは、連絡系統がやたらと多いことです。
PMは、多い時には100人にもなるスタッフさんに監督の意図を伝える司令塔の役割も持っています。一見シンプルに見えるワンシチュエーションのCMでも、関わっているスタッフさんは大勢いて、それぞれに対して違うメールを作成していたりすると意外と時間を費やします。ほかにも、予算をみたり、資料を集めたり、弁当を発注して、後輩を指導して…と、とにかくやることの多い仕事だと実感します。
 以前とある携帯端末の制作を担当した際、急遽、撮影の5日前から私一人でロスへ行かなくてはいけないことがありました。幸い二度ほど旅行したことのある場所で土地勘はあったのですが、日中はロケハンして、夜は日本とやり取りをして「私いつ寝るの!」と、とにかく時間がなく心細さも相まって泣きそうに。14シチュエーションを別班含めて2日間で撮りきるというハードなスケジュールだったり、現地スタッフとひとつの大机で仕事をしてコンセントを奪い合い、文化の違いを感じたりと印象に残る大変な仕事でした。滞在した民泊のタオルが犬の毛だらけだったのも今となればいい思い出です。
それでもこの体験で、海外案件へのハードルが大きく下がりました。入社したての頃はただ“海外”というだけで大変そうというイメージだったのですが、やりがいはあるしスタッフとのチーム感も強まるので、今では海外での仕事をもっとやってみたいくらいです。

「さけるグミ」でベストリマーカブル受賞!

 PMがこの賞に応募するには、まずA4の紙3枚のPR文を書かなくてはいけません。私は「さけるグミ」での仕事について書くことにしたのですが、あまりに文章が苦手でどんなにがんばっても図を含めて1.5枚を書くのがやっとでした。上司の上家(浩司)さんには「絵日記やな」と言われましたが、驚くことに通過。
 二次審査はムービーで自分をPRするのですが、どうせ映像をつくるなら面白いと感じてもらえるものにしようと思い撮りました。また、クリエイティブディレクターの井村光明さんとディレクターの佐藤渉さんが依光のためならと快くコメント出演を引き受けてくださり、コメント出演してくださいました。出演してくださった2人へ恩返しできたことも含め、ベストリマーカブルをいただけて本当に嬉しかったです。

味覚糖 さけるグミ
さけるグミvs なが~いさけるグミシリーズ
味覚糖 さけるグミ
屋台のおじさんシリーズ

 さけるグミの制作には、小澤征悦さん出演の「長い男」から入りました。最初は大御所ぞろいのところに飛び込んだので緊張しましたが、当時2年目であることをフル活用して「教えてください!」と臨みました。今はシリーズものとして一つの作品に関わり続けられる喜びを感じています。短いスパンで手掛ける作品が変わるCMの世界で、長い期間同じスタッフでいられて仲が深まるのが嬉しい。
 とくにこのチームでは、井村さんがいろんな人から意見を聞いてつくりあげるので、自分もアイデアを言いやすい環境です。「さけるグミvsながーいさけるグミ」プロポーズ篇のフラッシュモブは、私の発言から実現したものです。「どんなプロポーズをされたい?」と聞かれて、「わかんないけどフラッシュモブだけはいやです」と言ったら採用されました。結果、フラッシュモブのために60人集めなくてはならず自分の首を絞めたのですが……。
 今やっているリリー・フランキーさんの「バレンタイン×仏滅=」に出てくるハートのグミのアイデアや、割いて編み込んだ小道具は私がつくりました。話のネタになればいいなと思い「こんなのつくってみました」と言ったのが採用されて、コンテにも反映されたり、実際の小物として自分で制作したり。若者言葉の相談もされて、何もわからないながらも年齢的に役立てることもあるんだなあと思っています。クリエイティブな部分で貢献ができると、自信になるしモチベーションになります。

先のことはわからないけれど

 このまま経験を重ね、いずれはプロデューサーに……という気持ちは今のところあまりありません。先のことすぎて、よくわからないというのが正直な感想です。昔から先のことを考えるタイプではないこともありますが、あんまり強く未来を思うとかえって折れそうで。
 また上司でありプロデューサーの上家さんを見ていると、本当に自分がこうなれるんだろうかと感じます。人に対しての伝え方、言い方がすごく上手で「なるほどな~!」と学ぶことがたくさんあります。難しいお金の交渉も、言い方ひとつでスムーズに運ぶ。難しい案件でも、可能性が少しでもあれば元気にイエスを言っている上家さんを見ていると、そういうところで「あの人に任せたい」が増えていくのかなと感じました。プロデューサーによってタイプはいろいろですが、よく観察して学びたいと思っています。そんなわけで人の電話も、よく盗み聞きしています。
 結果としてプロデューサーになるかはまだわかりませんが、仕事をしていくうえで、自分の判断で作品が変わっていくことを喜びとできたらと思っています。

<Recent Works>

日清食品 ご褒美ラ王「天使の兄妹」篇
UHA 味覚糖 e-ma のど飴 喋る毎日シリーズ
大塚製薬 ULOS「夏は冷やして」篇

依光杏奈(よりみつあんな)

1993年 千葉県生まれ。
2016年 上智大学理工学部物質生命理工学科 卒業
2016年 東北新社 入社
2018年 JAC AWARD「リマーカブル・プロダクションマネージャー・オブ・ザ・イヤー」受賞

text:矢島 史