心が繋がるかかどうかの実験
―『グとハナ』にはそもそも、メディアとして参加されてたんですか?
元々は、パチンコの新台の回転が速くて、液晶の中古が大量に出るんですよ。それを組み替えてタクシーのメディアにしたいっていう方が北海道にいて、それ面白いねって。ネット社会になってから無理やり見せるメディアがあんまりないなと。そこに参加して出資したんだけど、民事再生で飛んじゃいました(笑)次に日本タクシー広告という、タクシーにパンフレット入れている会社に買われて、タクシーちゃんねるに買われて、またタクシーアドに名前が変わった日本タクシー広告…という流れです。運営には絡んでなくて、可哀想だからと3分の枠をもらっている状態。
―それは実験だったんですよね。
新しいメディアなので。
いま、WEBの出現で表現や発信の世界が大きく変わりました。こんな表現、こんなマーケティングが絶対だというのが見つかっていない。右往左往している。日本のバイラルって、なんだか胡散臭いし(笑)、本当に口コミなの?お金出してるんでしょ?とか。このタクシーメディアは、どこにも繋がってないんですよ。タクシーの中だけで、WEBにも繋がってない。ツイッターに上がるの? ブログに上がるの? そこからどうやって広がるの?――足跡がない。通常あり得ないはずなのに、あるということは、そこに何らかの関係性があることがわかる。ネットで追っていけるのとは違う理由で追っていけますよね。今の世の中、繋げよう繋げようと必死になっているのに、俺たちは繋げない、繋がらないぞっていうメディアで。非常にいい実験材料になる。
―繋がり方の実験であると同時にコンテンツの実験でもあるということですか?
そうですね。普通ならユーチューブとかニコ動で流して、そこから先はユーチューブが広げてくれたり、トピックスに上げてくれたり。僕らから手が離れる。でも、あれは心の導線でいうとニュースが外観だけで繋がっているだけで、心は繋がってない。若い時、先輩に言われたんですよ。「CMの表現は理屈を分からせるんじゃない、心が動くものを作るんだ」って。それがずっと頭にあるんだと思います。
目的が無さそうに見える広告こそが一番のコマーシャル手法だと思っています。繋がるっていうのは、友達承認するとか、「いいね」押されたとか、そういう話ではなくて、心が繋がったかどうかが大事。広告が好きな人なんて世の中いませんよね、ほとんどの人が嫌い。CMなんか飛ばして見たいし、そういう機能もある。広告だとバレた瞬間、モチベーションがドンっと下がるんです。それを広告だと表示して、社名を出さなきゃいけないなんてバカバカしいと思いませんか?それともどんどんバカになってるのかな、明らかな広告とわかるのに騙される人がいるってことだから。
―ただ話題だからクリックしてみよう、とか。
心が感じてないんでしょうね。映画に1800円出す時に、失敗したくないから「みんながいいというものはいいだろう」という間違った幻想を抱く。みんながいいというものに、いいものがあるはずがない。みんなは自分じゃないから。
賞は権威主義たれ
“いいものは賞を獲る”なんて幻想。賞を獲らなくてもいいものはたくさんありますし、賞を獲ってもよくないものもいっぱいあります。その時の傾向と対策で獲るんですよ。映画だとカンヌで獲れるものとベルリンで獲れるものは違いますしね。桃井かおりさんがそうですね、ベルリンで賞を獲られるのに、足繁く通って研究されてましたもんね。だからヴェネツィアにもカンヌにも行かない。ベルリンに狙いを定めて、傾向と対策をしっかりやられた。(※1)
そもそも、外人に褒められて嬉しい?っていうのはいつも思っていました。自分が外人なので(笑)。何のコンプレックスなんですか、と。日本のACCになぜ世界的ニュースにならないのか。ACCにはバンバン金を使って、完璧な権威主義になってほしいですね。広告賞とったら賞金が5億とか(笑)。そしたら世界からガンガン来ますよ。極端な話ですけど、それくらいの権威を持って欲しいと思いますね。クールJAPANをそっちに使えよって(再笑)。日本の技術ってすごいでしょ。たぶんテーマ性が弱いので、世界で通用しない。だって困ってるって自覚してる人がいないんですもん。
―そうなんですよ。カンヌとかのグランプリや金賞って、戦争やってる地域の問題を解決しようとか…。日本人には作れない。
人種問題とかね。でもそんなことないんですよ。日本の広告の表現って、問題を回りくどく言ってるだけでしょ。シンプルな問題をみんなで寄って集って難しくしているだけ。これ安くなりましたって言えばいいのに、遠まわしに安くなっているんですってやるから、すっげぇ、つまんない。
いろんな思想や哲学があると思うんですけど、安くなることで得する人と損する人がいることを表せば賞を獲れるのに。要するに思想と哲学が無いと思う。テーマは日本にもありますよね。一番重要なのは、原発の問題をやればバッチリです。放射能、沖縄、北海道、イルカ、鯨、もっと言うと、貧困は社会的にヤバイ数字ですよね。うろ覚えですが、3人に1人ですか、5人に1人ですか。そういうテーマ性で、広告できますからね。
ACCに話を戻すと、夢があるということは、それを獲りたいと思うってことですよね。本気で獲りたいと思うのは、ビジネスに何らかの影響があるからで。カンヌを獲りたいというのも世界で活躍できるのではっていうやましい気持ちがないと。それで「それってすごいお金がないと無理だよ」っていうのにも賞をあげるべきで。
―去年のACCフィルムグランプリがサントリーのペプシNEX ZEROで『桃太郎』。あれは噂では、相当高額な制作費をかけて作ったものなんですけど。その反動があるのかもしれませんが、今年は、東海テレビの企業広告なんです。自社制作で、電通中部さんと東海テレビのコラボで戦争を考えるという。(※2)
見ました、女性記者が取材してるもの。批判も含めいろんな意見があった作品ですよね。でも「炎上上等」ですからね(笑)。だけど、さっき言ったテーマ性の持ち方がね。炎上は良いと思うんだけど、「他人事じゃん」ってスタンスが出過ぎた。でもボランティアでもそうですが、やらないよりマシということで考えると、まったくマシなんです。
結局「賞って業界の行政でしょ」って言われているところを、「違う」と言いたいですよね。
―実際、この作品は審査会でも明らかに違う視点で選ばれた。もしかしたら、これが「こういうのも有りなんだ」という気づきになって、次のメッセージ性のあるコミュニケーションの提案になり、それを採用するクライアントがいて、という流れになるかもしれません。
これからどんどん深く掘っていってほしいですね。政府広報みたいな路線ではなく。社会の偽善っぽさっていう善が、15年くらい経つとひっくり返るかもしれないですね。