パワポ30枚より
ノート5ページの「やった感」
―ノート、たくさん持ってきていただけて!
高校時代に書いた漫才のネタ帳から、今も使っているものも。これでも一部です。芸人時代は鳴かず飛ばずで終わりましたが、当時は売れっ子になるぞと思ってやっていました。授業中に書いて、友だちに回覧してコメントをもらったり。実際にやるときは頭の中で変わっていくので、清書は頭の中なのですが、このノートに書いたものをたたき台にしていました。
今でも、手書きで企画を書き連ねるのが好きなので、基本は手書きです。パソコンはほぼ使わず、コピーもメモも企画の整理もこの紙の上で。ノートと心中しているタイプです。
―アナログのノートを使う理由ってなんですか?
やった感があるから。僕、中3で日本に帰ってきたとき、アメリカでやっていなかった社会と理科のテストが0点だったんですよ。母は「とにかくノートに問題集の答えを書きまくれ」「頭はよくならないかもしれないけど、やった感は出る」「やった感が出れば嬉しくなって結果につながる」と教えてくれました。その通りにしたら、書けば書くほどやったことが手に取れる満足感があるし、成績も上がったんです。そこから、僕は「やった感」をとても大事にしています。積み上がっていくことが嬉しいし、鉛筆で手の側面が黒くなるのも嬉しい。パソコンでパワポ30枚書く喜びもありますが、それよりノート5ページ分書いた方が嬉しいと感じます。
―わかる気がします。僕もそのタイプだ。
ただ、ノートに書いた情報は検索できないのがネックなんですよね。どこに何を書いたかわからないので、アイデアがどこかに行ってしまう。
ドイツにいたときのECDにそのことを話したら、「いいアイデアは覚えているものだから、忘れたということは忘れてもいいアイデアだ」と言われて、それもそうだと最近ではわりきっているんですけどね。たしかに、いいアイデアは覚えている。
―ノート自体にこだわりはありますか?
全然ないんです、これもコンビニでパッと買ったもの。まっすぐ開きたいのでリングノートというくらいですね。飽き性なので、小さいノートの次は大きいものというように同じものを使い続けない。ただのコピー用紙に書き連ねることも。
手書き人間なので、企画書のたたきもまだ紙に書いているんですよ。白紙に自分の手で台割を書いていかないと、うまくいかない。企画の整理も紙に書いてやっています。企画のためのリサーチも、一回紙に落とし込んでインプットします。
付箋を使うことも時々ありますが、付箋って高いからちょっともったいない。紙LOVEですね。
―いやあ、きれいに書いてる。いっこ聞きたいんですけど、部屋きれいですよね?
部屋はきれいですね。ミニマリストではないんですけど、デスクの上に何も置きたくない。
掃除も好きで、掃除機で吸ったあとガポッと開けてゴミを捨てる瞬間が醍醐味なんですよ。「やった感」が。
―(笑)やった感がここにも!ご自身のポートフォリオもとてもきれいにまとめてますよね。
プロフィールシートの作成には時間をかけました。あれはやった感の塊なので。1枚ですべてを説明できるように、プロフィールとアワードと、各企画を1行でまとめて。日本で伝わるもの、海外で伝わるものは事例が違うので、英語版は事例も変えています。
自分に自信がないから、やった感を可視化しないと不安なんですよ。生きている価値があるだろうか、お給料をもらっていいのだろうかと考えてしまう。やった感を可視化して積み上げたいんです。
自分のインサイトから
ソーシャルを考える
―企画は文字で考えることが多いですか。
文字です。もっというと、タイトルで考えることが多いです。アイデアを強制的に出すために、例えば「飲み物ゲーム」などつければ何らかのゲームを考えるしかない。強制的に箱を絞って考えることが多いです。とくにアワードに向けてアイデアを考えるようなときにはこの方法が多い。
それから、日常で思っていることから入る、企画を考えるときの王道をいくときもあります。
例えばコンビニで「ポイントカードありますか」と聞かれたときに、ない場合自分のポイントはどこへ行くんだろうと思った。そういうことから、「それを寄付に回せないか」という企画を考えたり。
―自分のインサイトから入る。ほかにも思考法はありますか?
頭の中でストックしていた考え方を、企画フレームだけ同じ、考え方だけ同じにして商材を変えたり、ずらしてみる。あとはリリースの見出しを先につくってみたり。「世界初、〇〇」とか。強制的に生み出すことは多いです。
―日常の違和感からアイデアを出すことは、培ってきたお笑いの考え方と似ているのでしょうか。
すごく似ていると思います。先生の話し方おもしろいというレベルから始まって、日常のおもしろいことをストックしていく。このノートには、ここに……「体中の足という足が」「いやそれ両足ね」ってメモがあって。何がおもしろいのかわかんないですけど(笑)、「体中の〇という〇が」という言い回しがおもしろいと思ったんですよね。そういう言い回しなどをストックする癖があります。インサイトも同じですよね、きっと。僕はアイデアベースというより、インサイトベースでストックします。そのストックしたものがネタになったり、企画になったりという点でお笑いと似ている。
―ソーシャルな課題と、自分一人のインサイトをどう結び付けていますか。
世のソーシャルな話題は人の良心に訴えかけるものが多い気がします。本当はプラスチックのストローを使いたいけど、いい子ちゃんでいないといけないから紙ので我慢、のような。僕は、プラスチックのストローを使っていても問題が解決するのが理想だと思うんですよ。みんなそうしたいと思っていることで、世の中も変わればいい。
さっき話した「自分のもらわないポイントを寄付」というアイデアも同じ。負荷をかけずいいことができる、というのが、ソーシャルの鍵だと思っているんです。
なので、個人レベルのインサイトを大事に、課題解決をしたい。僕はまだうまく企画にできていないのですが、理想はそうです。
もともとプロモーション職だったこともあって、「人の心を動かす」ではなく「人を動かす」が最高の尺度。本当にやるか、本当にイベントに行くか、本当に買うか。だからこそ、良心に訴えかけちゃうと人は本当にやらないだろうな、と思う。「確かにそれならやる」と自分が確信を持てるかどうかが、絶対的な企画の判断軸となっています。
これまで何度も、最高の企画だと思ったのに人が動かないという経験をしてきましたし。