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シンクロニシティの起こるマッシュアップに辿り着くまで

―マッシュアップすごいですよね。どう実現させているんですか?

DJ技術と広告技術のマッシュアップです(笑)。以前に作曲家の方から「これはもう作曲ですよね」と言っていただいたことがあるのですが、フレーズやハーモニーやリズムを接いで、新たな組み合わせを生み出すというのは、作曲行為とも似ています。また広告という枠があることで成立している部分も大きいです、マッシュアップは元々はブート(海賊盤)の文化ですから。公式マッシュアップを実現できていること自体が、広告という枠の存在のおかげかと。

―いろいろな難しさがあると思うんですけど、その曲を出したアーティストに交渉もされているんですよね?

相鉄・東急直通線開業記念ムービー「父と娘の風景」

そうです。アーティストサイドの承認まで達して、はじめて音楽企画なので。ひとさまの曲を使わせてもらう時、そんな使い方しちゃダメ、と言われればそれまでですから。例えば、相鉄ホールディングス『父と娘の風景』(PUNPEE”タイムマシーンにのって”×ハナレグミ”家族の風景”)でも、楽曲利用の承諾に至るまで、沢山の組み合わせを検討しました。
企画との成立や親和性を軸に選曲を進めていって、広告的にも価値ある取り組みかどうか、組み合わせることによって音楽的な価値があるか、ケミストリーは発生しているか、などと考えながら組み合わせを突き詰めていって掘り当てます。アーティスト同士のバックボーンやお互いの関係値などは、事前には知り得ないことも多いですが、そこは楽曲から発している波長や漂う香りのようなものに鼻を利かせていきます、最終的にはその音楽企画案をアーティストサイドに考えた企画を当ててみるしかないのですが、そこではじめて実は両曲にはこんな関係値があったとか、ここではちょっと言えない事実が発覚したりとか、果ては想定外のシンクロニシティが起こったりさえします、偶然なのですが両曲に「ハイライト」という歌詞が別々の意味で入っていることに気づいたときはとても驚きました。
シンクロニシティはさすがに意図的に起こせるものではないですが、組み合わせの妙やケミストリーをうまく図れると、普段は広告の仕事をしない方が、「これならやってもいい」と言ってくださったこともありました。アイデアをもって、アーティストのみなさんと作品力や表現、という点でフォーカスをそろえられるかどうか、ということが実現させるために大事なことだと思っています。

―すごい発明です。企業やブランドとしては、過去の文脈と今の人たちをつなげたいという思いがありますから、お仕事ご一緒したいと思いますよ。

ありがとうございます。サントリー「ほろよい」のCMの、”水星×今夜はブギー・バック”の時にSNSでみつけたコメントで、“お父さんも娘も歌える”、というのが嬉しかったです。しかしマッシュアップが乱立していいのか、というのもちょっとあって。マッシュアップは変化球的な手法でもあると思うので、少し複雑なところもあります。
ただ一方で、マッシュアップは元をたどればサンプリング、ヒップホップの文脈ですが、過去の作品の引用という点では、それこそ作曲的でもあるし、歴史的にみてオーセンティックな手法であるとも思います。和歌の世界にも「本歌取り」という文化があります。過去の有名な歌の上の句を使って、下の句をオリジナルにするんですよね。それも言うなればマッシュアップです。

広告の世界で得たもの、思うこと

―キャリアのはじめの頃と今とで、意識の変化はありますか?

旅と、DJと、タワーレコードで得たセンス一発だけ、の若輩者が、広告業界のトップクリエイターたちの精神に触れてきて、みなさんにここまで引き上げていただいたという気持ちで、感謝ばかりです。ここ最近は、ものづくりを通して、人の心に触れることに幸福を感じます。同時に経営者でもあるので、利益を出すことや納品の責務がありますけど、それよりも、人の心に触れられる喜び、を第一義的目標と考えるようになりました。

―初期はそのあたり曖昧でしたか。

触れられたらラッキーだけど、一体どうやったらそれ狙ってできるのだろうという感じ。業界に入って長らく、菅野よう子さんの仕事を間近で見てきましたが、菅野さんはつくりあげる音楽を通して毎回のように、監督、クリエイティブ、クライアント、歌い手、現場のスタッフ、みんなの心に触れる。これが天才かと。それを毎回成し得ていることが本当にすごくて。僕は菅野さんのような偉大な音楽家では全くありませんが、その経験があるので、どうにか自分にできるやり方で、心に触れる仕事ができないか、とチャレンジを続けているのかもしれません。

―では、これからやってみたいことは何ですか。

なんですかね。映画、アニメ、あとは和竿づくり(笑)。
ものづくりで、心と触れあうことができるのなら、なんでもチャレンジしてみたいです。
それでもCMはやっぱり本当におもしろいです。広告業界はクリエイティブとクオリティにとてもシビアですよね。本気でつくったものに対しても、ものすごくやんわりと遠回しながらも、冷酷に「ダメ」「違う」と言われて、鍛えてもらえますから。数字の結果だけではなくて、何が違うのか教示を受けながらものをつくっていける、ある種の育成システムでもあるようで、音楽業界でそのシステムをうらやましがる人もいますよ。いい大人になっても叱ってくれる人がいるのはありがたいことです。

心に触れる作品とは

日本マクドナルド「ティロリミックス」

笑えるCM、泣けるCM、元気になるCM、いろいろあるとは思うんですけど、例えばうちの小学6年生の息子とCMのことを話してみると、たとえば相鉄ホールディングスの「父の娘の風景」は、自分にとっては、家族とかノスタルジーとか、いろいろな思いが折り重なってぐっとくるのですが、息子はなにこれ?という感じ。一方で日本マクドナルド「ティロリミックス」などは、「おもしろい」「パパがやってるのかっこいいの多いよね」なんて言ってくれて。リズムがはっきりとしたCMはつい楽しくて見てしまうが、静かなものは速攻飛ばす、だそうです(笑)。
だったら泣けるものより、アドレナリンが出るようなテンション上がるものの方がいいのかなあ、とか考えながら、いずれにしても触れた人が少しでも元気になるもの、一ミリでも体が軽く感じるようなものをつくれたら、取り組む価値がある、だれかの役に立てると感じるんです。

―『父と娘の風景』も僕は元気になりますよ。小6はまだ人生の経験がね(笑)

そう言ってもらえるとうれしいです。ノスタルジーだけじゃだめなのかなぁ、と思っていたところなので。
会社のwebサイトに、みなさんが日常の中で使えるようなプレイリストを置いています。自分の生業でもある選曲の価値ってなんだろう、と考えた時に、好みとか雰囲気とかではなく“使える”プレイリストがあればいいのに、と思って。「vitamin piano」は快活な朝のために、軽快なピアノ曲を60以上。「family jazz」は家族や友だちとのだんらん用、会話の邪魔にならないようインスト曲を中心に100以上置いています。ほかにもいくつかカテゴリーが。選曲家を名乗る以上、しっかり実用性を考え込んでつくりました。どなたでも聴けるようになっているので、もしよかったらご利用ください。

―聴きながら仕事したいな。これ、小学校のときにテープをつくっていたみたいな感じで?

そうなんですよね、思いを込めて選曲する、ただそれだけなんですが。選曲は飽きずに続けられます。なんでですかね、そういう役回りなのかなぁ。

―人を踊らせたい。それも心を動かすということだと思うんですけど。

踊るってとても重要で。今かかっているジャズはダンスミュージックではないけれど、グルーヴがあるから踊れる。クラシックやバレエの音楽も、音に合わせて体を動かすことができます。指揮者のように、踊ることで音楽と心と体がつながるような感覚になったとき、束の間、重力から解放されるように体が軽くなるんですよね。プレイリストにも、踊れて、なおかつ1%の発見のあるものをそろえています。

―近頃、音楽の力の重要性を痛感しているところだったのでとても刺激をいただきました。
楽しいお話をありがとうございました!

text:矢島 史  photo:村上 拓也

冨永 恵介(とみなが けいすけ)
選曲家/音楽プロデューサー
横浜市出身。日大芸術学部写真学科卒業後、タワーレコード勤務を経て、GRANDFUNK入社、2012年piano inc.設立。
これまでに数多くのCMをはじめ、映画、アニメ等の音楽制作に従事。音楽、旅、作詞作曲、DJ経験に、広告スキルを加えて、独自に編み出したMixtureメソッドで音楽プロデュース活動を展開。ADFEST 2024では "Production Company of theYear"に選出される。 代表作に、相鉄直通記念ムービー楽曲"ばらの花✕ネイティブダンサー"、"タイムマシーンにのって/家族の風景"、SUNTORYほろよい"水星✕今夜はブギーバックnicevocal"、ユーリ!!! on ICE、来る、残響のテロル、他。