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これは中京テレビ「4と鳴く犬」。10年前にバズった動画の飼い主さんと撮影者を探し出して、許可をいただき、編集しなおしてCMにしました。

―企画へのジャンプがすごいですね。最初に「自分は論理的な人間」とおっしゃっていましたけど。

すべてに理由があるので、プレゼンでもロジカルに説明しています。アース製薬 モンダミン「片手を使用中の方に使っていただきました」篇も、ロジカルです。私は商品パッケージをよく見るんです。結構、そこにヒントがあることが多い。「片手でラクラク、かざすだけ」と書いてあったので、このいいファクトを一番体感してくれそうな人に使ってもらう。「もう、この表現しかありません」くらいのプレゼンでした。
そしてゴー☆ジャスさんは片手がふさがっているだけでなく、Xで熱狂的に人気のある方なんです。地球儀を持っていて「アース」製薬さんですし。

―うわー!すごい。コウメ太夫さんも起用されていますよね。ほかのCMでもよく出てきませんか?

コウメ太夫さんは無限の可能性のある方なので。コウメさんなら無限に企画が書けます。

息をするようにX、流しっぱなしのテレビ、小説。
生活者視点を得るために

―何か心がけているインプットはありますか。

息をするようにXを見ています。ゴー☆ジャスさんも「この人定期的にXで話題になってるな」と注目していました。有料会員はブックマークをフォルダ分けできるようになっているので、案件ごとに参考になりそうなものを入れています。
そんな突飛な方をフォローしているわけではないんですけど、「いいね」やブックマークしたアルゴリズムでタイムラインに現れるものを見ています。インプレッションが伸びているものには「いいね」するので、バズっているものは出てくる。みんながいいと思うものはこれか、と。世間との感覚を確かめています。

また、テレビCMをつくるときにはテレビをつけっぱなしにしています。並びで見ることを意識したり、ボーっと見ている人の見え方を実感したり。最近のCMは主張が強いから静かめにしようなど、まわりから考えることをしています。

それから、読書。社内に読書部をつくって部長をやっています。小説は映像以上に没頭できるもので、主人公になりきって一体化しちゃうんですよね。10代の商材を扱うときは、『桐島、部活やめるってよ』を読んで学生の気持ちに戻ります。今これが流行っているとかではなく、普遍的なインサイトですね。その感覚を忘れないように。

ブレイクスルーは「#本田とじゃんけん」『パンの赤ちゃん』

―自身にブレイクスルーを与えた仕事はなんですか?

サントリー ペプシ「#本田とじゃんけん」です。読売広告社にいたときに担当したもので、最初の案は「本田とPK」でした。でもそれだと普通になってしまう。企画の二度見度を上げるために、先輩たちと話し合い、じゃんけんになりました。
ブレイクスルーとなったポイントは、出した後にものすごく二次創作されたこと。みんなが見たいものを提供すれば、自然とみんな遊んでくれて、広告出稿量以上のリーチが取れるとわかりました。生活者が能動的に「やってみたい」「遊べそう」と思うものにできれば、嫌われない広告がつくれると思った仕事でした。

 

―本田さんのセリフが秀逸でした。彼を想定して書いたんですか?

はい。本田さんと現場でも語尾などをすり合わせをして「これだったら」というものができました。本田さんの記者会見をめちゃくちゃ見て研究して、強気の本田さんに擬態して書きまくりましたね。

それから『パンの赤ちゃん』もブレイクスルーとなった作品でした。広告ではない表現へのチャレンジで、人が「楽しい」「可愛い」と思える時間をつくるのがミッション。つくったあと、逆に冷静に広告と向き合えるようになりました。広告はオリエンに応えるべきと、自分の中で整理された。これまでコンテンツに擬態する広告をつくっていましたが、広告は広告として目標に向かっていくべき。その過程がおもしろかったり、人に共有したくなる要素を持っていればいい。自分の中で大事なことが明確になりました。オリジナルと広告の両軸をやっていけたら、いい相乗効果が生まれると思います。

この楽しい仕事をいつまでも続けるためには

―今後やってみたいことは。

今、オリジナルで5つほどつくりたいものがあります。アニメーション表現のおもしろさを知ってしまったので、深堀りしたい。『パンの赤ちゃん』の続編もつくりたいと思っていますし、CGではない2次元のアニメーションもやってみたいです。
あとは地味な話なんですけど、できるだけこの仕事を続けたい。広告業界は30、40代がボリュームゾーンで年代的にはどうしても先細りしていくところもあるじゃないですか。そのことにもの悲しさを感じるんです。できるだけこの楽しい仕事を続けたい。そのためにどうすればいいかを模索しています。

―秘訣を僕にも教えてほしいです。

いろいろな人に聞いたのですが、やっぱり「健康」だと。夜型をやめて朝方にして、朝の3時間は企画をするとかルーティンを積み上げることが大事だとおっしゃいます。あとは無邪気であり続ける、ちゃんとおもしろがれる人間でい続けたいです。生活者の気持ちを忘れて広告人間にならないように。どう無邪気でいられるか、この先重要なところだと思っています。

―僕もつまらない広告人間にならないように気をつけて生きていこうと思いました……!ありがとうございました!

text:矢島 史  photo:村上 拓也

市川晴華
CHOCOLATE Inc./プランナー、クリエイティブディレクター
1990年生まれ。ちょっとでも楽しい気持ちになれる企画を目指している。サントリーペプシ「本田とじゃんけん」「クールポコ」、アロンアルフア「時間が余るCM」「ウルフアロン」、ハットの日「ハット首脳会談」、アース製薬「片手でモンダミン」、サントリー特茶「特茶クリスマス」、中京テレビ「テレビを知らない子供たち」「4と鳴く犬」など。2024年に短編アニメ「パンの赤ちゃん」企画・監督。 ACC審査員、BOVA審査員、MACA審査員などを担当。