箭内: あと、今日もそうですけど、必ずカメラを首から提げてらっしゃいますよね。で、おもむろにシャッターを押すじゃないですか。
浅葉: 写真はたくさん残ってますね。
箭内: それはどういうことなんですか。意味合いと言うと野暮かもしれませんけど。カメラ提げてないとこ、見たことないので。
浅葉: 先生は立木さんなんですよ、立木義浩。あの人に教わって、カメラずっと持ってるんですよね。あと日記ね、日記もずっと続けてます。読むの大変なんですよね。今日は持ってこなかったけど、日記も本になってるんですよ(『ASABA'S_DIARY』)。
箭内: 拝読します。
浅葉: いやいや、人の日記読むの大変じゃないですか。
箭内: どういうことを書いてらっしゃるんですか。
浅葉: その日にあったこと。そんな感じですね。毎日書いてますね。
箭内: 今日も書かれる?
浅葉: うん、でも一行ですね、最近は。
箭内: いつからですか。日記は。
浅葉: 少年の頃ですね。ボーイスカウト入ってたんです。記録係をやって て、ずっと記録をつけることになっちゃって、その関係もあるんですよね。実家は金沢文庫なんですけど。
箭内: あ、生まれ育ちが?
浅葉: 環境がよかったですね、山があって海もあって。あと金沢文庫っていうのは、鎌倉時代の国会図書館みたいなものですから。昔からの書とか詩が残ってて。
箭内: 土地の名前に「文庫」がついているのもなんとなく不思議で素敵ですし、そういう場所で育つと文字や言葉がより身近なものになるんでしょうね。
浅葉: 門番がいるんですよ、博物館に。で、隙を見てうしろにピタっとくっつく。それでスッと上がって入っちゃうんですよね。そしたら出てくるときに見つかって「あれ、こんな子、どこから入ったのかしら」って。そうやって散々いろんなものを見て帰ってました。 そう言えば、ある日、藝大の先生が金沢文庫を見に来たことがあって、僕は絵を描いてたんですよ。それで絵の横に題名を入れてたんですけど、その人が字を褒めるんです。「この字、だれが書いたの? 君?」って。絵は褒めてくれない(笑)。
箭内: でも字は絵である、じゃないですけど、バランスであったり佇まいであったり、文字は一番ミニマムな絵でもありますよね。
浅葉: そうですね、今回の文化祭(エンジン01 in 加賀温泉)もゲストで書家の沢村澄子さんに来てもらって、1時間くらい書とデザインのお話をしたんですね。結構、お客さんたくさん入るんですよ。で、昼からは卓球大会(笑)。
箭内: やっぱり書道っていうのは、なんて言うんですかね。礼儀とか、呼吸とか、姿勢とか、それこそ絵画やデザインにも共通するバランスだったり、すべてが入ってますよね。
浅葉: 書の合宿なんか行くと、みんなずっと墨を磨ってるんですよ。なかなか書かない。ずっと磨ってる。そこから悩んでね、全員で書くんですけど。
箭内: いつになったら書けるんだろうと思いながら、心をこめて墨を磨る、それはすごく大事な時間なんでしょうね。そう言えば、僕、何かの審査会で昔ご一緒したとき、浅葉さんがふと「日本人にとってひらがなというものが、とっても大事な素晴らしい宝なんだ」って話をされてて、ハッとしたんですけど。
浅葉: ひらかな、カタカナ、漢字。そしてローマ字。そんな国民あまりいないんですよね、4つも使いこなしているのは。でも、文字の世界は広くて、トンパ文字みたいな発見もしちゃって。
箭内: トンパ文字もそうですけど、さっき拝見した冊子にあった水色の罫線とか、「これだ!」っていうものを見つけると、突き進んでいきますよね。あれはどういう感覚なんでしょう?
浅葉: いいの探してた、みたいな。
箭内: なるほど。水色の罫線で思い出したのが、僕、博報堂にいたとき、まだ新人の頃ですけど、隣のチームが全日空のポスターをつくってて、浅葉さんに頼んでるんだよって先輩たちが自慢してたんですよ。水色の罫線だけで海を表現するポスターだったんですけど。そうやって何をやっても浅葉さんの印がついてるし、それでいて飽きられないっていうかね。ひとつのスタイルだけどワンパターンじゃない。それ、なんなんですかね。
浅葉: 色々やってみたいんでしょうね。
箭内: それを手癖だったり慣れでやってらっしゃいませんよね。常にときめいてるというか。
浅葉: 発見がないと面白くないですよね。
箭内: それがあるから、「死ぬまでやるよ」っていうのが言えるんでしょうね。
浅葉: しょうがないですね。みんな死ぬまでやってますよ。だから100歳までやれるといいですね。
箭内: 画家の方は、100くらいまで続ける人が結構いると思うんですけど、やっぱり手を動かすことと関係あるんですかね。そうすると脳も手も衰えないんじゃないかなと。浅葉さんも手を動かされるじゃないですか。
浅葉: 手を動かすほうが血肉化されますよね。自身の血となり肉となるくらい頑張れってことなんですけど。
箭内: なるほど。血肉化。今日、結構、淡々といいお話をしてくださってますけど、浅葉さんは死生観みたいなものをお持ちなんですか。それはどうこの世を去るかということと同時に、どう生きるかということでもあるんですけど。
浅葉: あんまり考えてないですね(笑)。もう自然に、自然に生きてるだけですね。
箭内道彦(やない・みちひこ)
クリエイティブディレクター
1964年生まれ。東京藝術大学卒業。1990年博報堂入社。
2003年独立し、風とロックを設立。現在に至る。
2011年紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストでもある。
月刊 風とロック(定価0円)発行人。
福島県クリエイティブディレクター
渋谷のラジオ理事長
東京藝術大学美術学部デザイン科教授
浅葉克己(あさば・かつみ)
1940 年神奈川県生まれ。桑沢デザイン研究所、ライトパブリシティを経て、1975 年浅葉克己デザイン室設立。
以後広告界の歴史に残る数々の名作CM やポスターを制作する。
代表的な仕事に、西武百貨店「おいしい生活」、 キリンビバレッジ「日本玄米茶」パッケージデザイン、ミサワホーム「家ではスローにん。」
「ミサワバウハウスポスター」ロゴタイプISSEY MIYAKE(HOMME PLISSÉ,Good goods,132 5. , REALITY LAB. )他多数。
中国に伝わる象形文字「トンパ文字」に造詣が深い。
東京TDC 賞、毎日デザイン賞、日本アカデミー賞最優秀美術賞、東京ADC グランプリ、旭日小綬章など受章歴多数。
東京TDC 理事長、東京ADC 委員、JAGDA 理事。東京造形大学、京都精華大学客員教授。桑沢デザイン研究所10代目所長。書家・石川九楊に師事。卓球六段。


