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箭内: ちょっと別の質問をしてみると「働き方改革」ってどう思いますか。いま、それはとても大事な考え方だし、時代に必要なものの一つだと思いつつ、いや、そうじゃないでしょみたいな話をすると、なんですかね? 年寄りが何ほざいてんだみたいになるかもしれないけど、タナカさんの働き方を振り返るとね、もういつ寝てるんだっていう感じで(笑)。

タナカ:すみませんね(笑)。他人には強要しないってことは決めているんですけど。でも、自分では集中すると本当に休み時間もなし、飯も食わないでずっとやるみたいなところがやっぱりあって。

箭内: だから「クリエイティブモンスター」って名つけたんですけど。でもやっぱり本当は、人生の中のどこかで集中して取り組む時間がないと、すごいものっていうのはつくれないんじゃないかなって思うんですよ。

タナカ:人生の中での幸せの価値観は人それぞれですからなんとも言えないですけど、クリエイティブを本当にやっていきたい人は、自分の限界を超えて多量に創作することで、量が質を転化させる経験がないと、クリエイティブジャンプってできないと思う。アイデアをたくさん出すとか、ものをたくさんつくるとか、実際の完成物じゃなくてもプランやスケッチだけでも、ひたすら量をつくり続ける中で、あるとき質がゴロッと変わるんですよ。
だから本当にトッププロとしてやっていきたいなら、まずはものすごい量をつくって、あるとき自分のクリエイターとしての体質がガラッと転化するまではやらないと。働き方改革でほどほどに「僕はこれで、じゃあ」っていうことを延々繰り返してるだけだと難しい気はしますよね。野球とかサッカーで考えるとわかりやすい。大リーグとかプレミアリーグまで行きたいなら、そこは体質改善して、やらなきゃいけないことだから。

箭内: それぞれの自由がありますから。

タナカ:ただ、いまって、やらなきゃいけないことに没頭する時間がなかなかないですよね。バランス取らなきゃいけないことが多いじゃないですか。まず事務的ないろんな処理。メールからなにから。あとお金の話とかもあって、例えば美大を出て新人のデザイナーとして入っても、デザインしてる時間は昼間はなくて、結局営業と一緒に打ち合わせやってるだけとかね。で、打合せだけ異常に多いみたいな。それもかわいそうですよね。つくりたい人にしてみれば。でも、どっちかと言うと会社は、つくるのは外に出して「お前は頭の部分だけ」っていう話で、頭と手を分けられたりする。

箭内: 手を動かさないと頭が働かない部分ってありますからね。ところで最近のことも聞いてみたいんですけど、タナカさん、またユニクロの仕事をされてるじゃないですか。これは僕はすごく象徴的なことだと思っていて。

タナカ:最初は確か10年くらい、1999年から2007年まで携わらせてもらったんですけど、それってちょうどユニクロのビジネスが、1000億から1兆に近いところに成長する時期と重なるんですよね。企業が1000億から5000億の規模になるあたりが、ブランドを形成するすごく面白い大事な時期で、本当にいろんなチャレンジをさせてもらって、社会現象にまでなりましたから。強固なブランドを創るということの基礎はつくれたと思うんです。
それで、もう一回呼ばれたとき柳井(正)さんから「タナカさん、いつも言ってましたよね。『僕はユニクロの社員よりユニクロというブランドのことを本当に考えてる』」って言われたんですけど、実際、僕らは自分たちのやっていることがブランドの基礎になると思って本気で取り組んでましたから。たんにクライアントの好みに合わせた上手なプレゼンをしようってことではなくて。本当のことを本気で向き合うそのコミットメントのあるなしがすごく大きいんですよね。だから、宿命的なものを感じるというか。

箭内: やっぱり出会いは大切なんでしょう。そういうふうに仕事できたら素敵だなと思いますけど。あれ、もう30年近く前ですよね。タナカさんに「早くアートに戻ってください」と言わされる役目を負いましたけど、ここまで来たら逆にい続けてほしいと思います。

タナカ:まあ、さっきも言ったみたいに、すべてをできるわけでもないんですけどね。でも、やるとなったら、その企業やブランド、プロジェクトの社会的意義に自分も賛同してるわけですから。リスペクトするのはもちろん、愛情や情熱を注ぎますし、きちんとコミットメントしたいと思います。

箭内: いやー、それにしてもタナカさんって、全然変わらないパワフルさで、到底今年65には見えないですよね。40代にすら見えますよ、いま。

タナカ:本当に? 今日は箭内とのブラフマンつながりでロックな恰好してるから(笑)。人からは「いやあ、ほんと、あんた体力あるね」と言われるんですけど、体力というのは肉体的な体力というよりも、精神的な体力で、心技体が大事ですよね。

text:河尻 亨一  photo:広川 智基

箭内道彦(やない・みちひこ)

クリエイティブディレクター
1964年生まれ。60歳。東京藝術大学卒業。1990年博報堂入社。
2003年独立し、風とロックを設立。現在に至る。
2011年紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストでもある。
月刊 風とロック(定価0円)発行人。
福島県クリエイティブディレクター
渋谷のラジオ理事長
東京藝術大学美術学部デザイン科教授

タナカノリユキ(たなか・のりゆき)

クリエイティブディレクター/ アートディレクター/ 美術家 など
1985年、東京芸術大学院美術研究科修了。アートやデザインといった枠組みを越え、ビジュアルコミュニケーションに関わるクリエイティブ領域で幅広く活躍。
国内外の個展やコミッションワークなどの自身のアートワークと共に、プロダクト、空間のデザイン、MV、CM のディレクション、広告、CI からブランディングまで。クリエイティブディレクター、アートディレクターとして国際的に活動。
ユニクロ、資生堂グローバルのクリエイティブディレクションなど。最近の仕事に、アサヒグループHDの新ロゴマークデザイン。