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一倉: 飽きたことはないですね。むしろ、ますますというか。

箭内: ますますですか?

一倉: まだ行けるぞっていう。言葉に関しては、まだまだあるでしょうっていう気はしますね。

箭内: それは希望を手渡される話です。若いコピーライターに対してアドバイスとかありますか。苦労してる人もいると思うんですけど。

一倉: そうでしょうね。まず言葉を軸に企画を立てられる機会が、もうほとんどないんじゃないですかね。まずタレントありきで、仕組みづくりとか、どうやって世間をざわつかせるかみたいなところから入って、企画ができたあとで、じゃあコピーどうする? みたいな話になりがちなんじゃないかな。外から見てるとそういう気がします。
いまってコミュニケーションがすごく拡散していて、エクスペリエンスがどうのこうのなんて言われたりして、複雑過ぎる話になってる。そう言うと暗くなっちゃうんですけど、でも、その中でなんとか戦っていくしかないし、やはり人間にとってのコミュニケーションの中心には言葉があるはず。その言葉は絶対に感情があるはずだし、ニュアンスがあるはず。そこをうまく使っていきましょうよってことしか言えないかな。

箭内: でも、バランスを失っていることに対して世の中は、待望したり、渇望したりっていうね、 そういうこともあるはずだと思うんですよね。だからこそ、時々すごく言葉がこう沁み入ってくる歌がヒットしたりとか、まだなくならないじゃないですか。

一倉: そうですね。歌にはその力がある。でも、最近のCMって歌が聞こえてこないじゃない? ナレーションが多すぎるってこともあると思うんですけど、本来ならタイアップ曲として、それこそ箭内さんの仕事で言うと、斉藤和義さんの『メトロに乗って』(東京メトロ)だって、歌詞がちゃんと聞こえてきて、それがコピーにもなってましたよね。

箭内: そう言えば一倉さん、『ウエディング・ソング』(ゼクシィ)だったり『おつかれさまの国』(アリナミン)だったり、和義さんのCMソングの作詞もされてますね。

一倉: 『ウエディング・ソング』は最初、CM用の30秒のバージョンだけ曲をつくってもらったんです。そしたら彼のほうから、フルバージョンにしませんかって言ってくれて、その日のうちに歌詞を送ったんですけど。あと、アリナミンでもご一緒して、信頼関係ができたので、資生堂の「IN&ON」のときは、詞も僕ではなく、斉藤さんにお任せしたんです。同世代のアイドルたちと40代になって再会するという企画で、かつて僕らが好きだった資生堂のCMのオマージュのつもりでした。斉藤さんには「20年ぶりに会った同級生たちに捧げるラブソング」にしてほしいとオーダーして。それでできたのが『ずっと好きだった』。斉藤さんの書く詞はすごいなと思います。
ほんとにロックで言霊も感じます。「ずっと好きだったんだぜ」の“だぜ”がすごいとだれか言ってたけど。

箭内: 和義さんの曲に「ジョンとヨーコ」とか「太郎と敏子」とか、有名なカップルの名前を並べていって「きみと僕」に持ってくるのがあるじゃないですか(Don't cry baby)。ある種、コピーライター的と言うとあれですけど、ああいうのは広告のつくり方に似てるって思いますね。一倉さんは、僕が仲いいTHE BACK HORNの山田将司に詞を書いてたりもして(鏡月CMソング『きょう、きみと』)、歌詞もたくさん書かれてると思うんですけど、音楽のルーツみたいなものはどこなんですか。

一倉: 一番尊敬するアーティストは、ポール・サイモンです。サイモン&ガーファンクルに『ブックエンド』という曲があって、セントラルパークのベンチに、老人がまるでブックエンドのように座っているっていう。ラブソングではないこんな歌が、ポップスとして世界的に売れたのはすごいなと思って。

箭内: なるほど、そうなんですね。今日は色々お話聞いてきましたけど、若い人っていうことでなく、一倉さんご自身は今後どのように言葉の生命力を世の中に放っていこうと思われてますか。さっき「まだまだ」というお話もありましたし、まだバトンを渡しきってるわけじゃないじゃないですよね? 何歳ぐらいまで続ける予定ですか。

一倉: どうなんですかね? できればずっとやっていたいんですけど。でももう、クリエイティブディレクターなんて名乗らないで、そこはお任せして。
言葉の職人に徹したいかな。出来上がった企画に対して、少なくともコピーはこうしたほうがいいんじゃない? とか、こうやれば最後のピースがはまるよ、とか……。そういう立場だったら、すごく役に立てそうな気がする。

箭内: 全体の構造を俯瞰した上で、アドバイスをする。ある種、CDのCDでもありますよね。レスキュー・コピーライターですよ(笑)。

一倉: いいですね、駆け込み寺みたいで(笑)。

text:河尻 亨一  photo:広川 智基

箭内道彦(やない・みちひこ)

クリエイティブディレクター
1964年生まれ。60歳。東京藝術大学卒業。1990年博報堂入社。
2003年独立し、風とロックを設立。現在に至る。
2011年紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストでもある。
月刊 風とロック(定価0円)発行人。
福島県クリエイティブディレクター
渋谷のラジオ理事長
東京藝術大学美術学部デザイン科教授

一倉 宏(いちくら・ひろし)

コピーライター/クリエイティブディレクター
1955年、群馬県生まれ。
筑波大学卒業後、1978年サントリー株式会社に入社。
宣伝部(制作室)にコピーライターとして勤務。
1987年より仲畑広告制作所、1990年より独立し事務所を設立、
現在に至る。港区赤坂に30年以上、屋号は一倉広告制作所。
主な仕事歴として、サントリーモルツ、ソニーウォークマン、
パナソニック美容家電、NTTデータ、ANA、積水ハウスなど。
ファミリーマート、リクルートなどの C.I.タグラインも。