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箭内: だから、こじつけじゃないんだけど、「ふるさと」は「くまモン」までつながってるんじゃないかと(笑)。番組タイトルにある「恋」もそうですけど、「夢」だったり「明日」「旅立ち」「卒業」なんかも、千春さんのキーワードじゃないですか。そういうものが小山薫堂さんの仕事の中に魂としてあるからいいんだなと思います。

小山: でも、箭内さんの仕事の中に、あんまり松山千春さんの影響は見えないじゃないですか?

箭内: いや、そんなことないですよ。僕が福島のことやってるのはたぶん千春さんにとっての北海道みたいなことで、ふるさとと向き合うっていうのは、千春さんに教えてもらったことでね。だから、なんかロマンチックだったり、みんなを喜ばせたりっていうのも。

小山: どこかでつながってはいますよね。

箭内: 人ってやっぱりそういう原体験とか原風景がありますよね、それぞれに。恥ずかしいこととか隠しておきたいみたいなことも含めて。それで言うと薫堂さんのやってる企画って全部、自分に関係してるじゃないですか。

小山: 自分には関係してますね。

箭内: まったく自分と切り離して、技術だけで企画することってないんじゃないかな? と思うんですけど。

小山: 僕、いつも仕事をするとき、自分に問う3つのことがあって、まずひとつは「それは新しいか?」。つまり、だれかの亜流になってないかということ。もうひとつは「それは自分にとって楽しいか?」。こう言うとよく勘違いされるんですけど、「楽しい」という字と楽ちんの楽って同じ字だけど、楽しいから楽だとは限らないし、楽なものを楽しいと感じちゃいけないと思うんですよね。本当にワクワクしながら仕事ができているかが大事。
で、もうひとつが一番大切で「それはだれを幸せにするのか?」という問い。この3つが揃うとベストなんですけど、それはなかなか難しくて。どこか一部被ってるような企画なんだけど、だれかがめちゃくちゃ幸せになるんだったら、これでいいじゃんとか、そういう気分で考えてますね。結局、究極の企画は何かと言うと、自分も含めたみんなを幸せにするものだと思うから。

箭内: そのためにはまず、自分が楽しくないとね。

小山: それにしてもまさか松山千春さんの話になるとは思わなかったです(笑)。

箭内: いや、それは話のきっかけでね、広告の話もちょっと聞いてみたくて。ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSの審査委員長をされたりしてますよね。あのメディアクリエイティブって部門、僕、引き継いで2年間審査委員長やったんですけど。薫堂さんは放送作家でテレビの番組づくりをやってこられたわけで、広告をどんなふうに捉えているのか気になるんです。

小山: まず、なんで広告界とテレビ界って壁があるんだろうな? ってずっと思ってたんですね。いまもちょっと思ってますけど。でも実際にはお互い持ちつ持たれつみたいな関係でもあって、CMが面白かった頃ってすごくテレビも面白かったし、自分のサブカルチャーはCMから刺激を受けてるほうが多いんじゃないかと。例えば、ガウディという建築家の存在はCMで知ったし、アンディ・ウォーホルだってしゃべっている姿はCMで初めて見たし、昔のCMってサブカル的な文脈からコンテンツをつくるものが多かったじゃないですか。
一方、テレビにも広告的な要素がある。昔、ある局のプロデューサーが「ペリエを最初に日本人に紹介したのオレなんだよ」って言っていて、その人が海外行ったときペリエを飲んで美味しかったから、それを番組の中で紹介したら、のちに輸入され始めたみたいな経緯があるらしいんです。もちろん、雑誌の「ポパイ」なんかもそうですけど、当時は新鮮な情報を持ってくれば、それがそのままコンテンツになった時代だと思うんですよね。
いまは情報を得ることに関してはすべてがフラットになったから、つくる側も違う方向性を模索せざるをえないんですけど。でも、テレビ番組をつくる人として、やっぱりキュレーションすべきと思うところもある。ただ面白いことを考えて番組にするだけじゃなく、サブカルも含めた教養的な部分もちゃんとコンテンツにしなきゃいけないんじゃないかな? って。そのときにテレビ番組だけで完結させるのではなく、CMも同じ考え方でつくって良い化学反応が起きたらいいのになってずっと思ってたんですね。それで「東京ワンダーホテル」っていう番組(2004年)で、番組とCMを連動させたり、その後もいろんな企画を考えてきたんですけど。

箭内: その話で言うと、いまの時代ならではの可能性もありますよね。一時期はCMで「おいしいよ」って言えば「買ってみようかな?」って思ってもらいやすかったのが、「CMが言ってることってほんとかな?」と思われ始めたのがすでにずいぶん昔の話で、その後「テレビが言ってることって本当かな?」って人々が思い始めて、その反動もあって「ほんとのことはインターネットの中にあるんじゃないか?」って時代になったかと思うと、それもまた変わり始めてるのがいまだと思うんです。
その混沌の中でテレビにできること、CMにできることがまた生まれてくるような気もして。で、我々初老を迎えてね、どんな作法があるのかわからないですけど、何か使命は感じますよね。これからすべきことってなんだと思いますか。

小山: これも僕はずっと言ってるんですけど、テレビだけじゃなくてメディアの使命として、いまの社会に本当に必要なものを照らさなきゃいけないなと。この人たちこそ、あるいはこの現象こそいま重要なんだ、というものにスポットライトを当てる作業が大切なんです。でも、どうしても現実は、主体的にスポットライトを当てるのではなく、すでに光ってるものに吸い寄せられるんですよね。流行ってるものに迎合しやすいというか。

箭内: そこはCMも一緒ですね。

小山: 例えば、去年のノーベル平和賞。被団協(日本原水爆被害者団体協議会)の皆様が受賞されましたけど、そのニュースが出るまで、この団体の存在や活動を知ってる人はそこまで多くなかったと思うんです。でも世の中には、社会的に意義ある活動をしている組織や個人がもっともっと存在するはずで、そこにスポットを当てるのがメディアの使命なんじゃないかと。だからテレビ界も年に1回素晴らしい番組を表彰するだけじゃなく、次に取り上げるべきテーマの提案自体をプライズ化して、優勝したテーマを各局が予算を捻出した上でそれぞれの視点で番組にするーーという仕組みをつくるといいんじゃないかな? って思ったり。